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飯島慶郎
1977年生まれ、島根県出身。2002年、島根医科大学医学部医学科卒業後、同大学附属病院神経内科、三重大学医学部付属病院総合診療科を経て、09年から浜田市国保健康保険診療所嘱託医師、12年から浜田市消防本部嘱託産業医を務める。18年、日本初の不登校専門クリニック「出雲いいじまクリニック」院長に就任。23年から島根大学医学部附属病院精神科にも所属。
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※本サイトに掲載している情報は2023年3月 取材時点のものです。

INTERVIEW

現在の医学は「エビデンス至上主義」で医療者はひたすらガイドラインに従うように教育されます。私が研修医のころはまだガイドラインもなく、医師の見立てや治療には今よりもオリジナリティーがありました。ガイドラインは一定の診療レベルを保つためには必要ですが、「現在分かっていること」の集大成でしかありません。ガイドラインに従っている限り、分かっていないことは解決できないのです。子どもの不登校や「心身に異常を感じるが診断がつかない」というような不定愁訴については今も分かっていないことばかりです。それらを解決するにはエビデンスよりもクリエーティビティーが必要なのです。

不登校は心理的な問題ではない

飯島慶郎

医師になる夢をかなえるために医科大に進学したものの、多くの勉強をこなす中で葛藤を抱えて心を病んでしまったことがありました。辛い時期でしたが、それを機に心理学の本をむさぼるように読み、医師だけではなく心理療法家の立場からも困っている人を助けたいと考えるようになりました。何でも診ることができる町医者を目指していたので、研修では身体診察や診断学をもっとも重視する神経内科を選びました。

病院勤務医のころ、心身症や不定愁訴に悩む数多くの患者さんに出会いました。現行の医療はこのような明確な診断がつかない症状や患者さんを軽んじる傾向があり、「検査で異常がないのだから」と帰らせてしまいます。診断がつかずに苦しんでいる人はたくさんいるのに見捨てるしかないのかと葛藤しました。そこで私は時間をかけて総合診療、心療内科に加えて独学で臨床心理学と漢方医学を学び、心身症や不定愁訴への効果的な独自のアプローチを編み出しました。

地元の出雲市での開業当初は内科全般を中心に診ていましたが、その中で子どもの不登校の悩みを抱える家庭が非常に多いことに気が付きました。「学校に行こうとすると決まってお腹が痛くなる」といった不登校児の訴えはまさに心身症や不定愁訴と重なります。これまで培った経験とノウハウを生かすことができると考え、不登校専門クリニックを標榜するようになりました。同じころ、思いがけず私自身の小学生の娘が不登校となり、不登校児を抱える家族の追い詰められた状況を身をもって経験しました。そして多くの不登校児や娘の診療を通して見えてきたのは不登校は心理的な問題なのではなく、背後に子どもの「精神疾患」があるということです。実は不登校という現象はその精神疾患の「症状」なのです。

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不登校専門クリニックを全国に

子どもの精神疾患の診断はシンプルではありません。子どもは「体が重い」「不安だ」「気持ちが落ち込む」といった自分の状況を的確に把握して説明することができません。したがって大人と同じような診断基準は使えません。例えば不安を打ち消すために無意識に普段以上に元気に振る舞う子どもがいたりします。そのような子どもが登校を渋ると「怠けている」と誤解されてしまいます。また、発達障害の二次障害として精神疾患を発症しているケースはより複雑です。

医師向けの不登校関係のガイドラインには「根気強く寄り添いましょう」というようなことばかり書いてありますが、それで解決することは少ないでしょう。子どもの「印象」「雰囲気」を感じ取り、一つひとつ投薬の効果を確認しながら地道に診断を確定していくという作業が必要です。子供に対する向精神薬の投薬は緻密で頻繁な調整が必要で、膨大な労力がかかります。しかし丁寧な診療を心掛けることで多くの不登校児の状態を大幅に改善に導くことができました。ところで、不登校の子どもや家族に「これは病気ですよ」と宣言してあげることは極めて大切です。子どもに「病気」のレッテルを貼るなと言うひともいますが、病気というレッテル無しでは「お父さんが無関心なのが悪い」「お母さんが厳しいから」「この子が無気力なだけだ」と家族が悪者探しに終始して対立を深め疲弊していくケースが非常に多いからです。家族全員が納得して前に進むために、医師が自信を持ってレッテルを貼ってあげることが必要なのです。これは私自身が不登校児の親という当事者にならなければ気付かなかったことでもあります。

今や不登校は社会問題となっており、私一人でできることは限られています。これまでは自分の臨床能力を磨くことで精いっぱいでしたが、これからは私の考えに共感してくれる仲間の医師を探し、今まで培ってきた診療経験や投薬のノウハウを惜しみなく提供していきます。全国47都道府県に不登校の診療ができるクリニックを広げることができればと思います。既存の常識に従うだけでは解決できない問題があります。よく考えれば当たり前のことですが、そもそも常識で解決できるなら問題になっているはずがないのです。既存の常識は過去の経験の積み重ねに過ぎず、それがいつまでも常識だとは限りません。医療の世界でも新しい発見によって過去の常識が覆ったことはいくらでもあります。私は子どもの不登校に関する常識を塗り替えていきます。