小学校の同級生だった女の子が、イギリス留学を決意してバイトかけもちで貯金を始めた。一年間で百万円貯める予定だったが、稼ぐ以上に酒を飲み過ぎ、バイトを始める前より所持金は少なくなった。彼女の凄いところは、その金で片道航空券を買ってイギリスに飛び、立派なヘアメイクアーティストになって帰国したところだ。現在は、様々な著名人と共に泣き共に笑う素晴らしい関係性を築いている。最終学歴は中卒の彼女だが、ギャルである彼女にはガッツがある。私はギャルを尊敬している。ギャルには美学とガッツがある。同じ理由で、私はキリスト宣教師を尊敬している。ドロ神父をはじめ、長崎はガッツのある宣教師の話の宝庫である。

長崎の街をふらふらしていたら、福岡在住の女性Ｋ様から「長崎の教会に車で向かっている。よかったら一緒に行かないか」と誘われた。キリストの誕生日に教会に行くだなんて優雅だ。車内で色々話をした。宣教師のガッツやばい。踏み絵を踏まなかった信者のガッツやばい。彼らが普通の人よりも体力があった訳ではない。信じる力だ。自分を信じるだけでは出ない力。自分以外を信じる力。最近は、他者を排除する考え方がブームだ。やりたいことをやろう。やりたくないことはやめよう。好きなことをやろう。嫌いなことなやめよう。好きな人と生きよう。嫌いな人とは離れよう。言いたいことはわかるが、私は嫌いな人に鍛えられた。好きな人より、嫌いな人が私を鍛えた。嫌な人と触れ合うと「世界には色々な人がいるなあ」と思う。ストレスもあるが、その体験を肯定的に捉えることができた時、自分が一回り大きくなる。嫌なことを避けていたら、弱いままだ。嫌なことが鍛えてくれることがある。嫌な人だけが教えてくれることがある。好きなだけでは半分だ。全部なんだよ。おいしいとこどりは出来ないんだよ。全部の中に『おいしい』があるんだよ。

Ｋ様は言った。最近体術を学んでいる。身体を使うのは楽しい。体の軸は誰にでもある。ある人にはあってない人にはない、とかではない。全員にある。頭ばかりが働くと、わちゃわちゃしちゃって「本当は何したいんだろ」「こんなんしてていいのかな」ってなる。低く、低く、重心を低く。ガッツも同じ。全員にある。教会に到着した。絵本のように可愛らしい、小さな小さな教会だ。小さいけれど、大事に使われていることが一目で分かる。大事なものが大事にされている空間にいると、涙が出る。大事なものが大事にされていない空間にいても、涙が出る。同じ涙でも、前者は喜びの涙で、後者は悲しみの涙だ。大事なものを大事にすることができない時、体の軸を失って、自暴自棄になる。自分や他人を、破壊する方向に使ってしまう。自分を大事にするということは、自分の大事なものを大事にするということだ。自分以外のものを大事にすることが、結果、自分を生かす。

誰だって罰を受けるのは嫌だ。だが、正当な罰を求める気持ちもある。そのままでいいよ。大丈夫だよ。あなたは何も悪くないよ。耳障りのいい言葉だけでは、薬漬けにされてしまう。占いにはまり、自己啓発にはまり、スピリチュアルにはまり、ジプシー化する。誰も本当のことを言わない。誰も止めてくれない。全員が耳障りのいい言葉だけを言う世界は、地獄だ。正当な罰が、罪を清算する。罰を与えられないことが一番の罰だ。自分を変えるためには、一回強めのショックが必要になる。人間に、中毒するな。見捨てられる恐怖は、人間を臆病にする。楽しむことよりも、怒られないこと、失敗しないこと、相手を不快にさせないことが優先される。虐待を受けて育った子供のように、魂から楽しさの熱を切り離し、自分を殺して生きる。

クリスマスは神様の誕生日だ。神との繋がりを思い出す日だ。人間に見捨てられても大丈夫。俺たちには神がいる。自暴自棄とは違う。人間を憎むとかではない。逆だ。人間を愛する。嫌われてもいいから愛する。見捨てられてもいいから愛する。大事なものを大事にするために愛する。私にとって人間は大事だ。命は大事だ。キリスト教は迫害の歴史だ。同時に、それでも信じることをやめなかった人々の歴史だ。周囲から見たら、彼らの生き方はただの自暴自棄に見えたかもしれない。無駄死にに見えたかもしれない。だが、違う。私には、彼らが信念に生きたように思える。死んだのではなく、生きたように思える。無駄にしたのではなく、生き切った。溜め込んだのではなく、使い果たした。大事にとっておいたのではなく、燃やし尽くした。乱暴な言葉を使えば、彼らは、私たち現代人に「もったいぶってんじゃねえよ」と喝を入れてくれているように思う。ないふりをするなよ。弱いふりをするなよ。自分を蔑ろにするなよ。大事なものを大事にするんだよ。キャンドルは、大切にとっておくためのものではない。キャンドルの本領が発揮されるのは、闇を照らす時だ。人にはそれぞれの役割がある。自分を使い果たして死にたい。これから東京に行く。