二種類の悪意
「悪意で提案を拒否した(罰を与えた)人には2種類いる」と語るのは、ダブリン大学トリニティ・カレッジのサイモン・マッカーシー=ジョーンズ准教授だ。『悪意の科学 意地悪な行動はなぜ進化し社会を動かしているのか?』の著者で、心理学の世界的権威である。
「一つは平等主義によるもので、不公平に対する怒りや正義を振りかざす快楽などの感情によって引き起こされたもの。これを『反支配的悪意』と呼び、彼らは提案者になった時には5:5の公平な提案をします。
もう一方は、人より優位でありたい、得したいという『支配的悪意』を持つ人で、提案側に回った際は不公平な提案をすることが分かっています」
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支配的悪意を持つ人は、他人より優位に立ちたいがゆえに努力を惜しまない。その結果、社会の競争を促して科学的な発明や発見が生まれた。反支配的悪意も、非協力的な行動のツケが罰となって帰ってくることを人々に認識させ、結果的に社会全体が平等へと向かっていくという側面がある。
ジョーンズ氏はこうした悪意の有用性をある程度評価している。しかし、悪意と罰の関係に着目すると厄介な問題が浮かび上がってくる。
「悪意は決して非協力的な人を是正するためではなく、相手を陥れ、自分を押し上げて相対的優位を獲得するために進化してきた。悪意ある罰により、公平性が推進されたことはあくまで副産物なのです。それを人間は上手く利用してきた。しかし、いつしか人間は罰を与えること自体が美徳であると思い込んでいると私は考えています」