TBSラジオ『アフター6ジャンクション』
2022年11月24日放送「カルチャー・トーク」
パーソナリティ : 宇多丸
パートナー : 宇垣美里
ゲスト : TaiTan (Dos Monos)


TBSラジオの番組『アフター6ジャンクション』「カルチャー・トーク」でDos MonosのTaiTanさんが「乗代雄介『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』」について話されていました。


■乗代雄介
『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』
(国書刊行会 2020年)
https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336065889/
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宇垣美里 ここからはアトロク秋の推薦図書月間。今夜はゲストにTBSラジオ『脳盗』パーソナリティでDos MonosのTaiTanさんをお迎えしております。

宇多丸  TaiTanさん、よろしくお願いします。

TaiTan よろしくお願いします。

宇多丸 ということで早速、入魂の一冊、発表をお願いいたします。

TaiTan 超異常言語感覚、乗代雄介著『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』。

宇多丸 これ、知ってました、宇垣さん?

宇垣美里 初めて知りました。分厚いですね、この本。

宇多丸 分厚いし、一見、「海外文学かな?」みたいに思うと「日本の方なんだ」みたいなね。

宇垣美里 題名がすごく海外っぽい。

宇多丸 そうだね。ぽいね。ぽいですね。国書刊行会で。ということで宇垣さんから本の概要について、ご紹介をお願いします。
『最高の任務』で第162回芥川賞候補となった現代文学の新星、乗代雄介がデビュー前から15年以上にわたって書き継いできたブログを著者自選・全面改稿の上、書籍化したもの。およそ600編に及ぶ掌編創作群から67編を精選した『創作』。芸術と文学をめぐる思索の旅路を行く長編エッセイ『ワインディング・ノート』に書き下ろし小説『虫麻呂雑記』を合わせた内容となっています。

宇多丸  2020年に出てる本なんですね。ちょっと前に出てる本ですけど。ちなみに今、バックに流れてる曲もTaiTanさんに選んでいただきました。これは何ですか?

TaiTan ザ・ポップ・グループの「She Is Beyond Good And Evi」っていう曲なんですけれども。僕はポップ・グループっていうバンドがすごい好きで、めちゃくちゃグルーヴィーで曲を聞いてもらったらわかるんですけど、すごい不協和音に満ちてるんですけど、どこか軽い。ずっと軽いトーンが続くっていうのでポストパンクっぽいバンドなんですけど。そのイメージとこの分厚くて、メチャクチャ笑えるこの本がすごい合うなと思って、持ってきました。

宇多丸 ポップ・グループ、1970年代末から80年代ぐらいに活躍した。

TaiTan 正に正に。

宇多丸 なるほど。これがピッタリなこの本ということなんですけど、この本を手に取ったきっかけとかあるんですか?

TaiTan この本を手に取ったきっかけは本当に今は亡き六本木のブックファーストっていう本屋さんがあって、本当にたまたま目があって、あまりにも分厚いから。

宇多丸 プラプラしてて、背表紙?

TaiTan いわゆる面出しになってて、他の本と比べても異常に突出して。

宇多丸 確かに物理的にも突出して。

TaiTan 背が高すぎるので。

宇垣美里 飛び出して見える。

TaiTan 手に取って適当に開いたんですね。そしたら、その中に入ってる一篇があまりにも面白すぎて、本屋で笑っちゃったんですよね。そんな経験初めてで。

宇垣美里 本屋さんで?

TaiTan そうです、そうです。そのままの勢いで「これは俺が読まなきゃいけないものだ」と思って、もうそのままレジに行って電車でもずっと読んでたっていう感じでしたね。

宇多丸 へえ、そうなんだ。ブログでから元々読んでたとかじゃなくて、本当に運命的にビビッときてって感じで。

TaiTan 完全に運命的に出会って、正直、乗代さんも名前を存じ上げてなかったくらいの感じでした。

宇多丸  Ceroの高城(晶平)さんが帯を書いたりして。

TaiTan そういうのも情報としては目の引っかかりになったかもしれないですけど、本当に何の前提知識なく手に取った。

宇多丸 そうなんだね。本屋で声を上げて笑っちゃうって、それはなかなかだね。

宇垣美里 ねえ。

TaiTan そうなんですよ。

宇多丸 この本のTaiTanさんから見たポイントというか、もちろん笑っちゃったんならもうそれで一発勝負ですけども。

TaiTan この『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』、大体600ページくらいに及ぶ本で3部構成になってるんですね。1部が乗代さんが学生時代からずっと書いてきたようなブログとかを抜粋して載っていて、中編が彼の創作論みたいなエッセイが載ってて、最後に書き下ろしの小説が書いてあるというような構成なんですけど、僕が衝撃を受けたのはこの第1部に当たるブログ。

宇多丸 要はショートショート?

TaiTan 正に正に。本当に見開き2ページで終わるくらいの短編もあったりするようなものがあるんですけど、それが全部面白いっていう。出会った日も本屋で爆笑して、電車の中でもずっと笑いを堪えて、これ以上いったら僕どうにかなっちゃうって思って、一回閉じるくらいすごいドキドキする体験だったんですよね。

宇多丸 それだけもう、基本的にはメッチャ笑うっていうこと?

TaiTan あんまり本で、しかもこういう小説というか創作物で笑うまで至るってかなり難しいと思うんですけど、それをいとも簡単に。しかも何回も連続してさせるのすごいなって。

宇多丸 それがこの数入ってる訳ですもんね。波状攻撃で、確かに全部一度に摂取したら危険な?

TaiTan 危険な。ちょっと体の異常を感じて止めた。

宇多丸 身の危険を感じて。

TaiTan 身の危険を感じました。

宇多丸 ということでどうだろう、これ魅力をプレゼンって。具体的に何かどこか引いていただくとか。

TaiTan 一文の所ですかね。僕が今でも覚えているんですけど。奇しくも冒頭の英語の話に関わってくるんですけど、短編のこれですね、「マウンド上、俺様宛て」っていうタイトルの短編があって。これ、シチュエーションとしては「9回裏、ノーアウト満塁、バッターは4番。ピッチャーは俺。」から始まる文章があって、つまりかなり追い込まれてる状況のピッチャーの心情風景がずっと書かれているだけなんですけど。このピッチャーは自分をこのピンチをうまく収めるために、「いや大丈夫だ。俺はずっと練習してきたし」って自分で問いかけるんですけど、段々途中から「俺は練習もしてきたし、何より英検三級も持ってる」みたいな、自分の自信を促すポイントがしょぼすぎる所に引っかかってきて、っていうだけで最後終わっていく。最後、ホームランを打たれて終わっちゃうっていうだけの話なんですけど。これを本当にたまたま開いて読んだ時に何ちゅう言語感覚なんだろうって。そうなんですよね。この文章に出会うと確かに今、僕らが見てる野球中継のピッチャーたちも意外としょうもないこと考えていたりするのかもなみたいな。想像力の駆動のさせ方がすごい面白かった。

宇多丸 確かにすごい、ここ一番の時にしょうもないことを考えてること、あるもんね、全然ね。

TaiTan あるんですよね。

宇多丸 ライブ中だって、それはあるよね。

TaiTan ありますよね。

宇多丸 俺、なんでこんなこと考えてるんだ?

TaiTan 今、屁をこいたら最前のやつにはバレるかもなみたいな。

宇多丸 それはリアルだろう!

TaiTan それはあるんですけど。そういうことをここまでの短い、コンパクトにまとめれるユーモアセンスとあと「面白いでしょ?」みたいな感じの筆致じゃないのもすごいね推せるなって、やられちゃったんですよね。

宇多丸 でもすごいよね。どういうとこをそもそも目指して、これって書かれた作品たちなんだろうね?

TaiTan それは中編の創作論みたいな所で本人が述懐というか、まとめてもいるんですけど、本当書くためだけに書いてる。誰に見せるでもなく書いてきた学生時代のブログとかがまとめられていたりするので。

宇多丸 最初から商業的に何かをする気じゃなかったわけですもんね。

TaiTan そうなんです、そうなんです。そういったところも、純粋芸術と言ったら大それてますけど推せるポイントかなという気がしてますね。

宇多丸 多分、乗代さん、この方自身が今、TaiTanさんがおっしゃったような曰く言い難い、すごいだから「面白いですよ」って推しじゃないけど、メチャクチャ「何、それ?」って変な。最後、すごい宙ぶらりんじゃないけど、「どういう気持ちになれと?」みたいな、そういう。そここそを狙ってやってる人なんだろうなって感じは数篇を読んで感じたんですけど。

TaiTan 正にそうだと思いますね。今、紹介した短編はすごい笑える方向の魅力なんですけど、もう1個、僕は絶対紹介したいなと思ってる一文があって、これはさっきご紹介した中編の部分の彼の『創作』のエッセイに出てくる一文なんですけど。乗代さんが大学時代に自分の指導教官だった法政大学の田中優子先生って、今、総長なられてる方が乗代さんのレポートとかの提出物を見てあまりにも感銘を受けて、異例のメールを返信したという、そのメールの文面が紹介されてるんですけど。中略するんですけど、あなたの才能に正直惚れてると。こんなメールを書くことは今まで一度だってなかったと。なんだけど、私は褒めても意味がなくて、褒めた結果あなたが文章で食べられるかもしれないと思ってしまうことを恐れています、みたいなことをずっと書いてるメールの文面が紹介されてて、そこもメチャクチャ感動的なんですよね。

宇垣美里 ある種、茨の道ですもんね、「そっちに行けるって思わせてしまったら…」ってことなのかな?

TaiTan みたいなことを教授との交流みたいなことを書いて、それを全然ベチャッとした感じで紹介しないというか、むしろそれに対しての乗代さんは反発する心とかを書いてもいる、この人の創作に対する解像度、異常だなっていう。前半部分であんなにケラケラ笑わせておきながら、ここまでの深度で物事を考えてるんだっていう。

宇多丸 普通、前半のこういう事をやる人ってなかなか己を見せないっていうか、ある意味実態を隠すことでその感じを保ったりするだろうに、後半ではメチャクチャ中身を見せるっていうか、これってなかなか変わったスタンスですよね。

TaiTan ものすごい自己批評的な文章とかもすごいあっけらかんと書いちゃう、この感じのバランス感覚すごいなっていう。

宇多丸 一方で、このメールを引用した直後で「私的なメールを引っ張り出して、自分の名を伏せながらネット上に公開するなんて恥知らずで恩知らずで畜生がやることだ」と。この感じ、わかります。やっぱ太宰感。

宇垣美里 あります。太宰感、ある。

宇多丸 ちょうど太宰治特集をやったところで。何かその感じもありますよね。太宰って確かにその両面があるなみたいな。今言ったメッチャ笑えるのとメチャクチャその人を…。

宇垣美里 自分を削ぐような書き方もしますしね。

宇多丸 そうそう。

TaiTan そうなんですよ。

宇多丸 それの自己分析されているところと。

TaiTan そうなんですよね。だから、そのバランスがこの一冊に収まってるっていうのが結構奇跡的な読書体験だなと思って今日はお持ちしました。

宇垣美里 ピンチになればなるほど、「英検三級を持っている」って、思い出しちゃいそうですね。

宇多丸 私が、何かというと駿台全国模試、実質2位という件を持ち出すのにかなり近いと思いますけどね。

宇垣美里 みんなにそういうのがあるのかもしれませんね。

宇多丸 本当は3位なんだけど、実質2位です。同率2人いてっていうこういう感じ。

TaiTan …。

宇多丸 …。

TaiTan リアルタイムで、見れてよかったです。

宇多丸 伝説の。

TaiTan 伝説の駿台模試。

宇多丸 でも、これ知らなかった。メチャクチャ面白そうですね、これね。我々も読んでみますね。

TaiTan 是非。

宇多丸 こういう人にお薦めみたいなとこありますか?

TaiTan シンプルにちょっと知的で笑えるものみたいなものに飢えてる人は絶対ハマっちゃうんじゃないかなっていう風には思ってるのでお薦めです。

宇多丸 ありそうでなかったというか、知らないタイプの。さっき海外文学風って言ったけど、よく見ると絵とかすごい気が抜けててね。

宇垣美里 かわいい。

宇多丸 「どういうこと?」みたいな。

宇垣美里 ゆるキャラみたいな感じですよね。

宇多丸 一冊全体、どういうこと?っていう感じがね。

宇垣美里 見た目の分厚さよりも読みやすそうですね。

TaiTan 特に前半は短編なので気になった章だけ読むとかでも全然いいかなという。

宇多丸 でも、はまってきて繰り返してたら身の危険があるから、気をつけて。

宇垣美里 場所を選んで読むべきかもしれません。

TaiTan 自宅で読むのを推奨します。

宇多丸 ってことで、改めて、本日のTaiTanさんの推薦図書をおさらいしておきましょう。

宇垣美里 今夜のゲストDos MonosのTaiTanさんの推薦図書は乗代雄介さんの『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』。こちら国書刊行会から税込3630円で発売中となっています。


■ザ・ポップ・グループ
「She Is Beyond Good And Evi」
(アルバム『Y』収録 1979年)
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