私たちは羽生結弦という歴史のただ中にいる…祈りのショウ、ふたたび。『notte stellata』につどいし矜持、美しきファンたち
目次
『notte stellata』には羽生結弦の等身大の「想い」がとくに詰まっている
『notte stellata』が好きだ。
羽生結弦のショウすべての好きなことは当然として、どうしてもひとつ、いま選べと言われれば、やはり、『notte stellata』が好きだ。
そこには、羽生結弦の等身大の「想い」がとくに詰まっている。
羽生結弦の好きな大地、羽生結弦の好きな人々、羽生結弦の好きなフィギュアスケート、それらはどのショウ、どのプログラムすべてに向けられていることは当然として、それでも『notte stellata』は特別だ。好きだ。
羽生結弦は自分の「経済効果」を、震災のため、多くの人々のために使ってきた
12月6日、あの『notte stellata』ふたたび。『羽生結弦 notte stellata 2024』の開催が発表されました。
ひと足早いクリスマスサプライズ、3月8日から3月10日までの3日間、「あったかい」星々の集まる優しい世界、そして祈りが2024年も世界中に届けられます。
羽生結弦はこれまでも自分の「経済効果」を、震災のため、多くの人々のために使ってきました。震災直後の活動費、競技費用が決して潤沢ではない時代から、羽生結弦は震災に寄り添い、チャリティショーや地元パレードに出演したり、惜しげもなく寄付したりを続けました。真正面から「震災」と向き合ってきました。
それはあのとき生きたかったはずの人々、生き残った人々、その家族や友人、自分の葛藤と戸惑いを愚直なまでに、すべての震災という、時代を共有した人々すべての記憶を永遠にしたいという想い。「羽生結弦」という媒体をぜひ使って欲しい、僕自身は何を言われてもかまわない、だから少しでもいいから、震災とそこに生きた人々、そこに生きる人々を忘れないで欲しい、と滑り続けてきたと思うのです。
その願いが本格的に叶ったショウこそ『notte stellata』とも思うのです。だから、好きだ。
自慢するでもなく、贅沢をするでもなく、ひたすら羽生結弦として正直に願った想い
羽生結弦は前回の『notte stellata』、こう語りました。
「羽生結弦っていう存在として、今まで生きてきて、僕はスケートをやることによって世界を救えるとは思えないですし、スケートで何か世界が変わるって、そんな大それたことはないと思います。ただ、僕はこうやってこの12年間を生きて、一番つらかったであろうこの場所にリンクを張って、こうやって皆さんに希望を届けることができて幸せと同時に、こんな小っちゃな体ですけど色んなことを背負って、毎日毎日スケートのためだけに日々を過ごしたいと思っています。この愛おしい、愛おしい12年間をまた、今日からまた、1秒ずつ、1日ずつ続けて下さい。僕もそうやって生きて行きます」
(会場、筆者抄記)
自慢するでもなく、贅沢をするでもなく、ひたすら羽生結弦として正直に願った想いが、叶った。
被災して、独り震えながら見上げた震災の夜空、輝く星々に希望をみた羽生結弦青年は、その才能と努力でたくさんの富と名声を得ました。それを、彼は震災に使う。社会に、惜しげもなく使う。
言うは容易いですが、それは本当に容易なことではありません。おそらく羽生結弦と共にある人々を除けば、日本より(哀しい話ですが)世界のほうが羽生結弦のこうした厚志と社会性は、ずっと評価してくれているように思います。
「祈り」のショウでもあることをしっかり認識しているファンの方々
そしてあの日、私が『notte stellata』で出会ったのは、礼儀正しく「祈り」のショウでもあることをしっかり認識しているファンの方々でした。
シャトルバスに整然と並び、ときに譲り合い、他者に気遣いながら羽生結弦という存在にふさわしい、恥ずかしくない振る舞いで場をわきまえる、それは羽生結弦と同様の「矜持」ともいえる振る舞いでした。入退場でも、トイレ待ちでも、グッズや周辺の飲食エリアでもそうでした。
どこだって羽生結弦なら満員にできます。しかしあえて、この東北の地を、この日程を選んだ「約束の地」であることをみんな知っている。このセキスイハイムスーパーアリーナが被災地最大の遺体安置所だったことも。だからこその、矜持でした。
「ひとりになって気がつけたんだ。独りになんかさせてくれやしない。みんないる。こんなにいっぱいいる。星たちの光がいちだんと輝きながら、ひとつになった。僕は知っている。ちゃんと受け取ろう。独りじゃない」
2023年『notte stellata』で羽生結弦が綴った言葉、「苦しいのは僕じゃなかった。苦しいのは僕だけじゃなかった」という羽生結弦の気づきと、それを気づかせてくれたのはファンだけでなく、フィギュアスケートの良きライバルであり、歴戦の仲間でもありました。
今回も集うその仲間、トップクラスの星々。ジェイソン・ブラウン、シェイリーン・ボーン、ビオレッタ・アファナシバ、宮原知子、無良崇人、鈴木明子、田中刑事、本郷理華にハビエル・フェルナンデスが加わるサプライズ、そして日本を代表する女優のひとり、大地真央の参加と、まさにバレエの歴史を変えたバレエ・リュスさながらの革新、やはり彼こそ氷上のヴァーツラフ・ニジンスキーです。
僕が皆さんからたくさんの希望を受け取ったように、僕たちスケーターから少しでも多くの希望が届くようにと
私は以前、
「100年を経たいまも燦然と輝く巨星、ニジンスキーと同様、羽生結弦はフィギュアの歴史を変え、100年を経ても燦然と輝く巨星となろう。見上げた星々が、じつは近づけば、いずれも巨大な星々であるように」
と書きましたが、それはいまも変わりがないどころか、自己の確信として強固になりつつあります。
羽生結弦はふたたびの『notte stellata』2024年に際し、こう綴っています。
〈この機会をいただけることが本当に嬉しいです。
Notte Stellataという僕のプログラムの名前を冠してアイスショーを作っていただいているんですけど、このプログラム自体が東日本大震災によりそったもので、3月の開催は僕にとってすごく意味のあるものになっています。
これまで3月11日という日々を繰り返してく中で、どうやって思いを伝えていったらいいのか、どうやったら思いが届くのかなとか、いろんなことを考えてきました。
また、今回も皆さんの前で思いを届けることができて本当に幸せです。
このショーの一番のテーマは希望なので、僕が皆さんからたくさんの希望を受け取ったように、僕たちスケーターから少しでも多くの希望が届くようにという思いを込めながら、祈りながら滑りたいと思っています。〉
※『notte stellata』2024年公演プレスリリース(BS日本、2023年12月6日配信)より。
私たちは羽生結弦という歴史のただ中にいる
祈りから希望へ、羽生結弦が目指した、約束の地における「あったかい」優しい世界。
羽生結弦という存在は、自分を犠牲にして、自分が傷ついてもスケートで人々とともにありたい。そのためならすべてを背負う。何を言われても、ときに辛い目に遭っても、羽生結弦は羽生結弦として氷と向き合う、社会と向き合う、そして、震災と向き合う。
嘘偽り、自慢や欲のために、星は輝くのではない。
私たちは羽生結弦という歴史のただ中にいる。私たちはその羽生結弦の伝説を紡ぐ、ひとりひとりが創作者でもある。羽生結弦と共にある僥倖を知るみなさん、それぞれの「約束の地」で、『notte stellata』で、また会いましょう。