サブスクリプション化の経緯

アルテをご利用いただき誠にありがとうございます。

また2023年は、ほとんど機能向上に繋がるアップデートができず申し訳ございませんでした。

率直に実情をお伝えしますと、アルテの提供を開始して以来(先行版をリリースした一時期を除いて)収支がプラスになったことがなく、不足の費用を個人の蓄えから補填し続けてまいりました。しかしそれも限界に近づいております。他の仕事を入れて状況の改善を試みましたが、そうなるとほとんどアルテの開発に従事する時間が無くなり、維持に必要な最低限のアップデートのみとなってしまいました。

アルテは、これまでにない新しい入力方法を搭載したキーボードアプリです。そのため、最初は収支がマイナスでも極力ユーザー様の費用負担を下げ、まずは多くの方に使っていただくことに主眼を置きました。また私1名での開発ながら合同会社という形態にしたのもプレスリリースで多くの方に認知していただくためでした(プレスリリースは法人形態でない利用できません)。そして認知が広まることで費用回収できることを期待していましたが、残念ながら私費を投入する状況は変わらず、広告掲載なども試みましたが、低評価と口撃的なレビューが続いたため取り止めることになりました。

サブスクリプションに移行することで、またこうしたレビューが多発するかもしれません。しかしながら、Googleの要求仕様の変更頻度は増加し、特定の機種や特定のアプリでのみ発生する問題への対応も増え、従来の買い切りという形態では、アップデートを十全に行うことが困難となっています。そして、これ以上は私費の補填によってアルテのご提供を継続することは不可能な状況に至りました。このままでアップデートだけでなく遠からずアルテのご提供自体を止めざるを得なくなります。そのため、苦渋の選択ながら、サブスクリプション化を決断した次第です。

何卒ご理解を賜われますと幸いです。

また長文になりますが、以下もお読みいただけますと幸いです。

もう古い話しになりますが、かつてOSに日本語入力が搭載されていなかった時代には、多くの国産の日本語入力ソフトが販売されていました。しかし、OSに日本語入力機能が搭載されるようになると、買わなくても済む国産の日本語入力ソフトを購入する消費者が減少し、ほとんどの国内企業が日本語入力の開発から撤退してゆきました。今では事実上(海外の)OS事業者が日本語入力の基幹開発企業となっています。

しかし、OS事業者にとって日本語も世界の言語の中の1つに過ぎません。そして日本語は、漢字変換を必要とし、フリック入力という日本語独自のインターフェイスを用いる「技術的に例外的な言語」であって、決して優先して開発されるような言語ではありません。スマートフォン市場が立ち上がる初期には、日本語入力の開発に注力することが、OSのシェア獲得に寄与したとしても、市場が飽和してからはそうした開発動機も希薄になりました。

アルテに搭載しているターンフリックの元になった「カーブフリック」は、2011年、Microsoftが日本のスマートフォン市場に自社OSを投入した際に開発されましたが、MicrosoftがスマートフォンOSの事業から撤退したことによって、使うことができなくなりました。現在、MicrosoftはSwiftKeyという日本語を含む多言語対応の入力アプリを提供していますが、SwiftKeyにはカーブフリックは搭載されていません。

また、Googleもかつては「Google日本語入力」という日本語専用のキーボードアプリを開発していましたが、数年前に廃盤となりました。現在では多言語対応の「Gboard」で日本語入力ができますが、今後「Google日本語入力」のような日本語専用アプリの開発が再開される見込みはありません。

このように、国内企業は日本語入力の開発から撤退してゆき、OS事業者も日本語入力の開発に注力しなくなっています。

では、逆に開発に注力される言語は何かというと、それはやはり英語ということになります。そして、英語で開発した技術を応用によって他の言語の開発も進みます。一筆書きのように、単語のスペル順になぞって入力するグライド入力(企業によって呼称が違いますが、ここではGoogleが用いるグライド入力という呼称を使います)は、アルファベット圏をはじめ、アラビア語、中国語などにも採用されるようになり、前記のGboardでは、日本語という「例外的な言語」を除いて、ほとんどの言語に向けて提供されるようになりました。

一方、日本語の場合、2010年代前半には、Googleの「GODAN」や、ATOKの「フラワータッチ」、Microsoftの「カーブフリック」など、フリック入力なら2手順かかるケースの入力を1手順で入力できる入力方式が複数開発されましたが、2010年代後半になると(海外の状況とは対照的に)入力方法に関する研究や開発が行われなくなりました。これは、日本語入力についての研究が、もう開発の余地がないところまで到達したからではありません。

そうではなく、日本語にはまだ効率的な入力方法を実現できる潜在力があっても、国内・海外の企業から、それを製品として実現する動機が失われつつあります。

しかし、日々の暮しの中では、廃盤になった製品があっても、より性能の高い製品が次々に投入されることが当たり前になっているので、多くの人は、日本語入力についても他の製品と同じように「後からいくらでも新製品・新機能が投入される」とイメージしていると思います。しかし、実態としては、前記のように日本語入力に注がれる力は次第に弱くなってきていて、一旦廃盤になった製品や、廃止になった機能、そして入力方式が再生されることは、もう、ほとんど望めなくなっています。

アルテは、日本語入力の可能性を引き出す開発に取り組み、「状況」の(じょう)など、フリック入力では5手順かかるケースの入力を1手順にする入力を可能とする入力方式を実現することができました。しかし、日本語入力の開発が弱体化してゆく状況の中で、もしアルテが廃盤となれば、もはやその再生が試みられることは無いと考えます。またアルテとは別の方法で、効率的な入力を実現する技術開発に乗り出す企業が現われることも無いでしょう。実際、2010年代後半に入ってから、アルテ以外に入力方式の技術が開発された事例はありません。

海外では、PC配列のタッチ入力から進化したグライド入力が世界のほとんどの言語に広まりました。一方、日本語の入力方式の進化は、アルテが継続できなくなれば、そこで途絶します。

これまで、その「途絶」を起こさないため、アルテの開発継続に努めてまいりました。しかし、従来のご提供形態での継続は限界が近づいています。マーケットの「製品/商品」としては、まだまだ至らない点も多いアルテですが、ここで日本語入力の進化を終りにしないために、これからの開発継続にご協力を賜われますと幸いです。

また、実用製品としても、開発の継続ができれば、絵文字の増強、複数のクリップボードの機能、配色の追加、辞書強化、等々、これまで積み残されてきた多くの課題に取り組むことができます。2024年はこれらの機能強化に努めたいと考えています。

最後に改めてではございますが、日ごろより応援をいただき本当にありがとうございます。レビューやメール等で、ポジティブなお言葉をかけていただく度にとても励みになっています。この場を借りてお礼申し上げます。これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。

アルテ日本語入力 開発者:中川 圭司