ぼくらの100日間戦争~第一章「たたかいの定理」~
※このブログはNPO広報が新型コロナ緊急事態下でおこった緊急支援活動現場での様々なドラマ、裏舞台を個人的記録として1話1テーマ形式で残すものです。
【情報戦争の幕開け】
2月に入り、情報戦の様相を呈してきた新型コロナウイルス感染症の拡大。
私たちフローレンス約600名のスタッフのうち、およそ500名が障害児保育や病児保育、認可保育園勤務の「保育スタッフ」です。
現場の運営や組織づくりに関わる事務系のバックオフィスを担うスタッフが約100名いて(私のように広報や資金調達をするメンバーもこの「事務局スタッフ」にあたります)、経営陣には、駒崎代表とディレクター、各事業部のマネージャーがいます。
2月15日に、この経営陣19名と総務や人事、広報の関係メンバー、グループ団体の医療法人社団ペルルの田中純子医師とナースのスーパーバイザーで「新型コロナウイルス対応(全体会議)」というチャットワークスレッドが立ち上がりました。
連日、国内外の最新文献データとトレンドを読み解きつつ、安倍首相や小池都知事からの方針発表、自治体からの更新情報を収集して、チャット上で会話しました。
情報を正しく集めて適切な判断をすることが、生命線だからです。
誰も答えを知らないお題にも関わらず、その判断を決して誤ることができない理由と、綱渡りの情報戦争がどのように進行したか、以下に紹介していきます。
【子どもとスタッフの命に直結する”保育現場”】
フローレンスは「障害児保育園ヘレン」(6施設)、「障害児訪問保育アニー」「医療的ケアシッターナンシー」という訪問型支援事業で、「医療的ケア児」と呼ばれるお子さんに保育や療育・看護を提供しています。
これらの保育現場でお預かりする「医療的ケア児」は、特に基礎疾患や障害の重い障害児のお子さんです。コロナウイルス感染症の脅威は大げさではなく命に直結します。
また、「訪問型病児保育/病児保育室」の現場では、基本的に病気のお子さんを一対一でお預かりします。新型コロナウイルス感染症の初期症状は風邪に似ていると言われ、スタッフの感染リスクも懸念されます。
事業自体の運営可否を検討せねばなりません。
また、フローレンスは、都内と仙台に「おうち保育園」「みんなのみらいをつくる保育園」「一時保育室カムパネルラ」合計19施設の保育現場を運営しています。
地域の保育園というのは、まさに様々なエリアであらゆる環境にある親子に伴走する共働き家庭のライフライン。
かつ未就学年齢の子どもにおいては抱っこしたり鼻をかんであげたりオムツを替えたり子ども同士がじゃれ合ったり、濃厚接触ゼロは現実的ではありません。
(※写真はコロナ以前に撮影したものです)
【経営陣の結束と自走チームの発生】
経営陣においては、首相会見が20時にあれば21時、22時からオンラインで会議をして、明朝の始業と同時にメンバーや保育現場が適切に動けるよう整えました。
2月、3月は週末に大きな政府と都の方針が発信されることも多かったので、土日も緊急会議を断続的に実施していました。子育て中のメンバーがほとんどなので、短時間で濃いミーティングができるよう集中!
緊急事態宣言後は、経営会議を主として毎週60~90分で、現場運営/休業等勤務制度/財務インパクト/社員の安全健康/勤務環境/社内外発信方針/緊急支援プロジェクトについて駒さん、ディレクター、マネージャーで意思決定しています。(この定例アジェンダは現在も、続いています。)
※余談ですが、フローレンスの会議は事前にGoogleDocumentでアジェンダを用意して参加者は当日までに読み込み、必要な情報や指標をコメントで入れておきます。アジェンダは【共有】なのか【意思決定】の発議なのかを明確に記載しなければならず、当日は意思決定に集中して時間を使います。
議事録ッカーと、ファシリテーターが決まっているので、MTGの時間超過もMTG後の議事録作成もナシ。これ、先日メルカリの小泉会長がイベントに登壇して「メルカリのMTGはね~」と紹介してた方法と全く同じだったので、「弊会もですぅぅ!!」って心の中で叫んだものです。
また、関係者の中で「コロナ関連の情報を集約した全社掲示板が必要」と考えたメンバーが、誰にも指示されないのに、自主的かつ光の速さで「全社コロナポータル」を立ち上げていました。
一夜城の奇跡が令和の世で!?と、我が仲間ながら驚きました。
本来ならば、私たち広報が社内用の情報集約と発信も素早く企画すべきだったかもしれません。
でも、実際この全社掲示板を一夜で立ち上げたのは、広報部門ではない、それぞれ3事業部から自然発生的に集まったメンバーによるチームでした。
【子育て世帯に激震!急転直下の「全国一斉休校」】
(画像は2月28日FNNプライムオンラインよりhttps://www.fnn.jp/articles/-/22847)
そんな緊急事態モードが加速してきた2月27日木曜夕方のことでした。
安倍総理による突然の「全国小中高一斉休校要請」が発表されました。
えぇっっ?!
全国の小中学校児童を子育て中の共働き親がテレビの安倍さんを二度見し、来週からどうしたらいいの?と白目を剥いた瞬間でした。
私達がすぐに思い至ったことは2つ。
1.【フローレンスの各保育現場は通常運営できるのか?】
2・【働く親御さんたちはお子さんが休校になると超困るじゃん?!】
子育て中の社員が非常に多い組織なので、まずスタッフの出勤可否を確かめ、週明けから保育士の配置基準を満たして通常運営ができるか?確認が必要です。
また、休校・休園で育児と仕事の両立が困難になる親御さんをサポートする打ち手も急がれました。
私たちは、安倍首相会見の直後から『情報精査(質)×瞬速意思決定(速度)×自走(信頼)の定理』で走り始めました。
(そんな定理はないんですけども…)
実際、首相会見から一夜明けた2月28日。
フローレンスの基幹事業である「訪問型病児保育」サービスでは、16年間病気のお子さんをお預かり対象に事業を運営してきましたが、「健康児の保育が求められている」と判断しサービスを一夜のうちに一部変更。
一斉休校に伴いお子さんの預け先がない親御さんに向けて健康児でもお預かりします、とアナウンスしました。
そして、感染対策を徹底した上でフローレンスが運営する全ての保育現場で通常運営を意思決定しました。
広報では、コロナウイルス感染症が社内、保育現場1名でも出た場合の、利用者(親御さん)向け文書/社外向け公式文書を全事業分準備し、決してこの文書を使う場面がないようにと祈りました。
各事業現場、総務・人事では、同じくあらゆるパターンを想定した運営フロー、スタッフの休業規定や補償の設計がはじまっていました。
【たたかいの定理とは】
先ほど、『情報精査(質)×瞬速意思決定(速度)×自走(信頼)』の定理と書きました。
少し前に話題になったティール組織の話を、以下、いまさらのドヤ顔で使ってみることをお許しください。
普段は信頼で結びつく自立自走のティール型組織においても、有事にはレッド&アンバーモード(トップダウン)への切り替えが必要だという考え方もあります。
つまり、トップが強力な決定権を発動して、軍隊的な上意下達で運営するやり方です。社員に思考するスキを与えないスピーディさで、効率的に危機を乗り切る方法とも言えます。
フローレンスといえば、代表の駒崎弘樹さんが子育て分野の有識者・インフルエンサーということで団体の顔として知られます。 昨日は超党派の医ケア児に関する勉強会「永田町こども未来会議」。
福祉サービス報酬が低すぎることで医ケア児の預かり先が全く増えない問題。
改定の検討時期が近づく中、コロナ禍で検討が遅れてしまったので、早く取り戻さねば。
医ケア児家庭が苦しむ時代を、今度こそ終わらせないと。 pic.twitter.com/1RCKoVOmpP
(コロナ中散髪に行けなかったのか、髪のびましたね・・)
だから、駒さんのトップダウン型の組織なのではと外からは見えると思いますが、実はそうでもありません。
駒さんの発言や意思決定のパワーが完全に他の社員とフラットだという話ではもちろんないですが、フローレンスは基本的には「情報の共有・オープン化×ビジョンに紐づく意思決定×仲間を信じて任せる」ことで回そうぜとなっている気がします。
今回の有事に発動されたのは、駒さんやディレクターによる指示系統ではなく、ティール最速効率ver.といった印象を持ちました。
『情報精査(質)×瞬速意思決定(速度)×自走(信頼)』の定理が機能すれば、トップダウンじゃなくても有事を戦えるのではないでしょうか。
質はむしろ多くの関係者の目が入ることで精査されます。
速度は、代表、ディレクター、マネージャーが機能することで上がります。(有事に有効)
信頼は、自立自走を任せることなので運営を分化(コンパクト化)させます。
今回、関係者が然るべき情報を共有することで、必要な視点が能動的に洗い出され、短時間でベストな施策を全員で握りながら進捗できているように思っています。
さて、第一章からぎがんと長くなってしまいました・・・!(なつかしい、しょこたん語ですね。今回もアラフォーワールドから足を洗わない所存です)
次回はいよいよ、社会を動かした裏舞台の話を紹介したいです。
次回予告:第二章「3分間の意思決定が、国を動かす」
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