二つの皮肉な事実

 こうした力(Self-Regulated Learning Skills)は非常に重要である一方、かなりレベルの高いもので、身に付けるのは容易なことではありません。そうであるにもかかわらず、オンラインでの学習となると、教師等から受けられるサポートは、対面の場合と比べて大きく低下せざるを得ません。

 結果、様々な研究によって明らかになったのは、皮肉とも言える、以下の二つの事実でした5

 第一に、「オンラインでの個別化された学習を完結できるのは、対面での集団による学習を完結できる者だけだ(=対面での授業で困難を抱えていた学習者は、オンラインによる個別化された学習では、もっと困難を抱えることになる)」ということ。

 そして第二に、「オンラインでの個別化された学習を完結できるのは、『自ら学習を調整しながら粘り強く学習に取り組む力』が、最初から備わっていた者だけだ(=「学習が個別化されれば、自ら学習を調整できる力が身に付く」のではなく、「自ら学習を調整できない学習者にとっては、個別化された学習を進めることはできない」)ということだったのです。

 これに対して、「いやいや、MOOCsでは、学習者の理解度に応じた問題が提示されるわけではない。だから、これは『個別最適な学び』なんかではない」という反論があるかもしれません。

 なるほど、では、「Duolingo」はどうでしょうか? Duolingoは、5億人以上が学ぶ(2021年時点6)、世界で最もポピュラーな語学学習アプリです。

DuolingoDuolingo
拡大画像表示

「AIと言語科学の長所を組み合わせたレッスンは、一人ひとりの学習状況によって常に変化するため、誰もが最適なレベルとペースで学習することができ」、Duolingo自身も「Personalized Learning」であることを謳っています7。それだけではなく、Duolingoは、「Gamification」というアプローチを採用しています。これは一言で言えば「学習のゲーム化」です。

>>2回目「楽しそう!でも続かない…個別ICT教育に内在する教育格差“再生産”システム」へ続く

■備考・追記
1 こちらのYouTubeで、実際に子どもたちが使っているところを見ることができる(最終確認2023年10月8日)。
2 中央教育審議会『「令和の日本型学校教育」の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜(答申)』(2021年1月26日)
3 Bloom, B. E(1984). The 2 sigma problem: The search for methods of group instruction as effective as one-to-one tutoring. Educational Researcher, 13(6),4–16.
4 中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会『教育課程部会における審議のまとめ』(2021年1月25日)
5 Reich, J.(2020). Failure to Disrupt: Why Technology Alone Can’t Transform Education. Cambridge: Harvard University Press. を参照。
6 2021 Duolingo Language Report(最終確認2023年10月8日)
7 Duolingoホームページ(最終確認2023年10月8日)

※『元文部科学省キャリア官僚が問う!教育改革を「改革」する。』刊行記念イベントが2024年1月16日、オンラインで開催されます。著者の寺田拓真氏と、京都大学大学院教育学研究科・石井英真准教授が『「現場発」の教育改革を創造するには?』をテーマにディスカッションします。詳細はこちらからご確認ください。

寺田 拓真(てらだ・たくま)
広島県総務局付課長。1981年、神奈川県秦野市生まれ。ミシガン大学教育大学院修士課程修了(2022年、学習科学・教育テクノロジー専攻)、早稲田大学法学部卒(2004年)。2004年に文部科学省に入省し、教育改革の司令塔、教育投資の充実、東京オリンピック招致などを担当。2014年より、広島県教育委員会に籍を移し、学びの変革推進課長として、教育改革の企画立案と実行、県立広島叡智学園中・高等学校の創設、ふるさと納税を活用した寄附金制度の創設、高校入試制度改革、高校生の海外留学促進などを担当。2021年には、立命館アジア太平洋大学(APU)の特別研究員も務める。3児の父。