渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

極めて特殊な乗り方 ~二輪~

2023年12月26日 | open



不世出の天才と呼ばれた一人の
世界チャンピオンがいた。
その名をフレデリック・スペン
サーという。アメリカ人だ。
22才で激戦の末、1983年に世界
チャンピオンになった。

彼は「曲がらない車」に乗って
いた。
ホンダの二輪のハンドリングは
最悪で、ある一定の角度から急
激にフロントがインに切れ込む。
それを直してくれとワークス
ライダーが進言するも(直す
方法はあった)、製作陣は拒否
した。
だが、フレディのみはその危険
マシンを手足のように扱った。

彼は特殊な乗り方をしていた。
高速でコーナーに突っ込む時
(例えば鈴鹿の1コーナーの
ような場所)、ブレーキングと
同時にクラッチを切ったのだ。
シフトは立ち上がりのポジション
にシフトダウンしている。
そして旋回して、立ち上がりで
一発だけブワッとブリップさせ
てギアを繋ぐ。
それまでの常識では考えられない
走法を採用する事で曲がらず転び
やすいホンダのマシンを操った。
このフレディの走法は荘利光選手
が並走して現認したが、実は
世界チャンピオンのケニー・ロバ
ーツも「曲がらないヤマハ」

手こずった特定時代にはその特殊

走法を採用していた。
(ケニーの自伝を読むと、ハンド

リングのヤマハと呼ばれたのは
ケニーによるマシン開発が大きく、
それまではかなり曲がらない車
がヤマハの特徴でもあったという
衝撃の歴史事実の証言がある)
ケニーも後のフレディと同じく、
クラッチを切り、シフトペダルを

ポンポンとかき上げてシフトダウン
して、立ち上がりでブワッとブリ
ップさせて繋いでいた。
これはWGPの古いビデオを観れば、

数段シフトが必須の場所でブリップ
音が一度だけの事からも確認でき
る。

ホンダの二輪のハンドリングの
悪さは世界一だった。
市販純レーサーRS250が発売供給
された時、私はFISCOを走ったが、
場内では公式アナウンスがスピー
カーから大音量で通達された。
「ホンダRS250のユーザーの方は
十分に走行に注意してください」
と。
意味が解らなかったが、コース
インしてみて判った。
そこらじゅうのコーナーという
コーナーでまだ未塗装の白い
ホンダRS250が白い屍のように
転がっているのだ。
ヤマハTZからホンダに乗り換えた
選手たちはほぼ全員が転倒して
いた。
TZのナチュラルハンドリングの
つもりで寝かしこんで行ったら
ある特定バンク角以上になると
前輪が足払いをくらったように
なって転倒していたのだった。
コースを周回しながら、寒々しい
戦慄を私は覚えた。
これは後年の市販車公道モデルの
NSR250Rにも引き継がれていて、
MC16、18あたりのF3やプロダク
ション
では実に多くの転倒者を出
してい
た。
ところが、ケニーやフレディの
ように「常識外れ」の事をやって
乗りこなす人たちも現れ、その
人たちはノービスであろうと、
強力なホンダのエンジンパワーを
活かして上位につけていた。
それは、前輪ブレーキをあてなが
らスロットルを開けて旋回して
行くというものだった。
マシンの設計を崩す形で、彼らは
危険なホンダのマシンを自在に
乗りこなして成績を収めたのだ
った。

旋回中に駆動をカットする事は
一般の人は公道などではやらない
ほうが無難だ。
ただ、ホンダの最悪ハンドリング
車でなくとも、発動機付二輪の原
理としては、クラッチを切って
駆動をカットすると旋回性とハン
ドリングは向上するという特性が
ある。
それゆえ、解っている教習所教官
は高度な知見から「スラロームや
クランクではクラッチを切ると
曲がりやすい」と教える。
ただし、問題がある。
それは二輪特性の高次元な判断
(正確だ)によるものだが、教
習所に来ている人たちはどういう
層なのか、という事を失念して
いる。
巧みに二輪を自由自在に操れる
人たちがその二輪の特殊な特性
を活かした操縦操作による運転
が可能なのであって、駆動を切る
超高度高次元内容を実質的に
初心者あたりは理解できない。
それどころか、それが当たり前
と誤認して公道で旋回中に駆動
カットのクラッチ握りなどした
ら危険を誘発させるだけだ。

私の場合は、公道であろうと旋回
中にクラッチを切っての寝かしこ
みと数段シフト下げの一気繋ぎの
ブリップをする事もある。
だが、それは特殊な状況のみで、
基本的にはベーシックな操作を
励行し、常にクラッチは繋がって
いるのが99%だ。
停止の時には、停止前にNに入れ
て駆動は切っているのが私は常だ
が。

公道走行では常にクラッチを繋ぐ
走行が一般的には安全度が高いと
私は思う。
特殊状況での特殊な技法というの
は、やはり限られた条件、限られ
た場所での技法だ。
ただし、バックトルクリミッター
が付いていない二輪や、オート
シフターが無い二輪では、半クラ
シフトダウンやブリッピングでの
回転同調シフトダウンは全車種で
必須操作だ。
単純に教習所乗りのようにシフト
ダウンだけしてクラッチを繋ぐ
と、エンジンは過回転となり、
場合によっては後輪はロックする。
危険。
たとえ、低回転低速であっても、
それに見合ったブリッピングを
して回転を上げてからシフトダ
ウンを繋ぐのはオートバイのエン
ジンを傷めず、また安全走行に
繋がる。

最近意味不明な操作をする人も
動画を見ているとサーキットに
さえいる。
高速度走行ではシフトアップで
はクラッチは使わないのが基本
だが、スロットルを開けたまま
でシフトアップでクラッチを切
ってシフトアップしているのだ。
そのたびにエンジンは悲鳴を
上げて瞬間過回転している。
そのような誤操作をしていなが
ら、「エンジンがまた焼き付い
た」とか動画では言っている。
当たり前だ。物事の道理を根本
から理解していない。
また、逆にシフトダウンでは
一切ブリッピングをしていない。
見ていると、シフトダウンでも
エンジンは悲鳴をあげて過回転
している。
もう、これはサーキット走行
以前に、二輪車の基本の基本、
原理さえも理解していないと
言わざるを得ない。
そのうち飛ぶ(レース用語で
転倒の事)ぞと見ていたら、
案の定、よく飛んでいる。
天の理は嘘をつかない。
なるようにしてなるべく結果は
到来する。リンゴを離せば地面
に落ちるように。

公道においては、クラッチ切りっ
ぱなしの旋回は、私自身はおすす
めしません。

 


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