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読みながらメモ HUNTER×HUNTER

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レオリオは医者志望ではない

「本当に金のためだけにハンターを目指しているのか」
一次試験中、クラピカがレオリオにそう問いかける。
「金儲けだけが生きがいの人間は何人も見てきたがお前はそいつらとは違う」

この時クラピカは、レオリオには口で言う金の他に、何か本当の目的、信念があるはずだと期待している。はぐらかされても引き下がらずに、緋の目を取り戻すという自分のハンター志望動機を打ち明けることで、信頼したい、信頼してほしいという思いを伝えている。
そのクラピカの問いに対して、レオリオは答える。
「悪いな、オレにお前の志望動機に応えられるような立派な理由はねーよ。オレの目的はやっぱり金さ、金で買えないものなんかなにもない、物は勿論夢も心も、人の命だって金次第だ」
激昂するクラピカに、レオリオは「金があればオレの友達は死ななかった」と漏らし、友達を病気で失ったこと、法外な手術代があれば助けられたこと、友達と同じ病気の子供を治してやりたくて医者になる夢を持ったが、医者になるにはもっと大金がいることがわかったことを叫ぶように語る。
「わかったか、金金金だ、オレは金が欲しいんだよ」

『レオリオは金だけを求めている人間ではない。治療費の払えない患者を助ける医者になるという夢を持っており、そのために必要な金をがむしゃらに稼ごうとしてハンターを目指しているのだ』
このシーンを、アニメ版はそういう脚本にして表現している。
そのため、アニメのクラピカはレオリオのこの話を聞くと、「そうだったのか、うそつきめ」、「なれるといいな、医者に」と言って満足げに微笑む。
レオリオを信頼に足ると認めたクラピカが心を許し、より関係が深まったことが伝わるシーンになっている。

私も、原作で最初にこの部分を読んだときは、ごく自然にアニメ版と同じ解釈をした。レオリオにはハンターを目指す先に目的があって、金だ金だと言っていたのは照れ隠し的な建前だったんだなと。

原作を読んでいると、この時レオリオがクラピカに打ち明けていたのはそういうことではないことがわかる。
試験終了後、ハンターになったレオリオは、「やっぱり医者になる夢は捨てきれねえから、これから医大を目指す」と言っている。
アニメの脚本どおりの解釈で見ていれば、違和感を感じる。
最初から医者を目指すその前のステップとしてハンターを目指していたのだろうに、なぜ今決意しなおしたようなことを言うのかと。
ハンター試験中のレオリオやトンパの言葉の中に、
「こう見えても医者志望だったんでね」「お前さん、医者志望だったんだろ」
というものがある。過去形なのだ。
アニメ版では、これらのセリフは「こう見えても医者志望なんでね」「あんた、医者志望なんだろ」「あいつは医者志望だから……」と変えられている。(解散のシーンも、「捨てきれないから」という部分はなくなっている)

アニメ版のレオリオは医者になるための金を得るためにハンター試験を受けているが、原作のレオリオはそうではない。
ハンター試験会場へやってくる以前に、レオリオの心の中ですでに医者になるという夢は捨てられている。
ハンター試験を通してその夢を「やっぱり諦めきれない」と抱き直したのであり、少なくともクラピカに問われたあの段階で、レオリオは医者になるための金を稼ぐつもりでいるのではなかった。
本人の言うそのまま、「とにかく金がほしい」からハンターを目指してやってきた。
だからクラピカの信頼に対して謝った。

「手術代がなかったことで大事な友達を失った」

「友達と同じ病気の子供達を治してやりたくて医者を目指した」

「そのためには尚多額の金が必要だとわかった」

「だから金を手に入れたくてハンターを目指している」

語られたこの言葉から想像するレオリオの心として、
「だから(医者になるための)金を手に入れたくてハンターを目指している」
というアニメ版の解釈は、とても筋が通っているし、客観的に見て自然だ。夕方にアニメを見る子供達にも、きっと理解されやすいと思う。
結果、アニメ版の二人の会話は、見ていてすっきりとする、気持ちの良いシーンになっている。
だがレオリオというキャラクターの生々しい傷痕を、深みを見せられ、胸を打たれたような気持ちになるのは原作のほうだ。
「だから(友達を救うことも、夢をかなえることも出来なかった、その原因である)金を手に入れたくてハンターを目指している」。
今現在、溺れている。足りなかったことで苦しみが起こったから、それが欲しい。
なにに使うとかそうではなく、ただ二度と同じ苦しみを味わいたくなくて、それを必死に求めている。
その目的とすら言えないような苦しみから生まれた必死さが、この人物に苛酷な試験に挑み越えていく意思とパワーを与えているのだ。

「オレは単純だからな、医者になろうと思ったぜ。友達と同じ病気の子供を治して、金なんかいらねぇってその子の親に言ってやるのがオレの夢だった」
この言葉から、友人を失くしたことへの彼の悲しみ、苦しみの深さ、「手術代がなかったから救えなかった」ことへの絶望感、無力感、後悔が伝わってくる。
同じ状況をやり直して、結果を変えることで、絶望を救いに修正したいと思っていたのだ。それは使命や夢というより、代償行為だ。
おそらく友人は子供で、レオリオも子供だったのではないだろうか。自分に何も出来なかったこと、その子供の親の悲しむ姿も忘れられずにいたのかもしれない。
その時もしもどこかの医者が「金なんか要らない」と言ってくれていたら友人は救われていたかもしれない、その時自分に足りなかった力を手に入れて、つまり自分が医者になって「金なんか要らない」と言ってやれれば、今度は救える。そうすればこの苦しみが、少しは軽くなる。そういう溺れる者のもがき、暗闇の中わずかな光を追いかけるような必死さを感じる。

そこに「医者になるには手術代よりももっと見たことも無いような大金が必要だった」という、金が足りないことに関わる二度目の無力感が訪れたのだ。「医者になる夢」は彼にとってここで目的でも方法でもなく「笑い話」、自虐的につついて笑う傷になった。代わりに求めはじめたものが金だ。
クラピカの問いに答えたレオリオが、その現在も失われたものを取り戻そうともがいている、傷を治したい、けれどなにが薬になるのかもわからず闇雲になっていることが伝わってくる。その姿は清々しくもかっこよくもないが、言葉に出来ない強い印象が胸に残る。

そしてこのときもレオリオの中で、医者への夢が完全に失われきってはいなかったことも間違いないのだろう。
マラソンで凄まじい気力を見せたのも、ハンターになって金を稼げば、一度は諦めた医者にだってなれるかもしれないという希望への想いもあったからだと思う。
試験での様々な出会いや経験を経て金から医者へと方法が起動修正された、「やっぱり医者の夢は諦めきれない」と決意するに至った彼の心の変化はどのようなものだったのか。

原作のクラピカはレオリオの話を聞いた後、口を噤み、何も言わずになにかを思う。
そこにアニメ版のような、すっきりと納得した、相手を信頼できたことへの満足げな微笑はない。
けれど信頼以上の深い部分に、レオリオの打ち明けた話が触れた、そのことが伝わる。
何故ならクラピカも治らない傷にもがき苦しむ者だからだ。筋が通っていなくても、愚かに見えても、それを必死に追いかけずにはいられない、そういうものをクラピカは知っているのだ。
問いかけながら、クラピカは、レオリオから金は建前であるという答えが返ってくることを期待していた。それまで金ばかりを求める人間を、愚劣で許せないものと切り捨てることにためらいが無かったからだ。
その潔癖さ、頑固さは「仲間達の目が奪われ売りさばかれ買われている」という怒りに関係してクラピカ自身の指針(復讐と断罪)を補強している。だからそれと対立しない、そこに矛盾を投げかけない別のところにレオリオの深み、本質があることを望んだ。「そういうもの」に「心を許しつつある」のではなく「そうではない」から「心を許せるのだ」という解決を欲していた。
しかしそうではなく、ただ必死に金を求める、そこにクラピカが信頼しつつあるレオリオ自身があった。それはクラピカにとって、波紋ではなかっただろうか。小さなほつれにはならなかったのだろうか。

原作では第二話のレオリオとクラピカの決闘を初めて見たとき、私はゴンの「オレには二人が怒っている理由がとても大事なことに思える、だから放っておこう」という言葉がいまいちピンとこなかった。誇り高いクラピカが殺された仲間を侮辱されて「なにより一番怒る」のはよくわかるが、レオリオの「なにより一番怒った」理由とはなんだったのかと不思議に感じた。地雷は「金で買えないものなんかなにもない」という言葉に対してクラピカが言った「品性は金で買えないよ」という言葉だったのだ。なにが、品性だ。そんなくだらないもので、金が無いことで起こることを防げるのか。て感じだろうか。
この時二人は、互いに互いが最も心を縛られているもの、暗闇の中道標にしているものを傷つけあっていた。それも本人も心のどこかでその価値に不安を抱いている、自我との矛盾を自覚しているものを。それはヒビの入った杖を支えに歩いている者がそれを蹴られて怒るような必死の怒りだろう。三秒で決闘になるのも仕方ない。
ここですでにこの二人が正反対に見えて似たもの同士であることが、船員を助けるため海に飛び込んだゴンを同時に助け、一緒になって怒鳴るというシーンに合わせて提示されていた。素敵だ。。

クラピカの問いの回の冒頭でニコルが脱落するが、この合わせ方もすごくいい。それまで挫折なく生きてきたのだろうニコルは脱落し、最後に傷と挫折が明らかになるレオリオは先へ進む。
by crminbsk | 2008-10-27 01:52 | 人物