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発がん性物質を48年扱った化学工場が元従業員の血液検査 案内状に気になる注意事項 静岡

2023年12月26日(火)

地域暮らし・生活

PFOAを扱っていた工場と血液検査の案内状

WHO・世界保健機関が「発がん性がある」としたPFOAを48年間使ってきた化学工場が、元従業員の血液検査をすることを決めた。ただ、元従業員に届いた案内状には気になる注意事項がある。PFOAは「現時点の知見では、どの程度の血中濃度でどのような健康影響が個人に生じるか明らかになっていない」ことを、十分に理解して検査を受けるよう求めている。

【関連】化学工場 元従業員対象にPFOA血液検査 2024年1月から実施へ 静岡

使用やめ10年経っても高濃度

PFOA(提供:京都大学・原田浩二准教授)

PFASは人工的に作られた有機フッ素化合物の総称で、その中で特にPFOAとPFOSは、水や油をはじき熱に強いためフライパンのコーティング加工や食品のパッケージ、泡消火器などによく使われた。

「毒性が強い」との指摘があり、現在日本では製造や輸入が原則禁止されているが、自然界では分解されず地下水や河川に残り続けている。

WHOがん研究機関の分類

特にPFOAについては、2023年12月 WHO・世界保健機関のがん研究機関が、発がん性に関する分類について、「発がん性がある可能性がある」から「発がん性がある」に引き上げた。アスベストやたばこと同じ分類だ。

ただ、どのくらいの量を摂取すると健康に影響がでるのかの言及はない。

三井・ケマーズフロロプロダクツ清水工場(静岡市)

そのPFOAを1965年から2013年まで48年間使い続けていたのが、静岡市清水区三保にある三井・ケマーズフロロプロダクツ清水工場だ。

使用をやめてから10年経った今も、工場周辺では高濃度のPFOAが検出されている。
2023年の静岡市の調査で、工場周辺の水路で目標値の54倍、井戸で26倍が検出された。

静岡市の水質検査(2023年11月)

さらに工場に隣接する雨水ポンプ場から海への排水では目標値の220倍という超濃度が検出され、原因を調べたところ、雨水ポンプ場につながる工場敷地直下の雨水配管から目標値の500倍の濃度が検出された。

工場で長年使い続けたPFOAが地下水を通じて周辺に流出しているとみられる。

工場では2023年12月、地下水の浄化装置を稼働させたほか工場敷地境界に地下水遮水壁の設置を検討している。

元従業員の血液検査を実施へ

元従業員に届いた血液検査の案内状

三井・ケマーズフロロプロダクツは元従業員の血液検査の実施を決めた。OB組織の会員に12月中旬に郵送されてきた案内状によると、対象はPFOAを扱う業務をしていた人で、希望者は2024年1月9日までに申し込めば、後日 検査の日程や場所が通知される。血液検査は1月以降に静岡市内で実施予定だ。

結果は検査実施機関から元従業員に直接郵送される。検査結果について相談がある場合の連絡先も示されている。会社側は「検査結果については、一定の統計データのみを取得し、検査を受けた個人と検査結果が紐づく形で検査結果を取得することはありません」としている。

過去の検査で指標値418倍の人も

三井・ケマーズフロロプロダクツ清水工場

清水工場の従業員の血液検査は、過去にも行われたことがある。

PFOAは1990年代末にアメリカの化学メーカー「デュポン社」が流失により工場周辺の住民に健康被害が出たことから注目され始めた。のべ3500人を超える住民を原告とした裁判が行われ、大学教授などで設立された科学委員会が健康被害を認め、2017年にデュポン社が賠償金6億ドル超を支払うことになった。

過去の血液検査の資料

三井・ケマーズフロロプロダクツは2018年に現在の社名に変更されたが、それまではデュポングループだった。

アメリカで問題になっていた頃、清水工場でも親会社からの要請で2008年から2010年にかけて一部の従業員に対して血液検査を実施した。会社側は検査結果を公表していないが、テレビ静岡がアメリカの弁護士から入手した資料によると、延べ24人に血液検査がおこなわれ、その結果24人全員が血中に含まれるPFOAの値がアメリカの学術機関が示す、健康リスクが高まるとされる指標値を上回った。中には指標値の418倍の値が検出された従業員もいた。

工場周辺の水路

ここで注意が必要なのは、PFOAに関するアメリカの「指標値」と、日本の「目標値」の違いだ。

アメリカの「指標値」は学術機関が定めた健康リスクが高まる基準であるのに対し、日本の「目標値」(正式には「暫定目標値」)は、水質汚濁防止法に定める公共用水域の水質基準を参考に2020年に暫定的に定めたものだ。

PFAS(PFOA+PFOS)が1L中に0.00005mg(50ng)。これは体重50kgの人が水を一生涯にわたって毎日2L飲んだとしても、この濃度以下であれば健康に悪影響が生じないと考えられる水質だ。飲料水や食品を通じて摂取した場合の健康への影響は、現在 国が研究中だ。

「会社は検査と健康のフォローを」

工場の元従業員

清水工場で約12年の間 PFOAを扱い退職後に舌がんにかかった70代の男性は、健康への不安を口にしていた。男性は18歳から30歳位まで12年ほど、フライパンのテフロン加工で知られるフッ素樹脂「テフロン」を製造する仕事をしていて、PFOAはその材料だった。

粉状のPFOAをスコップですくってビーカーなどで計量した。手袋や防塵マスクなどはせず素手で触っていたそうだ。

元従業員の男性は「がんが発生するかもしれないという不安があった。会社は私を含めすべての人たちの検査や健康のフォローをしてほしい」と話していた。

会社が示した注意事項 国の見解も添付

血液検査の案内状

清水工場の元従業員たちのもとに2023年12月に届いた案内状で、会社側は血液検査の目的と事前に踏まえておいてほしい注意事項を説明している。

案内状には「本検査は当社の従業員及び元従業員の皆さんの不安に応えるために行うものですが、現時点での知見では、どの程度の血中濃度でどのような健康影響が個人に生じるかについて明らかになっておらず、血中濃度に関する法律その他の公的な基準はありません。検査を受けられる方は、この点を十分ご理解くださいますようお願いします」とある。

血液検査の案内状

そして参考として環境省の「PFOS、PFOAに関するQ&A集」が添えられている。

そこでは「Q.健康被害に関する血中濃度の基準はないのですか。PFOS、PFOAの血液検査を受ければ健康影響を把握できますか」という質問に対し、「A.現時点での知見では、どの程度の血中濃度でどのような健康影響が個人に生じるかについて明らかになっていません。このため、血中濃度に関する基準を定めることも、血液検査の結果のみをもって健康被害を把握することも困難なのが現状です」と回答している。

PFOA(提供:京都大学・原田浩二准教授)

そして環境省の見解の解説として、会社側は「PFOS、PFOAは長年にわたり幅広い用途で使用されてきました。難分解性、長距離移動性などを持つ残留性有機汚染物質の一種でもあるため北極圏なども含め世界中に広く残留しています。パイロット調査においても、血液検査を受けた日本人のほとんどからPFOS、PFOAが検出されています(2022年度はPFOS 0.80~12ng/ml、PFOA 0.41~4.2ng/ml)」と補足している。

三井・ケマーズフロロプロダクツ清水工場

そして、会社側は「血中濃度と健康影響との関係については、コレステロール値の上昇、発がん、免疫系等との関連が報告されている一方で、国内においてPFOS、PFOAの摂取が主な要因とみられる個人の健康被害が発生したという事例は確認されていません。引き続き科学的知見の充実に努めていきます」と案内を締めくくっている。

検査で自分の血液中のPFOA濃度がわかった元従業員たちは、その数値のもつ意味をどう理解すればいいのだろうか。会社が指定する相談窓口に問い合わせれば、不安の解消につながるような説明をしてくれるのだろうか。

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