人生も後半になったらなにより高たんぱくのお肉を。老化物質の蓄積を阻止してくれる最強の”若返り肉”とは
集英社オンライン / 2023年12月27日 12時1分
「年をとってお肉が食べられなくなってきた」はよく聞くセリフだが、それが老化の原因になっているかもしれないことをご存知だろうか。元より日本人は世界的にも赤身肉の摂取量が少ないとされている。老化を予防する若返り肉があるとしたら、誰しも口にしたいのではないか。『老けない最強食』(文春新書)より、人生の後半積極的に摂取していきたい老けない肉ベスト10を一部抜粋・再構成してお届けする。
肉について、体に良い・悪いと議論されることが多い。発端は、IARC(国際がん研究機関)が2015年、赤肉(牛、豚、馬、羊などの肉)を「おそらくヒトに発がん性を持つ」というカテゴリーに分類したことだ。しかし、健康な人にとっては魚よりも肉のほうがスピーディに生きるエネルギーを生み出し、老化の進みを遅くするといえるだろう。
人生後半には「高タンパクな肉」を
抗加齢医学の国際的権威であるクロード・ショーシャ博士から指導を受け、高齢者医療に約30年関わってきた和田秀樹医師(ルネクリニック東京院院長)は「健康な日本人は、まだまだ肉によってタンパク質を摂らないといけない」と指摘する。
「アメリカ人の一日あたりの肉の摂取量は約300g。死因トップが心疾患で、だから『肉が動脈硬化の原因』のように言われます。けれども日本は心筋梗塞で亡くなる方の10倍、がんで死んでいます。アメリカ人と同じ土俵ではないのです。肉は免疫機能の役割を高め、血管の材料になります。かつては上の血圧(収縮期血圧)が160㎜Hgくらいで脳卒中が起きましたが、今は栄養状態がよければ200㎜Hgに達してもそう簡単には血管が破れません。それは動物性のタンパク質の摂取増によって脳血管が丈夫になったからです。
肉の不足は、例えるとゴムの入っていないタイヤみたいな、破れやすい血管になってしまいますね」
IARCでは全世界地域での赤肉の一日摂取量を「約50~100g、200g以上の地域も含む」としているが、和田医師が言うように日本人の一日あたりの摂取量は赤肉50gと世界的にも低い。国立がん研究センターは「日本人の平均的な摂取量であれば、リスクは無いか、あっても小さい」とコメントしている。
それどころか肉は、日本人の長寿に貢献してきたといえよう。今から100年前の日本では大豆などの植物性タンパク質を摂取するばかりで、平均寿命は30代後半だった。欧米諸国に比べて10歳以上の差を付けられていたのだ。それが肉などの動物性タンパク質の摂取量増加とともに、日本人の平均寿命は1980年代、世界トップクラスに達する。
日本ポリフェノール学会理事長の板倉弘重医師(東京アスボクリニック名誉理事長)は「肉は良質なタンパク質の重要な供給源。そしてタンパク質は体の組織をつくるもととなる栄養素です」と説明する。
「肉に含まれる豊富なタンパク質は、細胞膜や細胞骨格をつくり、体の筋肉や皮膚などを構成します。ほかにもビタミンB12、亜鉛、ビタミンB1、ナイアシン、ビタミンB6などが肉に多く含まれますが、これらの栄養成分が足りなくなると筋肉や免疫機能の低下、アミノ酸不足が引き起こす神経性症状などが起こり、老化に拍車がかかります。筋肉が維持できないということは、若さを保つどころか、要介護状態に陥ってしまうのです」
肉に含まれるタンパク質は消化管でアミノ酸などに分解されて肝臓に送られ、全身に運ばれる。各組織に送られたアミノ酸は、筋肉や血液、皮膚、髪の毛など、それぞれの組織の構成成分になる。タンパク質が不足すると新陳代謝がスムーズに行われない。
その上60歳を過ぎると、血液中のアルブミン、コレステロール、ヘモグロビンという栄養状態を表す数値がどんどん下がっていく。血液中のこれらの栄養成分が落ちていくと、同時に体重が減ってしまう。中年でメタボと言われて脂肪が増えている間はまだいい。しかし人生の後半、自然に体の脂肪が減ってきたら、それは老化の始まりだ。そこで効率的に血液中の栄養状態を表す数値を上げるスタミナ食が、肉なのである。
しかし、肉なら何でもいいわけではない。肉はおよそ5~7割が水分。残りが「タンパク質」や「脂質」から構成される。その割合によって肉の柔らかさや栄養素量が変わってくるわけだが、老けないためには同じ100gあたりの肉を比較した時に「タンパク質の割合が高い肉」を選ぼう。
脂質が多い肉を食べたほうが、肌がツヤツヤしそうなイメージを持つ人もいるかもしれないが、脂が皮膚を作るわけではない。新しい皮膚の再生に必要なのは、あくまでタンパク質だ。脂質の高い肉は、一言で言うなら「老ける」「太る」ほうに傾く。
日本臨床栄養協会理事の大和田潔医師(あきはばら駅クリニック院長)も、「農作業や工事の作業員など日常的にものすごく体を動かす人なら、脂質が高い肉もエネルギー源になるでしょう。しかし、普通の体格の人が脂質が多い肉を摂ると、カロリー過多になって蓄積されます」と解説する。
老化物質AGEの蓄積を阻止
「老けない肉ベスト10」を見てほしい。
ランキング1位である「鶏肉」は、高タンパクで低脂質、ビタミンがたっぷりという若返り食べものの代表格。鶏肉に含まれるカルノシンという物質が酸化と糖化を強力に抑えることがわかっている。牧田善二医師(AGE牧田クリニック院長)も、「鶏肉は老化物質であるAGEの蓄積を阻止してくれる」と太鼓判を押す。
「渡り鳥が長い距離をノンストップで飛べるのは、運動によって大量に発生する活性酸素を消去してくれるカルノシンを持っているためと考えられます。パワーが持続するということは、すなわち老けないこととイコールです。人の体にも骨格筋や脳、神経組織に多く含まれていますが、年齢とともに減少してしまうので外から補給することをお勧めします。また、カルノシンには抗糖化作用があることも最近わかりました」
鶏肉に含まれるビタミンB6も、体内でタンパク質と糖質が合成するのをブロックしたり、AGEが発生するプロセスを初期の段階で抑えてくれるという。
体を動かした後も鶏肉がいい。管理栄養士の早川麻理子氏(名古屋経済大学准教授)の話。
「ウォーキングなどの運動をしてから1時間以内に、市販の『サラダチキン』(蒸し鶏を密封パックしたもの)を摂ると、筋肉合成につながります」
鶏肉の中でも4位の「皮つき」はどうだろうか。管理栄養士で調理師の堀知佐子氏(老舗料亭「菊乃井」常務取締役)によると、「皮なしのほうが圧倒的にカロリーが低いですが、皮には若返りに必須のコラーゲンがたっぷり含まれている」という。コラーゲンは動物の皮膚に多く含まれるが、豚や牛の場合は毛を落とせないため食べられない。
「コラーゲンが不足すると肌にたるみができたり、かさつく原因になりますから、老けないためには鶏肉の皮を邪険にしないほうがいいと思います。冷たいフライパンの上に皮目を下にして鶏肉をのせ、強火でなく弱火でじっくりパリパリになるまで焼くと鶏肉の余計な脂が取れ、コラーゲンは肉の中に残ります」(堀氏)
前出の板倉弘重医師は、ランキング2位、5位、10位につける「ヒレ肉」を勧める。
「筋肉を強化する『ロイシン』、神経伝達物質セロトニンの原料である『トリプトファン』など、体内で作られないさまざまな必須アミノ酸が肉のタンパク質には含まれます。とりわけヒレ肉はロイシンやトリプトファンが豊富で、筋肉量の低下を予防し、心を前向きにするセロトニンを生みだして老化予防に影響を与えるとされています。脂身が多い肉ほどロイシンやトリプトファンの比率が少なくなってしまいます」
貧血に牛肉、ラムには引き締め効果
心の落ち込みとともに疲労感も強いようなら、ビタミンB1が多く含まれる豚ヒレ赤肉(ランキング2位)がいい。ビタミンB1は別名“神経ビタミン”とも呼ばれ、神経の機能を円滑に保つのに役立っている。
不足すると物忘れがひどくなったり、憂鬱な気分やイライラにつながる。糖質の代謝に欠かせないため、足りないと糖質からエネルギーを作れず、疲労物質が体内に蓄積されて疲労感が強くなる。
「ビタミンB1は糖化を抑え、体内でAGEが発生するのを防ぐ働きがあることがわかっています。水に溶けやすく、体内にストックできないので日常的に少しずつ摂るように心がけましょう」(牧田医師)
「豚肉」は、あらゆる食品の中でこのビタミンB1の含有量が群を抜いて多いのだ。鉄分たっぷりの「牛肉」は、貧血の人に向いている。貧血を放置していると、酸素や栄養素を含んだ血液が全身に行き届かず、老ける要因になる。
「ただし脂身には中性脂肪やコレステロールを増やす飽和脂肪酸が多く含まれているので注意してください。牛ヒレや牛ももなどをしゃぶしゃぶなどでいただくといいでしょう」
鴨肉も鉄分が豊富で貧血を改善するが、皮下脂肪が多く、脂質の割合がかなり高い。一方で馬や鹿、鯨の赤肉は高タンパクで鉄分も牛肉並だが、低脂質のためおいしさの点で好みが分かれるかもしれない。
8位にランクインしているラム肉(羊の肉で生後1年未満のもの)は、脂肪燃焼効果がある。管理栄養士の望月理恵子氏が語る。
「ラム肉にはカルニチンという成分が含まれ、たるんだ体を引き締める効果があります。脂肪はカルニチンと一緒でないと、燃焼して消費できません。さらに最近の研究では、カルニチンは脳内に移行してアセチルコリン(脳内神経伝達物質)の産生を促し、老化やアルツハイマー型認知症による記憶力低下を防ぐ可能性も指摘されています。
また、ラム肉は他の肉よりしっかり噛む必要がある点も、老化防止につながります。噛んで唾液が出ると、唾液中のパロチンという成分が筋肉や骨の発達を促進し、若返り効果があります」
老けない肉のランキングには動物の舌(タン)や心臓(ハツ)、肝臓(レバー)などの副産物は除外しているが、前出の大和田医師は「牛や豚のレバー」を一押しする。
「レバーは痛風につながるプリン体が多く含まれる一方で、筋肉再生と疲労回復に役立つという報告が複数あります。特に運動後などの疲労した時に適量を摂るといいでしょう。疲労は何らかのダメージから回復するために休息を求めている体のシグナルです。食事と睡眠で回復させることが重要ですね。回復力をキープすることは、老化を遅くする強い味方になります」
レバーには「美容ビタミン」として知られるビタミンB2を始め、ビタミンB群が豊富だ。望月氏は「B群はチームプレーで働くことから、全体的に摂れるように意識するといいので、その観点からもレバーは優秀」と補足する。
「肉のなかで、抗酸化力の強いビタミンAと、皮膚や粘膜を守る働きがあるビタミンB2が圧倒的に多く含まれているのはレバーです。神経細胞を生成するアラキドン酸が含まれ、脳が老けないためにも重要ですし、肌を再生する効果もあります。ただし、ビタミンAは脂溶性で体内に蓄積されるため、過剰摂取には注意が必要です。焼き鳥レバーの1串に一日の上限を超えるくらいの量が含まれています」
ビタミンAの推定平均必要量は50~64歳男性で650㎍RAE(上限量は2700㎍RAE)だが、焼き鳥レバー1本(約30g)で4200㎍RAE。レバーを多めに食べた日があったら1週間くらいは控えて摂取量を調整しよう。ビタミンAを過剰摂取すると、吐き気や頭痛が起きることがあり、長期間の多量摂取では肝臓の異常や中枢神経系への影響がある。
ハツ(心臓)には、コエンザイムQ10が豊富という。
「休みなく収縮する心臓が疲労しそうな時、疲労回復のために食べるといいでしょう。コエンザイムQ10は細胞が酸化するのを防ぎ、ビタミンCやEを再生させる強い抗老化作用があり、医薬品として心疾患や脳出血の治療に利用されている物質です」(板倉医師)
頭も体も老けないためには、ランキング上位の肉を中心にさまざまな種類を食べるといい。幅広い効能が取り入れられ、同じ消化酵素に負担がかかることも避けられるだろう。
図/書籍より
写真/shutterstock
老けない最強食(文春新書刊)
笹井恵理子
2023/11/17
1375円
256ページ
978-4166614295
見た目の若さには、日々の食事が関係していた!
近年、様々な研究でわかった食べ物と見た目の加齢の関係。
主食、肉、魚、野菜&果物、乳製品――何をどう食べたら老けないのか? 各食品のスペシャリスト40人に徹底取材、最新の研究結果を盛り込み科学的データから紹介する「若さを取り戻すための食事術」。
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