突然だが、学校関係者としてのあなたは、担当している子どもの保護者が1年間に一体幾らのお金をかけて子どもを学校に通わせているか知っているだろうか。もっと具体的に言うと、児童生徒が学校に登校しているとき、全身に幾らのものを身に付け、幾らのものを背負ってきているか、知っているだろうか。
文科省の「子供の学習費調査」(2018年)を見ると、大まかな数字ではあるがその金額が分かる。子ども一人を通わせるために保護者が負っている私費負担は、公立小学校で約11万円、公立中学校で約18万円、公立高校では約28万だ。保護者が負い、学校が負わせているものでありながら、互いにその金額についてあまり承知していない――これを「隠れ教育費」と呼んでいる。
こうした隠れ教育費の存在は、本来日本国憲法や国際規約上で無償とされながらも、十分に公費で保障されていないことによって生じる。そんな公費不足は、保護者に重い私費負担を背負わせるとともに、学校の設備・教具の不備や安全面・衛生面での問題、さらには教職員の自腹問題を引き起こしている。しかし、保護者はそんな学校の問題を知ることがなく、教職員も保護者の私費負担を考慮する余裕がない。そんな関係性の中で、隠れ教育費は「当たり前」のようにひっそりと存在してきたものと言える。
学校が徴収しない場合は、購入費用や購入物のデザイン、購入するか否かに至るまで、建前上は各家庭に裁量が生じる。しかし実際には、これまでの慣習や周囲との関係性、学校の指導により、「全て購入しなければならないもの」との思い込みが保護者の側にあることが多い。子どもも「みんなと同じでありたい」という素朴な思いから、購入を希望する。
教職員も学校では用意できないので保護者に準備を求め、準備できない保護者がいると時に身銭を切る。そんな相手を思いやる振る舞いの積み重ねが、いつの間にか互いに「隠れ教育費」という重荷を背負わせ、学校の教育条件整備・公教育の無償性という政府・行政の義務の不履行を等閑視させてきた。
今次のコロナ禍の拡大は、購入したのに十分に使われなかったもの、行われなかった活動を生み出した。他方で、これまで安定していた家庭にも休職や失職、家計急変という変化が生まれた。そして現在、隠れ教育費の存在に多くの人が気付き始め、これを社会問題として見つけつつある。本連載では、今般浮上してきた新たな「隠れ教育費」の論点とその対応について取り上げていきたい。
【プロフィール】
福嶋尚子(ふくしま・しょうこ)千葉工業大学教育センター准教授。教育行政学、教育法学。保護者の私費負担、学校財務、学校の物品面での教育条件整備が主な研究関心。主著に『隠れ教育費 公立小中学校でかかるお金を徹底検証』(太郎次郎社エディタス、2019年、栁澤靖明と共著)。