株式会社コンパイル元代表取締役社長、仁井谷正充。その名前にピンとくる人はかなりのゲームマニアだろう。1990年代中盤から後半にかけて、全盛期の売り上げは70億円を超えたコンパイル社の創業者である。
「今は年金生活ですが、たまに副収入があります。年金プラス5万から10万円くらい副収入あれば、生活ができるんです。あとは貯金を取り崩しながら……。でも、本業のゲーム開発で稼げるのが理想ですけどね。なかなかそうはいかないですね」
「ぷよぷよ」で70億円売り上げてテーマパーク建設で90億円の大赤字破産…伝説のクリエイターがそれでも抱く野望とは「流れに流されているうちに当たっちゃったんだよね」
かつて大ヒットゲームを世に送り出したにもかかわらず、忽然とゲーム産業界の表舞台から消えたクリエイターたちがいる。彼らは今何をしているのか。たとえば、「ぷよぷよ」の生みの親である仁井谷正充は、70億円の売り上げを立てたのち、90億円の大赤字で破産し、現在はアパート暮らしをしている。そんな彼の野望は“自伝執筆”なのだが……。
いまの野望は韓国で自叙伝刊行
「今は自叙伝を書いているんです。本業のゲーム開発では稼げないので、一年前まではバイトで警備員や、介護関係の仕事をしていたのですが、韓国の出版社から自叙伝のオファーがあって、200ページくらいのものを書いています。でも、まだ80ページ分くらいしか書けていない…。
当初、執筆期間は6か月くらいで終える予定だったのですが、もう2年以上かかっています。おそらく入稿は来年の4月ごろで、発売は10月のハロウィーンのころになると思います。僕は体育と物書きが苦手なんですよ」
仁井谷氏の仕事場の様子
なぜ韓国での自叙伝出版かという理由を、仁井谷氏はこう説明する。
「コンパイルは、日本のゲーム会社として初めて韓国に現地法人を設立した会社なんです。
大ヒットした『幻世酔虎伝』(1997年リリース)が、その後、韓国の学校で支給されるパソコンに標準でインストールされたことがきっかけで、『幻世酔虎伝』=『コンパイル』=『仁井谷正充』という図式が出来上がったんですよ」
つまり、韓国側からすると日本ゲーム史の偉人として仁井谷氏をとらえていることが、今回の自叙伝出版計画につながっているという。気になる日本語版はというと、「韓国版が出版されれば日本語版の話も進むのではないか」とのことだった。
実際に、コンパイルのソフトは韓国でいまだに根強い人気があるようで、直近では韓国のゲーム会社「DAEWON MEDIA GAME LAB」(大元メディア)からNintendo Switch版の「幻世酔虎伝プラス」が発売されている。また縦スクロール型のシューティングゲーム「ザナック」の発売も、同じく韓国の「Viccom」(ビッコム社)から12月で決まっている。
それら過去の作品に寄せて、YouTube動画制作や、パッケージへのサインなどの販促活動の協力金をもらっており、それらが仁井谷氏の生活の一助になっているという。
これだけ振れ幅のある人生ついて、仁井谷氏自身はどう思っているのかを改めて聞いてみた。
「今は『にょきにょき』の任天堂Switch版を世に出して、ドカーンと10万本くらい売れたらいいなと思っています。現に韓国をはじめとして、ネットでも僕のことを支援してくれるツイッターのフォロワーさんも7000人くらいいますからね。もし一人になっても、Unity(ユニティ)などの開発ツールを使って、やり続けますよ。そういう意味でも便利な時代になったんです。
僕は過去を振り返らない、過去を振り返って、それを肴にお酒飲むとか、そういうタイプじゃないんです。常に何か新しいことをやってみたいし、人生に悲観することがないんです。任天堂さんあたりが僕に200億円預けてくれたら絶対にヒット作品を作れると思うんですけどね」
写真・文/黒川文雄
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