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「妊娠のリミット? 何それ?」少子化の原因は男たちの“無知”と“過信”にあり?

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「オトコ版エア妊活」を始めるには、何をすればいいのか?

清田 でもさ、今は女性も同じように働いてるわけで、忙しいのは男も女も一緒だよね?

佐藤 そうだね。男だけが忙しいわけではないもんね。

清田 女の人は20代後半〜30代前半になると、仕事が忙しくなってくる時期と身体的な“ウミドキ(=産みどき)”が重なってしまう。そういう中で、いろんな選択肢を天秤にかけ、やれることとやれないことを現実的に振り分けていくんだと思う。

佐藤 よく考えたら、それってかなりシビアな状況だよね。リミットまでの時間を刻々と感じながら、絶えず選択と決断を迫られるわけで……。

清田 そういう日々の中で具体的に取り得るアクションとして、この本では“エア妊活”というものが推奨されている。これはパートナーと一緒に行う“妊活”に対し、「ひとりで始められる妊娠の準備」を示す言葉で。

佐藤 卵子凍結保存もその一環で、若い(=妊娠率が高い)卵子を保存しておけば、リミットへの恐怖がいくぶん緩和されて精神的な安定剤になる、という効能も紹介されてたね。

清田 その一方で、これが提唱された背景には「男はあてにならないから、自分でできることはやっておこう」という諦念があるんだよね。男である我々は、この事実を重く受けとめるべきだと強く感じた。

佐藤 香川さんも「赤ちゃんになる素質を持った精子と卵子が出会う──これが妊娠に必要な唯一の条件です」と書いているように、妊娠には基本的に男性の存在が不可欠のはず。そんな男たちに半分絶望・半分期待をしつつ、自分でできる準備はやっておくって……どんだけ女の人は重い荷物を背負わされてるんだって話だよ……。

清田 もちろんすべての女性に出産願望があるわけじゃないと思うけど、「子供は欲しくない」と積極的に考えている女性ですら、妊娠のリミットは意識するというもんね。

佐藤 それなのに、一方の我々男子は、自分の忙しさばかりを主張し、空いた時間は居眠りしたり、オナニーしたり、パズドラやったり、まとめサイト見たりしてるわけでしょ? さすがにこの温度差はヤバイなって気がしてきました……。

清田 だとしたら、男はどうすればよいのだろうか?

佐藤 ひとつは「自分の身体を知る」ってことかなと思った。相手のことばっか考えろっていうのもやっぱり限界があると思うから、まずは自分のことから始める、というか。この本によれば、不妊の原因の半分は男にあるんだよね。でも男って、まさか自分の精子に生殖能力がないかもなんてことは考えないでしょ。

清田 ていうか、精子がどうやって作られているかすら知らないよね……。

佐藤 正直、「毎日タマキンで作られてるんだろうなあ」くらいの漠然としたイメージしかないよね。男は女性の身体を知らないばかりか、自分の身体に対する意識が低すぎる。だから、まずは「精子検査に行く」ってのが具体的に取れるアクションじゃないかなと思った。

清田 そうだね。まあ、検査でダイジョブな結果が出て、「ガハハ、オレ様は種ありだ、立派なオトコだ!」ってなる男もいそうだけど……。

佐藤 いずれにせよ、男も自分の身体について真剣に考えることが大事ではないか。老化だって当然するし、見えない部分も年々変化している。そういうイメージを持てれば、例の“無限論”的な発想を見つめ直すきっかけになるんじゃないかな。

清田 それは大事なことだね。いつまでも若いままでいられると思ってるから、「全部やれる!」みたいな感覚が抜けないんだろうな。そう考えると、男には「時間」という概念が薄いのかもね。

佐藤 それこそ男が時間の経過をリアルに体感するのって、マジで「ハゲたとき」くらいなもんでしょ。そう考えると、ハゲることに対する恐怖心はわりと大切な“教材”なのかもしれない。

清田 身体だけじゃなく、自分の仕事や生活スタイルそのものを見つめ直すことも、「オトコ版エア妊活」になり得ると思う。自分が何にどれだけ時間とエネルギーを使っているかを具体的に分析し、キャパシティの限界を見定める。あれもこれもは無理なんだから、「これを大事にしたいならあれを捨てる」という取捨選択の発想を持つ。

佐藤 簡単なようで、それが結構難しかったりするんだよね。知識や経験を活かすためには、時間的・体力的な「余白」を作っておく必要があるってことか……。そのためには、勇気を持って何かをやめなきゃいけないときもある。諦める勇気って、新書のタイトルみたいだけど。

清田 この本でも、「気持ちをオンではなく“オフ”にする習慣を身につけましょう」ということが繰り返し述べられている。家に仕事を持ち帰らないとか、テレビやスマホばっか見ないとか、電気をつけっぱなしにして寝ないとか。我々もこれは学ぶべきだと思った。これからの時代は、他者と仲良くやっていくためにも、何かを「がんばる」よりも「やめる/諦める」というアクションの方が大事になってくるかもね。

佐藤 私は暇や退屈が怖いので、空いた時間ができるとスマホを見たりして埋めようとしちゃうんですが……気をつけます。

清田 まあ、この社会に暮らしていると、「あなたの知らない楽しいことがまだまだたくさんありますよ」「スキマ時間をもっと有効活用して人生を充実させましょう」みたいなメッセージをどうしても受け取っちゃうからね……。でも一方で、「少子化だから子供産め」というメッセージも受け取っている。これって実はアンビバレントな内容なんだぞってことは押さえておいた方がいいかも。

佐藤 じゃないと混乱しちゃうもんね。これは男女に限った話ではなく。

清田 とにかく、この時代に子供を産んで育てるというのはそれなりに大変なことで、今はその負荷が女の人に偏りまくっている。女も働け。女子力を磨け。いつまでも若くいろ。でも子供も産め。よき妻になり、よき母にもなれ──こんな高すぎる要求を男や社会から押しつけられているのが現実だと思う。その一方で、我々男は仕事だけしてればとりあえずオッケーということになっていて、結婚や子供を持つことに対してもかなりのんびり構えている……。そのエグすぎる男女差を直視し、男が自分自身を見つめ直すためにも、この本は非常に有効な一冊だと感じました。

佐藤 マジで男の人に読んで欲しいね。そんでもって感想を語り合いたい。めっちゃ生々しくてヘコむけど、男が「脱・社会性不妊」の第一歩を踏み出すきっかけになる本だと思うので!

手始めに精子検査をしてきました(ドキドキしながら結果待ち……by佐藤広報)

手始めに精子検査をしてきました(ドキドキしながら結果待ち……by佐藤広報)

桃山商事 清田代表・佐藤広報/二軍男子で構成された恋バナ収集ユニット「桃山商事」。失恋ホスト、恋のお悩み相談、恋愛コラムの執筆など、何でも手がける恋愛の総合商社。男女のすれ違いを考える恋バナポッドキャスト『二軍ラジオ』も更新中。コンセプトは“オトコ版 SEX AND THE CITY”。著書『二軍男子が恋バナはじめました。』(原書房)が発売中。Twitterは コチラ

backno.

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清田代表/桃山商事

恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。失恋ホスト、恋のお悩み相談、恋愛コラムの執筆などを通じ、恋愛とジェンダーの問題について考えている。著書に『二軍男子が恋バナはじめました。』(原書房)や『大学1年生の歩き方』(左右社/トミヤマユキコさんとの共著)がある。

twitter:@momoyama_radio