ポストする

会話

日本人真面目すぎ。だからレースに勝てないんだよ。そう言っているのはGP界では伝説的メカニックのひとりであるラモン・フォルカダ。かつてヤマハでホルヘ・ロレンソのチーフメカとして3度のタイトル獲得に貢献し、ほかにもストーナーやクリビーレらと組んでレースを戦ってきた。今はなきRNF(ペトロナス)チームでは、2020年にモルビデリに複数の勝利と年間ランキング2位をもたらしたが、そんなフォルカダが言うには、昨今の日本メーカーの凋落は、生真面目過ぎて融通の効かない日本人の働き方と、レースというものの捉え方のせいだと分析する。 「最近のレースの結果に現れているもの。それは言ってみれば、馬鹿が付くほど真面目な日本人気質と、ラテンのノリで物事に当たるイタリア人気質の違いみたいなものだ」とフォルカダ「イタリア人は常にルールの限界(隙)を探してる。そこに突ける穴があれば突いて、自分たちに有利になるように物事を進める。そして怒られたらやめる。逆に言えば怒られるまでやる。対して日本人はそういうやり方は"美しくない"って考えてるんだ。ズルっこはよくない、そんなことするくらいなら負けたほうがマシだくらいにね。それで本当に負けてしまうのさ」 フォルカダが言っているのは、ドカのダリーニャが、レギュレーションを限界まで読み込んで、これならやれる、ここまでなら突っ込んでいけると容赦のない開発(空力だったり車高調整装置だったり)をしてくるところ、日本メーカー(ホンダとヤマハのことだ)は、え?そんなことやっていいの?それズルなんじゃない?と手をこまねいている間にすっかり置いていかれてしまったことを指しているのは言うまでもない。 ウイングにしろ車高調整装置にしろ、あんなものは美しくない、効果の程も疑わしいと、日本メーカーが疑念を持った目で眺めていたところ、ドカが一挙に躍進し、それらの装置についても事実上ルールとしてOKと認められるまで持って行ってしまった。いまホンダやヤマハはその遅れを取り戻そうと必死に開発をしている途上にある。 そしてフォルカダは、同様の発想は昨今問題になっているタイヤ空気圧の設定方法にも現れていると言う。 「わたしが現役のメカニックだった頃*(※フォルカダは2022年、RNFで担当していたドビチオーゾの引退と合わせてMotoGPの現場を退いた)は、まだいまみたいな単一の空気圧センサーがなく、タイヤの空気圧についてはみんなが限界値(低圧)を狙ってセッティングしてレースしてた。みんなが、だよ。やってないところなんかなかった。そしてわたしたちは、ギリギリの限界値を突いてセットアップした(フロントタイヤの)空気圧で、モルビデリとともにレースに勝った。その時は推奨圧として(平均)1.9barが指定されていたが、それを破ったからと言って罰則はなかったんだ。そこでわれわれは1.89barの設定で走って勝った。これにはドルナもミシュランも何の文句も言わなかったし、逆に"よくそこまでのギリギリが狙えたな!"って褒めてくれたくらいだったんだ」 限界を狙ったセッティングでレースに勝つ。メカニックとしてこれほど気持ちの良い勝利もないフォルカダだったが、しかしなんとそこに水を差してきたのは雇用主であるヤマハだった。 「勝利の美酒に酔ったあとの会議で、彼ら(ヤマハ)は"そんなことは絶対にするべきではない!"といってわたしを糾弾したんだ」とフォルカダは当時を回想する。「ひどいものだったよ。わたしは会議の中で完全に吊るし上げられた。たったコンマ01の空気圧の違いで、しかもそれはその時のルールでは何の問題もなかったのに、ヤマハはわたしのやったことは許されないと批難したんだ。"もう二度とそんなことはするな!"と彼らは言った。わたしとしては、失格にならないならそれをやってもOKだという認識だったが、ヤマハは違った。規則は絶対だ!とね」 欧州勢の考え方は、ルールに隙があればそこを突いて勝って何が悪いというもの。対して日本勢は、ルールはルールで絶対的に揺るぎのないものであり、それを1ミリでも逸脱することは許されないという考え方をする。しかしこの日本人に特有とも言える四角四面の考え方が、自由な発想を奪い、本来ならできるだけの力がありつつも、それに挑戦する気概を奪ってしまう。石橋を叩いて、そのあげくに渡らないという状況を生み出してしまう。 「いまのこの状況を見れば、そうした考え方がどういう結果を生み出すかがよくわかるだろう?いまホンダやヤマハの、欧州の現場で働くチーム監督やライダーだけでなく、スポンサーまでもが、日本企業に対してもっとヨーロッパ的な発想(と働き方)をしろと迫っているけど、さもありなんだ」と、思考と発想が硬直化したまま動けない日本メーカーに対して、フォルカダは半ば呆れ返っているようだ。 今季、ホンダもヤマハも歴史的な大敗を喫し、そのあまりの停滞ぶりからMotoGPからの撤退までもが噂されるほどとなったが、いま両メーカーともがこれまでの自分たちの仕事の仕方はもう通用しないと痛感し、組織体制や開発方法の大幅な見直しに着手している。これらの効果が発揮されるには、おそらく数年のスパンを必要とするだろうが、まだ彼らはあきらめていない。ルールを厳格に守って負けるより、それを打ち破るほどの発想と技術力を持ってレースに勝つことの方が大事であると、この惨状を極めた1年で、さすがに日本メーカーも気づいたからだ。 悲惨な1年を過ぎて迎える新たな年。2024年のMotoGPでの日本メーカーの復活、少なくともその萌芽が見られることに期待したい。
画像
画像
画像
1.3万
件の表示
7
返信できるアカウント
@motto_motogpさんが@ポストしたアカウントが返信できます

Xを使ってみよう

今すぐ登録して、タイムラインをカスタマイズしましょう。
Appleのアカウントで登録
アカウントを作成
アカウントを登録することにより、利用規約プライバシーポリシーCookieの使用を含む)に同意したとみなされます。
トレンドはありません。