甲斐享と笛吹悦子の息子が出る学芸会に、祖父にあたる甲斐峯秋や特命係の杉下右京たちも観覧に来ていた。しかし衆人環視の舞台で、劇を指導していた教師が刺殺される。
消えた犯人の行方を杉下は見事に推理して、あっさり被疑者はつかまった。しかし被疑者は甲斐享の起こした事件を知っていて、その情報をちらつかせながら笛吹悦子を動かす……
恒例となった元日スペシャルで、今回はテレビ朝日開局65周年記念も冠されている。演出と脚本は昨年*1と同じく権野元と輿水泰弘。
あわただしく退場して*2、演じた俳優まで芸能界を去った元相棒の甲斐亨を回想や獄中の一瞬などで再登場させつつ、後述のように事件は犯人のきわめて個人的な動機にもとづいている。
犯人も警察も行動や結果に説得力がない。一昨年*3のような重厚なメッセージの歯ごたえもなければ昨年のような軽快なエンタメの楽しさもなく、まったく感心できないまま終わった。
まず、学芸会がモチーフだからというわけでもないだろうが、登場人物が誰も彼も過剰に芝居がかっている。殺人とはいえシングルマザーに言いよる醜悪な男が被害者のライトな事件なので、当初は雰囲気にあっていたが……
しかし舞台で演劇の最中に犯人が姿を消した謎で、思いっきりホリゾントの裏に隙間があることを特命係しか気づけないことに説得力がない。もう少し不可能犯罪らしい描写にできなかったか。
致命的な問題として、事件の動機がくだならすぎる。雰囲気を軽くするような動機ではなく、むしろ演出もあわせて陰湿すぎるくらいで、せっかくの前半の軽快さが消えてしまった。
推理できた経緯も、女性は浮気男より相手の女が許せないというステロタイプを中盤に小料理屋で語りあって、それがそのまま真相に直結という安易さ。このシナリオを還暦をこえた男性脚本家が書いたこと自体がきびしい。そういう固定観念が存在することは前提にして、そこから真相でひっくりかえしていかないと意外性が生まれない。犯人の足元だけ見えた目撃証言に対して、スカートをはいているだけでは性別は確定できないと留意したのに。
そして後半のスパイ疑惑をかけさせるという国境を超えた犯罪も、根底がしょうもないのでスケールの大きな茶番劇でしかない。その疑惑をかける方法も共犯者を利用する安易なパターンで、杉下もふくめて複数の警官が監視しているさなかに荷物をいじるという粗雑な手法。
現地警察に拘束された笛吹悦子を救出する方法もC級スパイ映画のような勢いだけ。せめて韓国の映画やドラマのように銃撃戦やカーチェイスが派手であればアクションとして楽しめたのだが……少しだけ見た『VIVANT』には良くも悪くもそれがあった。