ゆるっと解説 大河と歴史の裏話
史料をベースに、脚本家が独自の視点で、時代の荒波を生き抜いた人々の人間ドラマを描く大河ドラマ。『どうする家康』も、最新の時代考証研究の成果を踏まえつつ、脚本家の古沢良太さんが多彩なアイデアを盛り込んで書いています。その執筆を支える縁の下の力持ちが、時代考証。本作の時代考証の一人・平山優さんが、歴史家の目から見たドラマの注目ポイントを語ります!
平山先生、今日はよろしくお願いします!
はい! よろしくお願いいたします。
第6回「続・瀬名奪回作戦」でついに元康(松本潤)が、今川氏真(溝端淳平)によって人質に取られていた妻の瀬名(有村架純)、息子の竹千代、娘の亀姫を取り戻すことができてホッとしたわけですが……。ご覧になっていかがでしたか?
まず忍びの使い方が非常にうまかったですよね!!
忍び……、忍者たち、大活躍でした。
山田雄司先生(三重大学教授)に忍者の考証をして頂いて「本当の戦国の忍びの連中がリアルに動いている!!」という感じがしましたね。
上ノ郷城で、忍びに捕まるよりは自害を選んだ鵜殿長照(野間口徹)は、忍びたちを「虫けらども」呼ばわりしますけど。
彼らは雇われて動くものです。金を支払ってくれる相手の言うことならなんでも聞くアウトロー集団こそが、戦国の忍びの実像です。だからふだん、仕事がない時などは、彼らは結局また盗賊に戻らざるをえない。…そんな最新の研究成果が、脚本にうまく取り入れられていました。あと上ノ郷城にね、忍びたちが登っていくじゃないですか。あの登り方もなかなかおもしろいなぁ…。「苦無」を使ってね。
死体かと思いきや……
ムクムクと動き出し……
苦無を手に、敵の城へ……
苦無 ※中之条町歴史と民俗の博物館「ミュゼ」所蔵
両手の苦無を壁に突き刺しながら登っていく。
断崖絶壁を、ぞろぞろと静かに登っていく忍びの集団。
戦国大名が敵の城を攻略するために、忍びを雇って使うのは戦国時代特有のことなんでしょうか?
そうですね。実際に上ノ郷城を攻めた時には、伊賀者が突破口をひらいたと『武徳編年集成』などにも記録されていますので、そういったところがドラマのストーリーに生かされていて、違和感なく観ることができました。
瀬名が、どういう経緯で岡崎に戻されたのかについても、諸説あるようですが。
『真田丸』の時代考証を担当されていた黒田基樹さんが昨年10月、新説を紹介されたんです。江戸初期の史書を見直したところ、築山殿(瀬名)と亀姫は桶狭間合戦後に、岡崎城に入った家康のもとへ移っており、駿府に「人質」として置かれていたのは竹千代ひとりだけだったかもしれない……。
むむむ…?なんですって!!
戦国時代については新しい史料が発見されたり、これまでの史料が見直されたりするたびに、これまでの通説を覆すような発見がなされるので、まさに毎月毎月、研究が進展しています。でも人質交換については通説に基づいたストーリーで、それはそれですごく良かった。鵜殿長照が戦死して、氏長と氏次という2人の息子たちが、交換される人質になったということもその通りですし。
家康と瀬名は、仲が良くなかった、という説もありますが、家康が瀬名のほかに正室をもたなかった(あさひ姫を除く)などの理由から、2人は深い絆で結ばれていたのではないかと考えています。歴史に詳しいお客さまならご存じの通り、家康と瀬名には後々悲しい別れが待っている運命なのですが。
瀬名の母・巴(真矢ミキ)が言いますよね。「瀬名……そなたが命を懸けるべき時は、いずれ必ず来ます」。あんなに家康と仲が良かった瀬名が、最後には命を奪われてしまうわけですから。これから果たしてどんな意外な展開になっていくのか?『どうする家康』ならではのおもしろい解釈です。ただ、家康と瀬名の夫婦仲が悪かったということを明確に示す史料はないのです。当時の状況からの類推と、最後の信康事件との兼ね合いのなかで、夫婦仲は悪かったのだろうといわれているだけなのです。
いろいろと想像できる余地があるってことですね。ドラマを作る時も。
年表的な事実関係だけはしっかり抑えることを基本として、あまりにも無理な設定でなければ、わたしはかなり自由に描いて良いんじゃないかと思います。それがドラマなんですから。
平山先生にとって、ドラマの魅力って……
基本的には「大河ドラマ」は、群像劇だと思っているんです。『どうする家康』ならば、徳川家康という人物を題材にして戦国時代を舞台に設定した「群像劇」。実際には家康の周りには、数限りない人間たちがいたわけです。そのすべてをドラマに出せるわけじゃないですよね。そうすると何人かの人物の要素をひとりのキャラクターに凝縮して、家康と関わらせることもありうる。家康と、周りのキャラクターたちとの感情のぶつかり合いをどんどん起こしていって、ドラマチックなストーリーを展開していく……。そういうドラマとしてのおもしろさを徹底的に追求するべきだと思うんですよ!! もちろん、やり過ぎないという枠のもとでね。
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