1.ムコダイン・カルボシステインはどのような薬か
最初にいえば、ムコダインとカルボシステインは同じものです。より具体的にいえば、ムコダインは薬の商品名で、それに含まれる有効成分がカルボシステインという関係です。
カルボシステインは、痰に含まれる粘液成分の組成を調整する効果に加え、のどや鼻の粘膜を正常化する効果を持っています (1)。簡単にいえば、痰切りです。このため、風邪をひいたときに病院から処方される形で目にする機会が、一般にはもっとも多いでしょう。ものすごくよく効くわけではありませんが、重い副作用もほとんど知られていないので、使いやすい薬とはいえます (2)。
また、のどや鼻に対する効果を持つ関係上、耳鼻科で頻繁に利用される薬でもあります。そのほか、長期間服用を続けることでCOPDという呼吸器の病気の悪化を防ぐ効果があることも知られています (3)。このように利用可能な病気が多いことに加え、錠剤・粉薬・シロップと薬の形 (剤形) も豊富なので、老若男女問わずに使いやすいことも利点です。
2. ジェネリック医薬品とは何か
さきほど、ムコダインは薬の商品名だと書きました。しかし、現在では成分名であるカルボシステインが、そのまま商品名になっているものもあります。例えば、「ムコダイン錠」と「カルボシステイン錠」が両方ある状態です。これらは、どういった関係性なのでしょうか。さきに結論をいえば、ムコダインは先発品でカルボシステインはそのジェネリック医薬品です。では、先発品とジェネリックはそれぞれどういうものか。それは、こういうことです。
ある医薬品が新しく開発されたとします。これを先発品といいます (先発医薬品なども同じ意味です)。医薬品はどれもそうなのですが、製造販売が認められたものは、その情報が公開されることになっています。この情報には、薬の成分などに関するものも含まれるため、同業他社がコピー品を作ることも技術的にはさほど難しくありません。先発品を作ったメーカーからすれば、せっかく苦労して開発された薬をあっさりとコピーされては困ります。そこで、先発品の成分やその製造方法に特許をかけるのです。そうすれば、特許が有効である期間は自分たちだけが独占的にその薬を製造・販売できますから安心です。ちなみに、特許期間はケースバイケースなのですが、医薬品に関してはおおむね10年前後であることが多いようです。
逆にいえば、特許が切れた後であれば、堂々とコピー品を作ることが認められるわけです。こうした、先発品の特許切れの後に作られたコピー品をジェネリック医薬品といいます。後発品、後発医薬品、または単にジェネリックとも呼ばれます。
3.先発品とジェネリックで同じところ・違うところ
ここからは、先発品とジェネリックの同じ部分、違う部分を項目立てして述べていきます。
3-1. 同じところ
有効成分
これはすてに説明した通りです。
生物学的同等性
錠剤を例に説明します。薬を口から飲むと、一緒に飲み込んだ水や消化液に溶け、消化管を移動して小腸に行き着きます。ここで薬の成分が血液中に吸収され、全身にめぐります。その後、薬の成分は肝臓で解毒される・腎臓から尿中に排泄されるなどの経路で身体から抜けていき、最終的に検出できないようになります。こうした過程で、先発品とジェネリックそれぞれで血液中の薬物濃度をグラフ化したときに、その形状が同等であるならば両者は生物学的に同等であるといいます。非常に大雑把にいえば、薬を飲んでから身体から抜けるまでの、途中経過が同じであるということです。
3-2. 違うところ
名前と見た目
当然ながら、薬の見た目や名前は異なります。名前については、かつてはジェネリックメーカーが好きなものをつけていましたが、混乱を生じやすいために現在では「成分名+剤型・規格+会社名」というパターンに統一されつつあります。
剤形とは薬の形のことで、錠剤とか粉薬とか、そういうことです。規格とは有効成分の含まれる量やその濃度のことです。カルボシステインを例にすると、『カルボシステイン錠500mg「トーワ」』といった感じです。かつては、カルボシステインのジェネリックに「サワテン」や「メチスタ」などといった名前の物がありましたが、こういった方針によって名前が変更されました。
添加剤
薬には、有効成分以外の物質が多く含まれています。これを添加剤といいます。一例を挙げれば、「賦形剤」というものがあります。一般に、1回分の服用に必要な薬の有効成分はごく少量なので、それだけでは錠剤を形作ることができません。
そのため、適量となるように「かさ増し」をしてやる必要があります。この目的で加えられるのが、賦形剤です。そのほか、薬の粉に適度な滑らかさを与える「滑沢剤」や、粉同士の結びつきを強める「結合剤」などがあります。薬の効果に直接影響しないものの、薬の「形」を作るうえで役立つ物質と思えばよいでしょう。
値段
ジェネリックは、先発品に比べて安価です。これは、先発品にかかる研究開発費用や特許関連のコストが必要ないからです。通常、先発品が承認を受けるには、実際にヒトに投与することで有効性・安全性を直接チェックすることが求められます。
一方で、ジェネリックはこうした試験が課されていません。その代わりに、先発品と生物学的同等性を持つことが必要です。「すでに有効性・安全性が認められた先発品と似ているから、詳しい試験をしなくてもOKですよ」ということです。生物学的同等性も試験によって評価しますが、これにかかるコストは先発品のそれと比べれば圧倒的に小さなものです。こうしたことが、価格差として跳ね返ってきているのです。
厚生労働省がジェネリックの使用を推進しているのも、このコストの安さがもっとも大きな理由です (4)。
4.ジェネリックに関してよくある質問
Q. 添加剤が異なることによって、先発品とジェネリックで効果の違いが出る可能性はないのか?
A. まず考えられません
上で説明した通り、先発品とジェネリックでは有効成分の種類・量は同じですが、添加剤が異なります。この、添加剤の差異がもっとも懸念されやすいポイントのようです。しかしながら、これはほぼ間違いなく杞憂であるといえます。
医薬品に用いられる添加剤は、先発品・ジェネリックを問わず「医薬品添加物辞典」というリストに登録されたものが大半です。これは事前に厚生労働省が調査を行って、公的に認められた添加剤を示すものです。要するに、先発品もジェネリックも、この枠の中から必要なものをピックアップして利用しているのであって、ジェネリックが特別粗悪なもの・危険なものを使っているということはありません。
そのうえで、ジェネリックは上で説明した生物学的同等性に関する基準をクリアしているのですから、添加剤の違いによって薬が効くスピードその他に差が出ることも通常は考えられません。したがって、添加剤の違いを理由にジェネリックの有効性・安全性が先発品に劣ると考えるのは非論理的です。
Q. 生物学的同等性の基準が甘いのではないか?
A. 世界中で同じ基準が採用されています
ジェネリックの効果などが、先発品と同等であるとされる根拠は、さきほども挙げた生物学的同等性の試験です。この試験における同等性判定の基準が甘いのではないか?と考える人もそれなりにいるようです。しかしながら、これは日本独自のローカルルールではありません。具体的には、WHO (5)、アメリカ (6)、ヨーロッパ (6) のいずれも、日本と同じ基準を採用しています。というよりも、日本が国際ルールにあわせているというべきなのですが、それはさておき日本だけが特別に甘い評価をしているわけではないことは、ここからいえます。
Q. それでもジェネリックはどうにも信用ならない
A. 先発品にもジェネリックと同じ基準で承認されているものがあります
どれほど丁寧に説明しても、ジェネリックに対して拒否反応を示す人は、一定の割合でいます。ここまでくると、純粋に個人的な趣味趣向の範疇といえますから、それはそれで尊重されてよいと思います。しかしながらそのように考える方は、次のことも知っておいた方がいいでしょう。
実は、先発品にもジェネリックと同じ判定方法でもって承認を受け、販売されている物があります。つまり、生物学的同等性を満たしているため、個別の試験を免除されているケースがあるのです。具体的には、先発品の剤形・規格の追加です。
例えば、「A」という先発品のカプセル薬があるとします。この薬を販売したところ、カプセルは飲みにくいから錠剤の方がいい、という苦情が多く寄せられました。そこで、あらたにAの錠剤を開発しました。ではここで通常の先発品と同じように、ヒトを対象とした試験を一からするかといえば、普通はしません。その代わりに、「Aカプセル」と「A錠」が生物学的に同等であることを示せばOKなルールとなっているからです。
同じことが規格追加にもいえます。ある薬「B」の5mg錠剤が最初に開発された後、倍量の10mg錠を作る場合でも、「B錠5mg」と「B錠10mg」の生物学的同等性を示せばOKです。
つまりが、「ジェネリックは先発品との生物学的同等性しか評価しておらず、直接有効性・安全性を評価していないからダメ」という理屈を採用するならば、先発品の剤形・規格追加もダメとなります。しかしながら、どういうわけかこうした主張をする人にはお目にかかったことがありません。
5.まとめ
先発品とジェネリックに関する説明が思いのほか長くなりました。結論としていいたいのは、ムコダインとカルボシステインで効果や安全性に大きな違いが出ることはまず考えられないので、どちらを使っても問題ないということです。「ジェネリック=粗悪品」と考えられがちですが、ここまで読んでくださった方には、これは根拠のない推定であるとお分かりと思います。
現状、日本では先発品とジェネリックのどちらを使うかは、患者自身が選択できるようになっています (一部、例外はありますが)。どちらを選ぶかは最終的には個人の自由ですが、その選択は正確な情報にもとづいて行うのが賢明だと思います。
●ムコダインは痰切りの商品名で、それに含まれる有効成分がカルボステインである
●カルボシステインはムコダインのジェネリックの商品名となっていることもある
●一般に、先発品とジェネリックで有効性・安全性に大きな差があると考える根拠はない
●ジェネリックの生物学的同等性判定の基準は、国際的に統一されている
6.参考文献
1. ムコダイン錠 添付文書 杏林製薬株式会社
2. Chalumeau M, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2013 May 31;(5):CD003124. PMID: 23728642
3. Zeng Z, et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2017 Aug 2;12:2277-2283. PMID: 28814855
4. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kouhatu-iyaku/index.html
5. http://whqlibdoc.who.int/hq/1998/WHO_DMP_RGS_98.5.pdf
6. https://www.fda.gov/media/70115/download
7. https://www.ema.europa.eu/en/documents/scientific-guideline/guideline-investigation-bioequivalence-rev1_en.pdf