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私が学生に「大規模災害のときにSNSで何もするな」と伝えた3つの理由

昨朝(2018/06/18),大阪で震度6弱の地震があり,朝からテレビやSNSで様々な情報が流れていました。それに伴って各地の災害状況,インフラの状況,驚いたことなど様々な情報が拡散(リツイート)されています。情報の拡散の背景には「自分にもできることは」と考えて,とにかく役に立つ情報を流して(広げて)いこうという気持ちがあるんだろうと思います。たしかにこういうとき,当然のことながらいろいろな人がいろいろな仕事をして復旧や救援などにあたっていますし,私でもこういうときにどうしたらいいか考えることはあります。ですが,りあえずの結論として,当事者性の低い場合が多いであろう学生には「SNSでは何もするな」と伝えました。以下その理由です。 

ちなみに私は大学教員なので直接(口頭で)伝えたのは学生ですが,もっと対象を広げてもほぼ同じことだと思います。 

理由1:いつも正しい情報を適切なタイミングで流せるわけじゃない 


災害時に限らずSNS(もテレビも新聞も)からの情報は良いものも悪いものもあります。あなたが「良い」情報を10個流した(リツイートも含む)としても,1つ悪い情報があれば台無しです。これはあなたの信用を落とすだけでなく,被災地や関係者にとって有害,迷惑なものになります。どのような情報が信用できるかを判断するのは難しいです。フォロワーが何万人もいる有名人だって信じられないようなデマを掴むことがあります。特に経験の少ない人はなおさらです。確実な情報を適切に流すことができる人はいても1000人に1人ぐらいです。その1人になる自信はありますか? 

また,たくさんリツイートされた情報はもう用済みのものが含まれます。今何が必要かを判断するのは,良い情報を選ぶことと同じぐらい難しいことです。常にSNSを見続け情報の信頼性と速報性を満たすことはやはり現実的ではないでしょう。 

理由2:本当に「役に立つこと」が分かるには知識も経験も必要

 
「被災地は情報を求めている」というのは素朴に私たちが思うこととしてあるでしょう。だからこそ情報を拡散しているのです。しかし,誰にとって何が役に立つのかというのは実に難しいです。多くの情報はNHKなどのサイトやツイートを追って確認できます。そういった状況であなた個人がSNSでできることはほぼありません。

「誰も思いつかないようなこと」というのは,例えば東日本大地震のときに言語学者の高嶋由布子さんが中心となって,適切に情報にアクセスできない状態にあった日本語に熟達していない日本手話話者のために緊急記者会見やニュースの音声を日本手話に同時通訳した放送をウェブ配信しました。これは専門性や行動力が本当にうまく活かされた事例で,多くの人にはなかなか思い至らないことだと思います。 

理由3:「役に立ちたい」心は満たされないし,あなたが疲れます 


あなたが情報を流すのはなぜか。ひとつに「こういうときに人の役に立ちたい」からということがあるでしょう。そのような心を持つことに私は敬意を払います。しかし,情報を流し続けても,役に立ちたい心は満たされません。終わりの見えない作業にやがて疲れも出てきます。今そこに疲れてしまうことはあなたにとっても良くないことではないでしょうか。 

特に大規模災害で悲惨な映像やニュースに触れ続けていると,ただ情報を集めているだけでも気づかないうちに心がむしばまれます。場合によっては寝込んでしまうこともあります。そうなってからでは遅いです。「すぐに役に立つ」ことが全てではありません。じっと待ってしばらくしてから寄付をしたって(適切な場所を経由して)ボランティアに行ったっていいと思います。ですから,今は思い切ってSNSを切って,DVDでも観るか美味しいものを食べておきましょう。

最後に蛇足な補足。「SNSによるつながり」の力みたいなものを真っ向から否定するつもりはありません。だけど,それを発揮すべき場面は「ここ」じゃないと思うんですよね。