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君が無価値なら、全部が無価値だ。

幼少期に両親と生き別れ、祖母に育てられたが祖母も他界し、実家もないから年末年始は毎年どうしていいかわからなくなると話す女性M様が我が家に来た。当たり前だが、メディアや社会は身寄りのない人のために作られていない。なんとなくみんな幸せそうで、楽しそうで、友達がいて、家族がいて、笑顔で、豊かで、和気あいあいと暮らしているように見える。そんな時、孤独を抱えた人間はより一層の孤独を深めて、いよいよどうしていいかわからなくなる。熱海に行く選択をしたM様のセンスは素晴らしい。流れ者の街、熱海。熱海には、良くも悪くも文化がない。海と山と温泉しかないから、良くも悪くも流れていく。蓄積されない代わりに風通しは良い。爪弾きにされた人間に優しい。

M様は思い詰めた顔をしていたので、お茶を出した。マテ茶を、ボンビージャと呼ばれる茶漉し付きのストローで飲む。茶は良い。飲み注ぎ飲むという動作を繰り返すことで、徐々に体が空間に馴染み、リラックスして心も落ち着く。人の話を聞く時には、コツのようなものがあると思う。できるだけ相手の話を遮らない。余計なことを言わず、聞くことに徹する。集中して聞くのだが、こちらも脱力していた方が良い。相手は「重い話をしてごめんなさい」と言ったり思ったりするから、軽く聞く。軽いのだが、集中して、何を言っているかと言うよりもどんな気持ちで言っているかの方に心を傾ける。重いパンチも軽く受ければ、ダメージも少ない。こちらも強張ると共倒れするから、流す。目の前の人間が着ぐるみだとした、その中に入る。自分だったらどう思うとかではなく、その人に成り切る。自分の感覚ではなく、相手の感覚になる。すると、何かしらの『必然』を感じる。

M様は色々なことを話したが、話した内容より話し方が印象に残った。小声で、怯えながら、申し訳なさそうに、切実さを隠しながら話す。小声の人間に「もっと大きな声で話せ」と言うのは簡単だが、正論は100%役に立たない。大事なことは、なぜ、小声にならなければならなかったかだ。試しに、M様の話し方を真似てみた。ありがとうございますよりもごめんなさいを繰り返し、自分の声から熱のようなものを取り去り、溜息を漏らすように言葉を放ち、困った時は目の前にある食品表示欄などをぼんやり眺めて自分を殺し、何かを考えているように見せかけて本当は何も考えていない、無心とは違う、虚無の状態に自分を置く。やってみて、わかった。そりゃ、どうしたらいいかもわからなくなる。無気力にもなるし、闇落ちもする。生きる意味も喜びも感動もわからなくなり、自分を嫌いにもなる。生きることが嫌にもなる。

虐待を受けて育った子供の気持ちが、少しだけわかった。楽しむことよりも、怒られないことや失敗しないことが優先される。面倒を起こしたくないから、思っていることを口にしない。食事中、美味しいと思っても「美味しい」とは言わない。面倒を起こすのは嫌だから、自分の中にある美味しいを楽しいから切り離して、美味しいだけを食べる。美味しいは美味しいのだが、楽しくはない。楽しさを、外に出さない。一人で噛み締めて、一人で飲み込む。これは辛い。これは苦しい。これはさみしい。これは楽しくなりようがない。俺だったら死ぬ。実際、やってみたら五分で死んだ。俺だったら五分で死ぬ生き方を何十年もやってきたM様は立派だと言った時、M様は、笑いながら泣いた。自分を殺し続けて生きてきた人間に、最後の抵抗を示すかのように、命が涙を流させているように見えた。どれだけ殺しても死なない。殺しても殺しても死なない。命は、最後の瞬間まで生きようとしている。だから苦しいのだと思った。死にたいのではない。本当は、生きたいのだ。喉から手が出るくらいに、生きたいのだ。生きようと思うものを、生きたいと思うものを、生かしてやることができないから、苦しいのだ。

M様から「一番よかった出会いはなんですか」と聞かれた。私は、今、あなたとの出会いがそうなればいいと思っていますと言った。M様から「何をしている時が楽しいですか」と聞かれた。この質問は末期だ。楽しいことなんて一万個ある。美しいものが一万個あるように。今、こうして話していることが楽しいですよと言ったら、M様は言った。私も、今、人と話すことはこんなに楽しいことなんだって思っていました、と。私は「おい」と思った。それを言え。その熱を語れ。それを言われた方が、俺は何億倍も嬉しいぞ。滅茶苦茶かもしれないけど、俺たちは俺たちの必然を気に入っているんだよ。本当は、これまでもずっと幸せだったし、これからもずっと幸せなんだよ。この世で一番悲しいことは、好きなものに好きだと言えなくなることだ。好きな人に好きだと言えなくなることだ。その熱がある内に、その好きを語れ。その熱を語れ。俺は肯定する。お前を。お前の人生を。俺を。俺の人生を。君が無価値なら、俺も無価値だ。君が無価値なら、全部が無価値だ。

「低体温症」

子供の頃は基礎体温が35℃台で、いつも低めだった。
高校生あたりから謎に体温が高くなり今は36.5℃だが、あまり末端冷え性で足先と手はこの季節になるととても冷たく体温が高い実感はあまりない。

季節柄、今年のことを色々と振り返ることが多い。今年初めごろのとある1日の話をしようと想う。

今年の初め、憧れのブロガー・坂爪圭吾さんに会いに行ったことがある。
その方のブログを読んでいて感じた印象は、情熱の火鉢を心に燃えたぎらせて、一日、一瞬をあまりにもまっすぐ、純度高く生きていらっしゃる方、そんな印象であった。
その人に会ってみたいけど怖かった。
私が人生をどれだけ誤魔化して生きているか、そんなことを見透かされて呆れられてしまうのではないかと思った。
でもどうしても会いたくなり、坂爪さんに連絡を取った朝たまたまお互い予定が空いていて、「今から別の場所に行くけど1時間だけなら」とのことなので、そのまま新宿のカフェで落ち合った。
彼のまっすぐでやや鋭い瞳は、会って10秒くらいで私のごまかしを見透かしたように思う。私はこういう風に知らない人に会うことも、自分真ん中からの言葉を発すことも苦手で逃げてきた。彼を目の前にすると何が言いたいのかよくわからなくなってしまい、そのままでぶつかりたかったのに取り繕い、しまいには「一緒にコントしませんか?」という意味不明なお誘いをしてしまった。
…自分でも言ってることが謎すぎた。
彼は自分にごまかしをまったくせずに生きている、そんな人だった。興味のない話にお世辞で乗るようなこともなく、わりとわかりやすくどうでもよさそうオーラを出されていて、私もうまく話が浮かばず、初対面の人間が沈黙気味という気まずい空間がそこにはあった。
ただ、これが今の私なのだ、と思った。

「低体温症ですね」
自分のやりたいことなど、ポツポツ話すけどうまく言葉が出てこない私に彼はそういった。
人とぶつからないから、ど真ん中の言葉を伝えないから、心の体温がどんどん冷えていっているのだと。彼は、今の私の心に症状名をつけた。私は彼に尋ねた。
「どうすればなおりますか」
人とぶつかること。自分のど真ん中を出して行き続けることで自分と相手との心のぶつかり合い、それにより火が起きるのだ。一日一回、人とど真ん中からぶつかっていくこと。そんな風に、彼は教えてくれた。

そして、坂爪さんは持っていたレモンとしょうがをくれた。なぜ鞄の中にこの二つがあったのかは謎だが。
「とりあえず、体をあたためて下さい。これはあくまで手助けみたいなものだけど」
そういって、しばらく話して、彼は旅立った。

12月末。クリスマスから急に本格的な冬の寒さが到来した気がする。
顔をあたためようと、頬を手で触れる。だけど、手が冷たすぎてあったまらない。
その時ふと、あの日彼がくれたレモンを思い出した。

あれから、私は私の手はまだ冷たいままだ。
せっかくあの日、彼から言葉をもらったのに、いまだに私は人とぶつかることができていない。
坂爪さんと会ったあの日、うまく話すことができなかった気がして、結局私はやっぱり人とぶつかることが怖くなった。本当に思っていることのど真ん中は伝わらないだろうとハナから話すことをあきらめ、当たり障りのない世間話で場を繋ぐ、周りの人と、そんなコミュニケーションをとっていた。

私の中で、彼と会ったこと、うまく話せなかったは小さな失敗として自分の中に記憶されなかったことにしたくなっていた。
だけどふと、私はレモンを思い出した。
レモンをくれた彼の気持ちはとても純粋な優しいものだったと思う。
私が「失敗してなかったことにしたかった記憶」の中に、同時に、優しさをしっかりと受け取っていたのだ。
人との関わり合いが下手な私は人と交わる場にいてもうまく話すことができず、後になって「失敗した」と思うことが多い。
だけど、それと同時に、「人とぶつかれた」という経験と、なにかしらの愛を必ず受け取っているはずなのだ。そちら側のこともちゃんと見つめ認めて、私はしっかりと、関わり合いの中を生きて行きたいと思う。
来年の、今からの私は、ちゃんと人とぶつかれる自分になり、そこからの失敗も、愛も受け取れるようになる。そう目標を決めた。

坂爪さん、あの日はほんとうにありがとうございました。

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おおまかな予定

12月29日(金)静岡県熱海市界隈
以降、FREE!(呼ばれた場所に行きます)

連絡先・坂爪圭吾
LINE ID ibaya
keigosakatsume@gmail.com

SCHEDULE https://tinyurl.com/2y6ch66z

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坂爪圭吾

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