「忙しい→疲れる→メモリがパンパン→逃げる」というクソ男の法則
清田 この本には「社会性不妊」という言葉が出てくるじゃない? 女性が「産みたいけど産めない」という状況に陥ってしまうのは、何もすべて「自分の責任」というわけではない。
佐藤 モテないからとか、婚活サボってるからとか、そういう“自己責任論”で済ませられる問題じゃないんだよね。
清田 うん。背景には教育の不備や古い価値観、労働システムや企業の体質など、実はいろんな要因が複雑に絡まり合っていて、それを著者は「社会性不妊」と呼んでいるんだけど、我々男が卵子や妊娠について無知というのも、おそらくその一部なんだと思う。
佐藤 失恋ホストでも、「私は結婚して子供も産みたいけど、彼氏がまったくそれに向き合ってくれない」的な話が本当に多いもんね……。決断を先延ばしにしようとする彼氏のせいで妊娠のリミットが迫ってしまうとしたら、それは立派な「社会性不妊」だよなあ。
清田 思い起こせば、自分自身も完全にそれでした。事実、30歳のときに5年近くつき合った恋人と結婚をめぐるすれ違いで別れたんだけど、同じ年だった彼女の中には、妊娠のリミット問題がおそらくあった。でも、一方の自分にはそういう意識がまるでなく……。
佐藤 当時、清田代表は学生時代の仲間と作った会社で働いていて、仕事を軌道に乗せようともがいていた時期だったもんね。日々の仕事が忙しいというのもあったし、将来がまだまだ不透明という感じもあって、結婚にリアリティを感じられなかった。それで結果的にフラれてしまい、その後3年くらい引きずっていた(笑)。
清田 おそらく彼女は、「ああ、こいつ自分のことでいっぱいいっぱいで、私との将来についてちゃんと向き合ってはくれないだろうな……」という絶望を感じたのではないか。当時の自分は「結婚する気はある。だからもうちょっと時間をくれ!」ってことしか考えてなくて、マジで無知もいいところでした……。
佐藤 彼女からしたら「いつまで待てばいいんだよ!」って話だもんね。要するに、単なるモラトリアムの先延ばしなんだよね。
清田 完全にそうですね……。
佐藤 ホント無知って怖いよ。代表はその後3年も引きずるくらい、彼女のことが好きだったわけでしょ? なのに、無知が原因で決定的なすれ違いが生じてしまった。妊娠のリミット意識を共有し、彼女とちゃんと向き合うことができていれば、もしかしたら違う未来があったのかもしれない。
清田 でもさ、仮に彼女が妊娠のリミットを意識した上で結婚の話し合いを切り出していたとして、当時の自分がそれを知っていたとしても、本当に結婚へ向けた具体的なアクションが取れたのかというと、ちょっと疑問な部分もあって。
佐藤 どういうこと?
清田 当時勤めていた会社は自営業的なところで、収入や働き方など、まだまだ不安定な部分が多々あったのね。毎晩遅くまで会社にいたし、十分な貯金ができるほどの稼ぎもなかった。でも仕事は楽しかったし、将来への希望もあった。そういう中で、生活が完全に仕事中心になっていて、結婚や出産のことを具体的に考えるだけのキャパシティが残っていなかったというのが正直な感覚で……。
佐藤 どんな会社にいても、20代後半〜30代前半って仕事がどんどん忙しくなっていく時期だもんね。
清田 だからさ、単に知識として知るだけじゃなく、そういう仕事環境そのものを見つめ直すってところから始めないと、具体的なアクションを起こすことにならないんじゃないかと思ったのよ。極端な話、別の会社に移るくらいしないと無理だったような気がする。
佐藤 話し合いをして、「俺は変わる」「心を入れ替えた」とか言いながら、結局は行動を何も変えないっていうのがクソ男の典型的なパターンだもんなあ。
清田 要するに覚悟がなくて、変化を恐れてたってことだと思うんだけど、ひとつ検討の余地があるとすれば、もしかしたら男って、そもそも「変わり方がわからない」という問題があるような気がする。
佐藤 変わり方というと?
清田 当時の自分もそうだったけど、こういう状況に立たされると、男ってつい「全部がんばる!」という方向に考えちゃうと思うのよ。仕事もがんばる、彼女との関係もがんばる、趣味もがんばる、貯金もがんばる……といった具合に、「努力によって問題を解決しよう」という発想についなってしまうと思うわけです。
佐藤 ああ、その感覚はとてもよくわかる。
清田 でもさ、これって100を150にしようという発想で、絶対に無理があるよね。ただでさえキャパシティはもうパンパンなわけで。例えば仕事をがんばって早く終わらせ、いつもより3時間早く帰れたとしても、そうやって捻出できた3時間って、余力のないヘトヘトな状態の3時間だと思うのよ。
佐藤 なるほど。その3時間にまた“がんばる案件”をブチ込もうとすると、やっぱり無理が生じるかもね。でも、私もそれをついやっちゃいます。しかも、彼女との時間をそういうところにねじ込もうとして、結局会っても疲れててゴロゴロしちゃうとか、そんなことも多々ありました。
清田 甘い見通しのまま全部をやろうとして、結局すべてが中途半端になっちゃって、自分にとっても相手にとっても良くない結果になる……。男が何かと面倒くさがったり逃げたがったりする背景には、そんなプロセスがあるような気がする。本当に変化を考えるなら、この発想から見直す必要があると思うんだけど、なぜか男は「全部やれる!」という“無限論”的な過信を捨てられない。
佐藤 「全部がんばる!」って、要するに「変わりたくない!」って言ってるのと同じなんだろうなあ。威勢のいいことを言うわりに、「忙しい→疲れる→キャパがパンパンになる→逃げる」というループに易々とハマっていく。“無限な俺”はナリを潜め、現実を直視せず、いろいろ面倒くさくなっちゃって、一番楽チンな“現状維持”へ流れようとする……。我々男は、一体どうしたらいいでしょうか。