連載

男たちに蔓延する「Fw:症候群」とは? 黙殺される『問題のあるレストラン』から見えたもの

【この記事のキーワード】

私たちは「いい仕事がしたい」だけ。頼むから邪魔だけはしないで!

清田 「Fw:」ってのはメールを転送したときにつくマークのことなんだけど、仕事とかでよくあるじゃん、AとBの仲介に入ってる人間が、面倒くさがってAからのメールをBに、BからのメールをAにそのまま転送しちゃうってケースが。

佐藤 な、何の話ですか……?

清田 あれって仕事としてどうなのって思うのよ。だって、本来ならAとBの間に入り、全体のことを考えて双方に仕事を割り振ったり、バランスを取ったり、互いの言い分を調整したりするのが仲介者の役割だよね。それをやらず、ただ「Aさんがこう言ってますよ〜」「Bさんはこう言ってますよ〜」ってメールを転送してるだけなら、その人がいる意味ってないと思うのよ。

佐藤 ああ、なるほど。私もたまに仕事でやっちゃうんで、非常に耳が痛いです。「あとは現場同士で直接やってください」的なやつね……。でも、それが雨木社長と何の関係があるの?

清田 雨木はさ、おそらく家庭のことにうっすら罪悪感があったんだと思う。「金は出す」ってことを強調しているのも、そのためではないか。で、千佳と奏子が和解して一緒に暮らすことは、雨木にとって「罪悪感の棚卸し」になるんだと思う。それゆえに、母娘の同居をしきりにプッシュしていた。だからあれは、二人のためじゃなく、徹底的に自分のための行為なんだよ。

佐藤 ヘタすりゃ「これで俺は責任を果たした」くらいに考えるかもね……。

清田 本当は単なる責任回避や労力のスキップなんだけど、「それが最も合理的でしょ」みたいな都合のいいロジックに包んで正当化しようとする……。これを“Fw:症候群”と名づけたいわけです。

佐藤 確かによく考えたらそれって頻繁に起こってることかもね。例えば既婚女性からよく聞く話に、泣いてる赤ちゃんを見て、「泣いてるよ〜」って報告してくる旦那に腹が立つとか、「お袋がこう言ってんだけど」って姑の言葉をそのまま伝えてくる旦那に毎回絶望するみたいなのがあるけど、これも完全に“Fw:夫”でしょ。だってこれ、「おめぇが一回引き受けろや!」って話じゃないですか。

清田 こうやって、ドラマに描かれていることを掘り下げていくと、男だったら誰しもどこかしら思い当たるところがあると思う。何しろこの脚本を書いているのは坂元裕二さんという男性だからね。前にこの連載でも坂元さん脚本の『東京ラブストーリー』に出てくるクソ男に言いがかりをつけまくったけど、あのドラマを書いた人とは思えない変貌ぶり。おそらく、自己反省も多分に込められているんじゃないかな。

【※坂元裕二:『最高の離婚』(フジテレビ)や『Woman』(日本テレビ)などで知られる脚本家。1991年の大ヒットドラマ『東京ラブストーリー』(フジテレビ)の脚本も担当していた】

佐藤 最悪なのはさ、このドラマを見た男が「俺は違ぇから」ってなっちゃうことだよね。「うわっ、このセクハラ男マジ最低だな!」ってなって、自分との共通点を探すことなく、「俺はこいつらとは違ぇ」ってどことなく免罪されてような気になってしまう。それが一番怖いことだと思う。

清田 そうだね……。そもそもさ、これは言うなれば「勧善懲悪」の話だし、こういう物語が需要されるのは、それだけ女性たちの間に怒りや悲しみがガスのように充満しているからだよね。しかも、このドラマには「いろんな個性の仲間を集めてパーティを作る」とか、「一致団結して悪者を倒す」みたいな、本来なら男子が大好物なドラクエ的要素も満載なわけじゃないですか。

佐藤 確かに。で、昔だったら登場人物は「男子チームの中に一人だけ女子がいる」という編成になってただろうね。

清田 それが今や「全員女子」のパーティになっている。しかも、彼女たちは“痛みを媒介にしたつながり”で結束していて、その痛みを生み出したのは他ならぬ男なわけで……。

佐藤 こういう連帯って、男にはなかなかできないものだよね。

清田 そう考えると、『問題のあるレストラン』の“問題”って、そこに集う女性たちが抱えている問題のことでもあると思うけど、もしかしたらこれ、「問題があるのはお前ら男たちだよ!」ってことなのかもしれない。

佐藤 川奈さんは最初「キラキラ巻き髪量産型女子」って呼ばれてたけど、このドラマに出てくる男たちはほぼ似たような性質を持っているわけで……そうなると、「量産型なのはお前ら男子の方だよ」って言われているような気もしてきた。

清田 このドラマは、「いい仕事がしたい」というたま子のセリフで始まっているじゃない? ただそれだけを願っているのに、男の性欲とか、男の無神経とか、男のプライドとか、それらを肯定する男社会の構造とか、そういうものにいちいち邪魔をされ、足を引っ張られ、いい仕事がなかなかできないでいる……。

佐藤 そうだね。直接的にしろ間接的にしろ、ここで描かれるあらゆる問題の原因に男が関わっている。でも、男はそれに向き合おうとしないし、自分が間接的な要因になっていることなんて、想像すらしない。だからまったく気づいてないし、それどころか「いい仕事ができないのは女性自身に問題があるのでは?」みたいなことすら言ってくるからね。ああ、何か絶望的だな……。

清田 門司がたま子にフラれたのも、「俺は関係ない」って態度が原因だったしね。

佐藤 あれは非常に象徴的なひと幕だと思うわ。

清田 だからもう、これ以上邪魔をしないでくれ。私たちはただ普通に働きたいだけだし、男社会を維持したいならもうそれでいい。別に和解したいわけじゃないし、私らは私らでやっていくから、お願いだからせめて足だけは引っ張らないで──。と、もしかしたらこのドラマは、女性たちのそんな想いを代弁しているドラマなのかもとすら思えてきた。

佐藤 そうなると、いよいよ男性不要論がリアルな感じになってくるね。

清田 それは悲しいもんね。まあ、我々の受け取り方も大袈裟すぎかもしれないけど、そういう未来を予見するドラマであることは確かだと思うので、そこは真摯に受けとめつつ……とにかく男子はみんな見よう\(^o^)/

あったかいポトフを作り、夜空の下でディナーをしました。

あったかいポトフを作り、夜空の下でディナーをしました。

桃山商事 清田代表・佐藤広報/二軍男子で構成された恋バナ収集ユニット「桃山商事」。失恋ホスト、恋のお悩み相談、恋愛コラムの執筆など、何でも手がける恋愛の総合商社。男女のすれ違いを考える恋バナポッドキャスト『二軍ラジオ』も更新中。コンセプトは“オトコ版 SEX AND THE CITY”。著書『二軍男子が恋バナはじめました。』(原書房)が発売中。Twitterは コチラ

backno.

1 2 3

清田代表/桃山商事

恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。失恋ホスト、恋のお悩み相談、恋愛コラムの執筆などを通じ、恋愛とジェンダーの問題について考えている。著書に『二軍男子が恋バナはじめました。』(原書房)や『大学1年生の歩き方』(左右社/トミヤマユキコさんとの共著)がある。

twitter:@momoyama_radio