【追跡】恵庭市の牧場 5000万円超の障害年金”横領”問題 男性が証言…市に報告も「連絡なかった」
2023年11月27日 18:28 掲載
北海道恵庭市にある牧場で障がいがある男性3人が、障害年金を牧場に横領され、経済的虐待を受けたなどとして、牧場と市を訴えている問題。前もってこの問題の端緒をつかみ、市側に報告していた男性が証言しました。
恵庭市にある「遠藤牧場」。ここではかつて、3人の男性が劣悪な環境の中、働いていました。
(Q「ストーブはあった?」)牧場で働いていた男性:「ストーブの燃料は使ったらダメと」「あそこ入ってからずっと金を使われっぱなし」
3人はいずれも知的障害があり、「障害年金」を受けていました。この牧場で働いていた数十年の間…そのことを一切、知らずに。
これは3人の口座履歴です。通帳は牧場主が管理していました。履歴には不審な引き出しがあり、口座にはほぼすべての障害年金が残っておらず、その合計額は過去20年分で5000万円以上にのぼります。
牧場主は恵庭市議会の議長を務めた遠藤昭雄氏。2020年2月に病気のため、81歳で死亡しました。
遠藤氏を知る人:「本当にいい人だぞ。あんたらも話したらすぐ打ち解けられる」
周りからの人望も厚かった遠藤氏。遠藤氏の妻は、HTBの取材に対しこう証言しました。
遠藤氏の妻:「父さんが『俺がみな使うぞ』『かかるものはもらうぞ』と。ただでは過ごされないし」(Qお金は返した?)「それは使っているから…食べさせたり。自分たちの生活をするのに。横領なんてしない」
遠藤氏は生前、市内の牧場で働く知的障害者の支援を行う「育恵会」という団体の会長を務めていました。しかし、高齢化などで会員は減少し、去年4月に解散となりました。
障害年金が横領されたのではないか。疑惑が浮上したのは1人の男性による市への報告がきっかけでした。「育恵会」で副会長を務めていたこの男性は、2016年に遠藤牧場のある異変を市に報告していました。
育恵会の元副会長:「牧場は差し押さえられて、牛はいなくなってどうもならないから、困っているから何とかしてやってくれって(遠藤牧場に行った)獣医が頼んできて。恵庭市にはもし困るのであれば(遠藤牧場の障害者3人を)次の施設へ預けるっていうのが、育恵会の仕事ですから、そういう話はしました」
(Q市からは連絡は?)育恵会の元副会長:「市からはないです。遠藤さんからもない」
男性の報告後、恵庭市が障害者支援業務を委託している市内の「事業所」が、遠藤牧場の状況を調べたことがわかっています。
これは、事業所と市の担当者とのやり取りを記録した文書です。牧場で働く3人への聞き取りの記録も残されています。
(事業所による牧場で働いていた人への聞き取り資料より)「廃棄する野菜や野草などを食べることがある」「金銭的詐取も疑われる」「牛用の物というバリカンもあり、『じいちゃん(遠藤氏)がきのう髪、切ってくれた』と話している」「遠藤氏が元市議会議員であったことが分かり、対応に気を付けるようにと達しがあったとのこと」
市の職員が調査に後ろ向きであるかのような態度をみせたという記録も。
(聞き取り資料より)「市としてオープンにしている話ではない」「市単独で扱っていく」
その後、疑惑は追及されることなく、3人は牧場を出たあとに障害年金が横領されたと認識したといいます。
遠藤氏と交流があった元市議会議員の庄田洋さん。牧場で働いていた3人と面識がありました。
「帰るところがない人たちを預かるのはうちしかないだろうという遠藤さんご主人の考え方で、非常にあの家族も難儀したと思う。長年にわたってそれを見て見ぬ振りをしたってのはやはり、私にしては忖度としか思いませんね」
今年8月、遠藤牧場で働いていた障害者3人は障害年金を横領されるなど、経済的虐待を受け、市も問題を隠蔽したとして牧場側の家族と市におよそ9400万円の損害賠償を求める訴えを起こしました。
その後、この件については市議会でも相次いで議員が追求しましたが、市は明確な説明を避けました。
伊東雅彦保健福祉部長:「答弁を差し控えさせていただきたい。裁判の推移によりまして市民または議会にも報告を逐次させていただきたいというふうに考えております」
柏野大介市議:「市は全く非がないということであれば、その主張をここでしていただいて、その上で裁判に臨んだとしても結果は何ら変わるものではないというふうに思うんですけど違いますか」
広中敦総務部長:「裁判の中で我々の主張というのは、法廷で行っていくものでございまして、ここで場外戦のように申し上げるものではないというように私どもは判断しております」
議会は「場外戦」として答弁を控える恵庭市。
原田裕市長:「私ども市民の不利益にならないようにですね、しっかりと裁判所で主張していきたいというふうに思っております」
11月21日には、今回の問題を通して今後の障がい福祉行政を考えてもらいたいと、弁護団が市民集会を開きました。
原告弁護団 中島哲弁護士:「その被害についてそれを知っていながら、見ていないふりをする。そればかりか、それを積極的に隠そうとするのならば到底許されるものではない」
参加者:「市議の皆さんにも関心を持って聞いてほしい」「私たちは障害者である前に1人の人間なのに1人の人間としてみていないのかな」
劣悪な環境に、閉鎖的な空間。障がい者の人権問題に詳しい専門家は、こう指摘します。
東京家政大学 田中恵美子教授:「本当に奴隷制度再来かと思わせるような事件ですから。障害者として社会から意思を求められないで暮らしてきているので、何か自分の意見を言えって言われたことは多分無いような状態で育って来て、常に誰かに人生を決められてきた。障害者たらしめた結果として、意見が言えなくなってると思います」
周りに助けを求めることができなかった障害者の男性3人。彼らが得ていたはずの「権利」の行方は-
裁判は11月28日から始まります。
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