ぼくらの100日間戦争~第五章「NPOなのにお金うけとるの?と言われる日本」
※このブログはNPOの広報スタッフが新型コロナ緊急事態下でおこった緊急支援活動現場での様々なドラマ、裏舞台を個人的記録として1話1テーマ形式で残すものです。
前回まで:プロローグ/第一章~たたかいの定理/第二章~あなたの声が爆速で国を動かす/第三章~命がけの最前線と経営陣の涙/第四章~人はいかにして救われるのか
さまざまな活動の資金は全て持ち出し
記事更新ができずに、気づけば8月になっていました・・・。
6月、7月、緊急事態宣言の解除後、フローレンスが運営する、認可保育園や障害児保育、病児保育の現場では日々最大値記録を更新する都内のコロナ感染拡大状況にあわせ、お子さんとご家族の安全と、求められる家庭サポートに向き合う、長い長い梅雨でした。
私が所属するみんなで社会変革事業部(広報・寄付/資金調達の部門)では、『新型コロナこども緊急支援プロジェクト』フェーズをいったん終了し、7月は「やっとひといき…店じまいしてよろしおすな」と暖簾に手をかけていたんですが。
通常営業モードはどこ吹く風、子育て層が決してスルーできない問題勃発で、緊急記者会見やロビイング、新規事業リリースに奔走した7月でした。
具体的には、
#保育教育現場の性犯罪をゼロに 【保育教育現場に性犯罪者を立ち入らせない仕組み「日本版DBS」の創設を求める記者会見】を厚労省でやって、各大臣に直談判に行ったり
withコロナ時代において、いつ登園自粛要請や休園・休校になっても仕事が安心して続けられるよう、【休園・休校シッター】を新たにサービスインしたり、
2016年、私が入社した当時「なんか・・ご家庭に食品を届けて?それをきっかけにこどもの貧困や虐待を未然にふせぐ?みたいな新規事業、やるらしいよ?」とふわっと社内の噂レベルだった【こども宅食】という子育て支援モデルが、文京区でのサービスインから苦節三年、コロナ支援の追い風もあり全国に広がって、いよいよ制度・予算化の動きに漕ぎ着けそう!という嬉しい展開もありました。
せわしないどす・・。どすっていうかDETHっていうか。。
毎日きばってますけども、そうそう。聞いておくれやす。
記者会見やったり全国アンケートをやったり事業モデルの試作をしたり議員さんや全国各地のキーマン、関係者と水面下で交渉したり、
これ全部自腹ですのんーーー涙(ΦωΦ)
(なぜエセ京風おかみキャラなのか・・!)
フローレンスは、障害児保育にしろ、病児保育にしろ、継続可能な事業モデル(黒字が出る)をつくることで、各サービス現場を運営しています。一般民間企業と変わりません。
しかし、初期のスタートアップ事業や、利用者がサービス料金を支払えない環境で行政の制度設計からも漏れておりどうやってもマネタイズしない支援、また緊急の支援活動、日々勃発する新たな社会課題へのソーシャルアクションにかかる運営費は、持ち出しです。
こうしたフローレンスの「マネタイズしないけど、社会に必要な活動」を支えているのが、皆さんからいただく『寄付』です。
「人件費には寄付を使わないで」と言われ
「寄付を考えているのですが、ちゃんと現場の支援に使ってくださいね。」
「あなたたちの人件費に使わないでくださいね。」
寄付者の方から、たまにこうした念押しをいただくことがあります。
日本では、NPO=ボランティアのイメージは強いと思います。「非営利活動法人」というワードもそれを後押ししているでしょう。非営利ってお金をもらわずに活動するってことでしょ?と。
NPOのスタッフといえば、
『利益・稼ぎのために働くのではなく
無償で他人や社会のために自分を提供する
奇特な人々…。』
あるいは、幽霊一般社団法人を立ち上げて“中抜き”疑惑に晒された電通事件も記憶に新しいですが、NPOも実態のない中抜き団体だったり、なんかセコイことしてるんでないか?
『きれいごと言って寄付を集めたりして…なんか胡散臭い人々?!』
そんな風に見られがちだなと感じています。
事実、日本に50000団体以上ありますが、NPO団体の4割は常勤の有給職員がゼロ人で代表1名による組織。そして、いわゆる無償ボランティア組織を含め年間の収入が1000万以下の団体が半数だという調査結果(※)もあります。※内閣府「特定非営利活動法人に関する実態調査」2017より
それで「寄付したお金は、くれぐれも支援を求めてるご本人に届くようお願いしますよ」と念押しをいただくのかもしれません。
でも、支援を必要としている人に必要なサポートを届けるって、必要な物資の購入費や配送費だけが必要運営経費なのでしょうか・・・?
ボランティア(無償)で手を動かす、というイメージが強いNPOですが、実際はどんな活動をしているのか?ご紹介したいと思います。
新型コロナこども緊急支援プロジェクトの場合
4月から6月に、フローレンスが国内で実施した「新型コロナ緊急支援プロジェクト」。
経済的に厳しい状況にあるご家庭へ「こども宅食」モデルを通じた食料・見守り支援を届けたり、ひとり親家庭に無料保育や健康児お預かりサービスを実施したり、医療的ケア児者家庭に不足する衛生用品を提供したりするなど、全国のべ12,000世帯以上の子育て世帯に緊急支援を実施しました。
全国の法人、個人の皆さんから、この活動に対し、たくさんの応援と寄付・助成金をいただいて、これほど大規模な緊急支援を実施することができました。
日本全国、コロナで不安だったり不況だったりするのは皆同じなのに・・それなのに、なにか自分にできることはないか?と考える人がこんなにもいらっしゃることに、ただただ驚き心が震えました。
また、フローレンスの活動に大切なお金を託して応援してくださる人がたくさんいることは、コロナ禍当事者でハードな活動環境にある私たちスタッフの心の支えとなっていました。
今回の緊急支援でチャレンジングだったのは、食糧支援や医療物資の配送など、物品の寄付を受け付けて、求めている家庭や医療現場に無料配送したこと。つまり、食糧・生活用品・医療物資・おもちゃなどの物品寄付と、支援家庭とのマッチングを全国規模で行ったことです。
この緊急支援プロジェクト関わったメンバーは、総勢約50名です。
(写真は全然足りてないのですが・・みんなを紹介したかった!)
各プロジェクトマネージャーと関係者は、フルリモートの環境の中、毎朝必ず30minの「柱合会議※」を開催して、情報アップデートをしながら運営していきました。※もちろん、鬼滅の刃ファンの私の強い希望で命名
全国から届く物品寄付は、ある時は「マスク30000枚」、ある時は「お菓子700箱」、「シャンプー800本」、ある時は「手作りマスク50枚」といった感じで、フローレンスサイドでは当然コントロールができません。
物品寄付だけでは足りない物品や、数のバランスがあわない場合は、いただいた寄付金から物品を購入しました。
寄付金や物品金について、どなたから何をどれだけいただいたかを正確に記録し、誰に届けるかの現地調査、配送リストの作成、それにかかるコスト試算と配送センターへの連絡、どの物品同士を組み合わせて梱包するかの内容決定、梱包作業等を手配します。
全国の「こども宅食」モデル事業者や、しんぐるまざあず・ふぉーらむ、むすびえ、ホワイトハンズといった信頼のおける他団体と、最前線の現場で活動するための運営費を試算して、フローレンスで集めた寄付を助成することも行いました。
実際に支援が現地に届いたかを確認し、御礼のコメントや写真をいただき、寄付をしてくださった法人や個人の皆さんに向けた、ご報告と御礼をしています。
広報が発信した活動報告記事はこの期間中100本。プレスリリースは50本に達しました。
寄付金・助成金については、通常の4倍もの額を受け付け、バックオフィスの寄付事務処理も恐るべき繁忙・煩雑さでした。どの活動にいくらコストがかかるのかを試算して割り振り、全国のご家庭のニーズを伺って、必要な支援を届けました。
いただいた寄付を愚直に運用するテトリス集団です
全国の皆さんからの「コロナで困っているご家庭をサポートをしたい」「フローレンスの支援活動を応援したい」という気持ち=寄付や物品寄付そのものです。
一銭たりとも無駄にすることはできない、という気合いで活動にあたっています。キッチリ無駄なく使う運営ノウハウと活動スキル、これこそがフローレンスがもつ強みかもしれません。
全国からいただく通常とは比べ物にならない額と数の支援。
一日も早いサポートを待っている、全国の家庭や医療現場の把握。
寄付金や助成金についても、「障害児支援に使ってほしい」「人件費には使わないで」「お米券を買うお金として使って欲しい」など、寄付をしてくださる皆さんの要望や使途先、使い方が指定されている場合もあります。
ヒト・モノ・カネの精確な管理、支援者側の要望と、実際のニーズを組んで、支援実行の方法と内容を決定していくのは、あめみやたいよう君もビックリのテトリス上級クラスの難易度です。
また、認定NPO法人には、民間と同じかそれ以上に厳しく、監査があります。
寄付金やお金の社内使途の内訳も正確に管理する必要がありますし、各事業部の予算管理にも全て紐付いてくる。そのため、いったんみんなで社会変革事業部に入金された寄付金を、障害児保育事業部やこども宅食事業部、病児保育事業部などに付け替えていく社内間の事務手間もハンパありません。
これらのお金と物品の管理を、正確・迅速にやってのけたのが、私と同じくみんなで社会変革事業部でファンドレイジング部門のマネージャーをしている橋本もっくんです。東京大学のベース地頭力に平伏しました。
寄付と広報は両輪の活動なので、毎日一緒に仕事していますが、私が入社以来4年間、信頼してリスペクトする人のひとりです。
他にも、チームには米国ウォルマート財団に提出する英文全編20ページもの助成申請書を3日で完成させ、米ウォルマート本社から即日250,000 USDの振り込みを交渉したファンドレイザーもいました。
また、全国医療的ケア児者支援協議会の事務局として、全国の医療的ケア児家庭からのニーズと住所情報を管理できなければ、たくさんのマスクやエタノールを寄付いただいても本当に必要とする家庭に、必要な個数を届ける運営はできなかったでしょう。
一般社団法人「こども宅食応援団」の事務局として、全国各地の支援団体とつながっていなければ、食糧や物品を各地に迅速に提供し、どの団体にいくら再助成して、どのような支援成果を出すかを試算できなかったでしょう。
様々なスキルと能力を持ったスタッフが、それぞれのパートを自立自走でまわすことで今回の支援プロジェクトを運営しました。
また、全国ネットワークとして機能する運営事務局をもっていたことや、他のNPO団体等との連携パイプをもっていたことで、支援を全国に広げることができました。
インパクトや成果の大きな活動ほど、たくさんのスタッフ・関係者が介在しますし、運営コストが莫大であるということです。例えば50人ものスタッフが3ヶ月この活動にかかりきりになるとして、もちろん飲まず食わずで働けるはずがありません。
お給料をいただいて、民間企業の皆さんと同じく、この組織を通じて社会になにが還元できるか?を、私たちは考えて仕事をしています。
特別な団体でも、特殊な人種でもなく、みなさんと同じ「しごと人」。
各保育現場でも、バックオフィスでも、親子領域の課題解決のプロとして、働いています。
「いいね」だけでも、支援になる
ここまで、寄付金がいかに私たちの「マネタイズが難しいけどやらなきゃいけない活動」の下支えになっているかを、感謝の気持ちでお伝えしました。
便乗して、私達が皆さんの想いが乗った大切な寄付金を、いかに真剣に、愚直に運用しているかという裏舞台もご紹介しました。
しかし逆説的ですが、寄付をしなくても、SNSで「いいね」を押すだけで、とても大きな支援になるのです。
この緊急支援プロジェクトを通じて、サッカー日本代表長友佑都選手との「ひとり親支援プロジェクト」が独自に立ち上がったり、アジアンカンフージェネレーションのGotchさんやAAAのSKY-HIさん、新刊「夢をかなえるゾウ4」が話題の水野敬也さんをはじめ、多くの著名人、起業家、投資家の皆さんから寄付で応援をいただきました。
その結果、著名人の方のファンの皆さんは、フローレンスを全く知らない方が多かったはずですが、こうした記事発信を見て、Twitterなどで「いいね!」と押してくれたようです。
すると、その人のタイムラインを通じて、また別のフローレンスの活動を全く知らない人に情報が届きます。そんな連鎖が生まれていました。
私は、「知ることは背負うこと」だと思うことがあります。
知った瞬間から、人はその情報に関わることになります。たとえ一瞬でタイムラインを通り過ぎていったとしても、視界をかすめる時、無意識に触れて自身の経験にそっと蓄積されます。
私たちが取り組む国内の親子領域の課題は、孤独な子育て環境やこどもの貧困、医療的ケア児の選択肢の狭さ、仕事との両立の難しさなど、まだまだ十分知られておらず、社会に課題認識されていないために解決していないものが多くあります。
知ることで、それらの課題を自分ごととしてちょっとずつでも背負う人が増えたら・・。
その問題に一緒に関心を持ってくれる人が増えたら。
みんなで背負うと、きっとどんなに重たい課題も軽くなっていくのではないかなと思います。だから、寄付も「いいね!」のアクションも、あまり関心が持てない、という気持ちすらも、自分のスタンスを確認する、大切な体験です。
だから、どんな形やきっかけでもいいから、国内の子ども・子育て問題を知る接点がいろんな場所で生まれると、嬉しいです。
すべての親子を置き去りにしない
重症患者数は減っていてひと安心ですが、まだまだ予断を許さない新型コロナウイルスの感染拡大。
全国的に、不況指数と倒産件数のほうが、コロナより恐ろしいとも言われています。また、登園自粛や休業要請等もいつ発令されてもおかしくない状況ですね。
フローレンスは引き続き、withコロナの親子を支える支援を、まじめに実行していきます。
また、いつも応援してくださる皆さん、これからも一緒に未開の地に道をつくっていきましょう!力になってくださり、ありがとうございます。
これからも、どうぞよろしくお願いします。
(個人ブログでもPRでしめてしまうサガよ・・・!お読みいただきありがとうございました)おおきに。←富山出身です。
次回予告:コロナに負けなかった、保育現場
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