【今回のPick upブック】
女性が抱える“妊娠のリミット意識”を、男たちは本当に知らない
清田代表(以下、清田) 今回は、「卵子凍結保存」をテーマにした『私、いつまで産めますか?』(WAVE出版)という本を取り上げてみたいと思います。
佐藤広報(以下、佐藤) のっけから「何で男が卵子の本を?」と思われそうですが……。
清田 桃山商事では「失恋ホスト」といって、悩みを抱える女の人たちから恋バナを聞かせてもらう活動をしているんだけど、相談者に一番多いのはアラサー世代の女性で、かなりのケースに“妊娠のリミット意識”という問題が関わっていることに気づかされる。
佐藤 「彼女は結婚して子供を産みたいけど、彼氏は曖昧な態度で決断を先延ばしにしようとする」みたいな話は本当に多いし、恋人がいない人でも、どんどんリミットに近づいていく感覚に苛まれ、精神的に追い込まれているケースが多々あるよね。
清田 これは激しく自戒を込めてだけど……男ってそのあたりのことを本当に、まったく知らないと思うわけです。我々だって、こういう活動をしてなかったら、リミット意識の存在にすら気づいていなかっただろうし。
佐藤 ホントそうだよね。正直に言えば、今だってどこまでわかっているか自信はありません……。
清田 我々は男なので、卵子のことを体感的に理解することは絶対にできない。でも、男の無知が恋愛における諸問題の原因になっていることは事実だと思う。まずは知ることから始めようというわけで、この本を題材に考えていきたいなと。
佐藤 個人的にも耳が痛すぎてもげそうなテーマなので、めっちゃ怖いです。
清田 著者の香川則子さんは「生殖工学」というジャンルの専門家で、ヒトや動物の卵子について研究してきた人なんだよね。さらに、卵子凍結保存を行う民間会社「リプロセルフバンク」の所長も務めているという、まさに“卵子のプロ”で。
佐藤 とにかく読めば読むほど知らないことばかりで、正直ゾッとしたし、ヘコみました。我々は以前、Podcast番組『二軍ラジオ』で「男子が学ぶ生理のハナシ」という回を放送したことがあり、こういった問題について多少の知識は持ってるような気でいたけど、思い上がりもいいとこだったわ。
清田 この本は、帯に「産みたいけど、いまは産めない。」というコピーが踊っているように、出産願望はあるものの、「仕事が忙しい」とか「パートナーがいない」などといった事情があって「いまは産めない」女性を対象に、卵子凍結保存や不妊治療について丁寧に解説していくという内容になっている。
佐藤 女性向けの本なんだけど、“読者が抱きがちな疑問”に沿って解説していく構成になってるし、イラストや図版で内容を随時フォローしてくれるから、男の自分が読んでもめっちゃわかりやすかったです。
清田 年齢別の出産率や流産率、卵子老化や卵巣年齢の実態、不妊治療の種類とそれぞれの妊娠率や費用、卵子凍結保存の効能、採卵手術の方法など……紹介されている知識がとにかく具体的だった。そして、すべてのデータが「歳を取れば取るほど妊娠・出産をめぐる状況が厳しくなっていく」ということを物語っていた。
佐藤 妊娠率が下がるだけでなく、遺伝子のエラーが起こりやすくなるし、不妊治療にかかる費用も高くなるし、出産時のリスクも上がっていく……。高齢になるほど産みづらくなるというのは、どうやら事実のようですね。
※本書の内容はこちらの記事にも詳しいので、あわせてご覧いただけると幸いです。
清田 著者は科学者なので、基本的にはデータや統計をもとに「現実を直視しましょう」という態度の書き方になっていて、変に希望をチラつかせるようなことは決して言わない。でも一方で、香川さん自身も「産むこと」について悩む女性の一人であり、読者への深い共感や、事実を突きつけることへのためらいが随所に表れている。その優しさが本書の魅力になっているようにも感じた。
佐藤 個人的に驚いたのは、女性の中にも正しい知識を身につけている人はさほど多くないという点で。ちゃんと知らないがゆえに、過度に不安を抱いてしまったり、逆に楽観的に構えすぎてしまったり……そういうケースが多々あるみたいだね。
清田 そうだね。正しい知識を学ぶって口で言うほど楽なことじゃないだろうし、目を背けたい事実だっていろいろあると思う。そんな女性たちに対し、「産みたい気持ちは痛いほどわかる。でも、誤解や知識不足を抱えたまま突っ走ってしまうと、悩みや苦しみがさらに増しかねない。だから正しい知識を学び、現実的に対処していきましょう」ってメッセージを伝えようという意志を強く感じた。
佐藤 女性にとっては頼もしいだろうなあ。でも、そうやって真摯に向き合おうとしている人たちがいる一方で、なぜ男はここまで無知でいられるのか……。男にとって、妊娠って「中出しするとできるもの」くらいの、おっそろしく低解像度な理解が一般的じゃないですか。それに、妊娠を「女の仕事」として“他人事”に捉えている節もある。……死にましょう。