- 1二次元好きの匿名さん24/01/03 16:47:32
「トレーナーさん宛のファンレターもあるんですか?」
「数は少ないけれど普段から送られてくるよ。これもデジタルのおかげだね。」
「へー、いろんな人がいるんですねぇ……。」
学園としてもあまり推奨していない文化なのだが、送られてくるからしょうがない。
アグネスデジタルは自分自身へのファンレターを抱え込みながら、こちらを見てキョトンとした顔をする。
彼女にも見えやすいように便箋をひらひらさせると、彼女はさらに不可解そうに首を傾げた。
夜のトレーナー室で二人。落ち着いた時間。かさりと紙をめくる音。
手紙の内容を読み上げる。
「うん……『アグネスデジタルさんのトレーナー様へ。デジタルさんのファンです。あなたをレース場で見かけて以来ぜひ話をしてみたいと思いました。もしよければこの連絡先まで……』。いやあこれはもうそういうお誘いの手紙だな。」
「ふぇっっぁ!?!?」
珍妙な声を発した担当を置いてさらに読み進める。
質素だが上品な便箋に、丁寧な手書きの文字。
更には恐らく送り主だろう。女性の写真が何枚か添付されていた。
それをデジタルにも見えるようにテーブルの上に置く。 - 2二次元好きの匿名さん24/01/03 16:48:20
「おお……」
「…………綺麗な方ですね。」
デジタルが小さくつぶやいたが、全く同じ感想だった。
ウマ娘というのは基本的にかなり優れた容姿を持つが、それにしても彼女は相当なレベルだった。
年齢は高等部のデジタルよりも更に一回り年上だろう。大学生といったところか。
手紙は連絡先や写真以外にも、会って一緒にご飯を食べたいなどといった用件が綴られていた。
しかし、ファンレターでこのように相手に直接会うことを目的とした内容を書くのは、決して褒められたことではない。
これが仮にデジタルに送られたものならばすぐに控えをとってこちらで保管し、デジタルまで届くことは無かっただろう。
とはいえ……これは大人であるトレーナーに送られたものである。
「……えっ? えっ、えっ? い、行きませんよね? トレーナーさん⁉ あの!?!? 悪い人かもしれませんよ!!」
「……………………………………」
……アグネスデジタルのファンならばそこまで悪い人ではないのでは?
デジタルのファンという時点で相当な善人な気がする。恐らく趣味も会うだろう。人を見る目もあるはずだ。
「なるほど……」
「なるほどじゃありませんが!? ちょ、トレーナーさん!?!?」
あまり根拠のない確信が胸の中を満たし、勇気が湧き出てくる。
そう。もし仮にこの写真の彼女と共に推しウマ娘のアグネスデジタルについて語り合えるならば、それは得難い機会のように思えた。 - 3二次元好きの匿名さん24/01/03 16:49:05
「……………………」
「ちょ、ちょちょ、スト――――ップ‼ ストップですよトレーナーさん‼ お願いします待ってください‼ どう考えてもこれ……!!」
しかし、心の中の冷静な部分がブレーキをかける。
冷静に考えて、デジタルのファンというのも本気がどうかも怪しい。そもそも完全ないたずらという線もある。
そしていくらお誘いが魅力的でも、トレセン学園のトレーナーともあろうものが嬉々としてファン相手に出会いを求めるのは、世間体上非常によろしくない。
総合すると、どうしても断った方がいいという結論に落ち着く。例え相手がいくら美人でも、だ。
折角のお誘いなのに断るなんて無駄に損した気分になるが、それでもふっと息を吐いて煩悩を吹き飛ばす。
「……しょうがないな。これはこっちで処理しておくよ。」
「……あっ、えっ、待って。待って……、お願い、やだ……」
デジタルが小さな声で何かを言っていたがあまり気にせず、そっと卓上の手紙に手を伸ばす。
惜しい気もするが、これもまた控えをとって保管するしかないだろう。
紙のふちに指をかけ、摘まみ上げると、デジタルが“あっ……”と本当に小さく啼いた。
そしてそれを手元に引き寄せた時、事は起こった。 - 4二次元好きの匿名さん24/01/03 16:49:53
「…………ダメッッ!!!!!!!」
デジタルが声を荒げる。
まるで何かのスイッチが切り替わったかのような豹変だった。
彼女はこちらにとびかかり、そのまま力任せに手紙を奪い取った。
その次の瞬間には、デジタルはそれをズタズタに引き裂いてしまう。
「…………え?」
間抜けな声が自分の口から漏れる。
デジタルはギリギリと歯を軋ませながらも、恐ろしい程無感動に握りこんだ手紙の残骸を見ていた。
呆然とその様子を見ていると、ギロリとこちらに視線を向ける。
無表情。しかし彼女の瞳の奥には、非常に危険な光がちらついていた。
長い間担当してきた担当ウマ娘のただの一度も見たことのない表情と言動に晒され、完全に凍り付いてしまう。
「…………………………………………」
酷く重い沈黙が部屋を満たし、互いに身動きが取れず固まる。
カチカチと鳴る時計の音と跳ねる自分の心臓がうるさい。 - 5二次元好きの匿名さん24/01/03 16:50:19
「……デジタル?」
「………ぁ」
始まりが突然なら、終わりも唐突だった。
恐る恐る名前を呼びかけると、急にフッと彼女の光が抜け落ちる。
そしてただ呆然と。
彼女は立ち竦み。
自分が何をしたのかを後から自覚したらしく。みるみる顔色が悪くなっていく彼女を何もできないまま見届ける。
そして彼女はゆっくりと時間をかけてジワリと涙をにじませて、震えて消えてしまいそうな声でこう言った。
「ぁ……ご、ごめんなさ……あっ……」
「ごめんごめん本当にごめんこっちが悪かったデジタルちょっと落ち着こう!! な‼」 - 6二次元好きの匿名さん24/01/03 16:50:46
「どうか……どうかお忘れを!! トレーナーさんは何も見ていない!! いいですね!!」
「わかった忘れるから……」
号泣するデジタルを宥め続けて10分。
『バレちゃった……バレちゃった……』とつぶやき続け挙動不審な彼女を観察すること5分。
なんでこんなことをデジたんはぁ……!! と後悔し身悶えし続けること5分。
計20分でアグネスデジタルはだいぶいつもの彼女に戻ってくれた。
顔を真っ赤にして涙目の彼女は、恨みがましくこちらを睨みつけてくる。
うーっとかわいらしく唸って、何処か諦めたようにこう続けた。
「そう……こう……デジたんはですね、トレーナーさんの事が結構本気で好きな訳でありまして……」
「……ああ」
それはもう互いに認めるしかなかった。
「あの……あたしもこんなんですけれども普通に嫉妬したりとかするわけでして。ええ、別にトレーナーさんが誰と付き合っても文句は言えないんですよ。でも誠に勝手なお願いなんですけどあまりこちらに伝わらないようにして欲しいというか……」
「本当に申し訳ない。今回は悪ふざけが過ぎたよ。」
「いえいえ!! そういう事ではなくてですね!!」
中々いじらしいことを言ってくれるが、彼女はそれでも破れた手紙をギュッと握りこんで返してくれない。 - 7二次元好きの匿名さん24/01/03 16:51:33
正直ここまでされると流石に情が湧いてくる。
負担になってしまいそうだから口に出しては言わないが、彼女が卒業するまでは彼女は作らないでおこうと心の中で決めた。
「えっとですね。 さっきのあの態度については本当に忘れて欲しいというか……あんなの本心じゃなくて……。 トレーナーさんに怖がられたり、嫌いになられても当然ですけど……」
「大丈夫、デジタルのことはよくわかってるよ。あまり気にしないで。」
そして彼女にとってむしろ切実なのはこちらの話のようだった。
彼女には言えないが、あれは間違いなくデジタルの本心であり、本性の一部でもあった。
とても穏やかな気性の彼女にも、あのような一面があるのかと内心驚愕する。
デジタルがレース中に時折見せる強烈な闘争心。今の豹変はそれに似た何かだった。
ウマ娘の強さというのはこういうところからきているのだろうか。
もにょもにょと言い訳を続ける彼女を見ながら、自分の感情の整理をつける。
もうすっかりいつも通りの彼女だったが、それでも何故かいつもよりも魅力的に映った。
「どうか……どうかこれまで通りに接していただけると……!! デジたんこれ以上は求めません!! だから……どうか契約解除だけは……!」
「ギャップ萌えってやつかな?」
「フェッッ!?!?!?!?!?!? あ、そう解釈してくれる感じですか!?!?」
意外なほどスッと当てはまる言葉が出てきた。
そっとデジタルの頭に手を伸ばし、撫でる。
「大丈夫だよ、デジタル。気が付いてあげられなくてごめんね。これからも一緒に頑張ろうね。」
彼女は一瞬驚いたような仕草をした後、そっと目を閉じてそれを受け入れた。
そのままホッとしたのかもう一度泣き出してしまい、ならばともう一度彼女を抱き寄せた。
よしよしと撫でているとまるで彼女が人を害することをしらない無垢な少女のようにも思えるが、どうやらそれも違うらしい。 - 8二次元好きの匿名さん24/01/03 16:52:12
……あの時デジタルが抱いた感情は正確にはどのようなものだったのかを考える。
衝動的なのは間違いない。嫉妬の感情もあるだろう。焦りや怒りも含まれる。
だがそのどれもどこかを捉えられていない気がしてならなかった。
違和感を感じる。そう、あの時の目はそういう次元ではなかった。
何か致命的な勘違いをしている気がする。それでもどうしても言葉が見つからず、モヤモヤし続ける。
小さな体をすっかりとこちらに預けて撫でられるのをすっかり受け入れてる彼女は、答えを教えてくれない。 - 9二次元好きの匿名さん24/01/03 16:52:40
終わり
デジタルかわいいよね - 10二次元好きの匿名さん24/01/03 16:55:10
つい最近デジタルを持っていないにも関わらず最推しになった自分にとってこれ以上ない出会い
ありがとう - 11二次元好きの匿名さん24/01/03 16:56:10
スレタイ極悪すぎて何があったのかと思ったらすげえパワーのあるssで良かったです
- 12二次元好きの匿名さん24/01/03 16:56:44
抱きしめちゃお
自分だけの女にしちゃお
こんな欲求が生まれる自分にデジトレは務まらないことがわかりました… - 13二次元好きの匿名さん24/01/03 16:58:33
どんどん余裕がなくなっていって爆発しちゃうデジたんほんとすこ
- 14二次元好きの匿名さん24/01/03 17:02:16
デジタルは確かにかわいいが、スレ主の愛情はなんか歪んでないかなあ⁉
- 15二次元好きの匿名さん24/01/03 17:04:33
トレーナーのファン喰いはちょっとな……世間体がな……
- 16二次元好きの匿名さん24/01/03 17:07:00
- 17二次元好きの匿名さん24/01/03 17:10:08
こう、てっきりカミソリレター的な奴かと思って開いたらえらいことになってた…
- 18二次元好きの匿名さん24/01/03 17:11:43
非ヤンデレな娘の感情の栓をスパイクで蹴っ飛ばしてこじ開けた時に溢れるドス黒い情念美味しいです。
- 19二次元好きの匿名さん24/01/03 17:16:49
あのデジタルが殺意を抱いたってのがもう最高
- 20二次元好きの匿名さん24/01/03 17:22:53
めっちゃ好き
- 21二次元好きの匿名さん24/01/03 17:43:31
激重感情だけどいい子なウマ娘ほんと好き
- 22二次元好きの匿名さん24/01/03 18:09:23
スイッチ入っちゃうデジタルすごく好き
- 23二次元好きの匿名さん24/01/03 18:24:06
デジたん「えっ!?ここまでして気付かないんですか!?」
デジたん「わからせなきゃ…(使命感)」