【今回のPick upドラマ】
この作品が“テレビドラマ”になっていることの意味は重い
清田代表(以下、清田) 今回は、現在フジテレビで放送中のドラマ『問題のあるレストラン』を取り上げてみたいと思います。
佐藤広報(以下、佐藤) これは放送開始直後から大きな話題になった作品で、我々がここで語るのは若干“今さら感”も否めませんが……臆せず行ってみましょう。
清田 そうだね。まずは前提的な話になってしまうけど、これは主人公の田中たま子(真木よう子)が仲間たちと小さなレストランを始めるという物語で、その仲間たちがみんな個性的でおもしろい。
佐藤 シングルマザーの元主婦(三千院鏡子/臼田あさ美)、東大卒の意識高い系女子(新田結実/二階堂ふみ)、女装のパティシエ(几ハイジ/安田顕)、対人恐怖症の社長令嬢(雨木千佳/松岡茉優)、キラキラ巻き髪量産型女子(川奈藍里/高畑充希)など、出てくる女性たちが全員めっちゃ濃いキャラ付けをされている(笑)。
清田 そして、みんなそれぞれの“問題”を抱えていて、セクハラ、モラハラ、パワハラ、ネグレクト、ストーカー、マザコン、ヤリ逃げ、性差別……などなど、彼女たちは様々な苦難に遭い、尊厳を激しく傷つけられた過去を持っている。さらに、それらの背景には必ずと言っていいほどクソな男たちが存在していて、このドラマはそれを極めて意図的に描いている。
佐藤 たま子がレストランを始めたのも同じで、きっかけは前に勤めていた会社で起きた同僚のセクハラ事件なんだよね。たま子の高校の同級生でもある藤村五月(菊地亜希子)がとある不祥事の責任をかぶり、社長(雨木太郎/杉本哲太)をはじめ役員たちに謝罪するんだけど、そこで「裸になって謝れ」と要求される……。
清田 第1話からすごいシーンで、反響も大きかったね。五月は全員男性という状況で裸になり、それがきっかけで会社を辞める。で、これに胸を痛めたたま子も会社を飛び出し、雨木社長が経営するレストランの目の前に自分のレストランをオープンする……。つまりこれは、ある種の“復讐劇”なんだよね。
佐藤 このドラマでは、「女VS男」の構図がこれでもかというくらい繰り返し描かれている。男は徹底して“悪者側”でね。そのせいか、これだけ反響の大きなドラマなのに、ネットでは男性の感想がほとんど見当たらない。あったとしても、「こんなセクハラ実際にはないだろ!」「パワハラとか大袈裟に描きすぎ!」みたいな声ばかりで……。視聴者数も、ドラマへの評価も、かなり男女差があるように感じました。
清田 実際、作品としての評判はすごくいいのに、視聴率の方がなかなか伸びていないみたい。これは想像だけど、男の人に見られていないってのが大きいのではないか……。
佐藤 絶対そうでしょ。でも、これはマジで男が見た方がいいドラマだと思うんだけどなあ。確かに男は、見ててキツいよ。セクハラするオヤジとか、ストーカー男とか、ナチュラルに女の人を下に見てる男とか、めっちゃリアルに描かれてるわけで。毎度のことながら、「自分にも同じようなとこがあるわ……」って、イヤ〜な気持ちになる。
清田 そうだね。でも、これはテレビドラマという“超メジャーな場所”で起きていること。その事実は重く受けとめるべきだと思うのよ。
佐藤 どういうこと?
清田 少し話は逸れるけど、批評家の宇野常寛さんが「記憶資源」という言葉を使っていて、これは「人々に広く共有されている記憶や体験を資源として活用する」というような意味なんだけど、『問題のあるレストラン』も、女性たちの記憶資源に訴えかける内容になっているからこそ、大きな反響が生まれたのではないか。
佐藤 確かにネットでも、「まったく同じセクハラを受けたことがある!」「既視感ありすぎてつらい……」みたいな女性の感想がめっちゃ多かったわ。女性たちにとってはいろいろ共感できる内容なんだと思う。作り手も、相当入念に取材してきたんだろうなって感じがした。
清田 そう考えるとさ、ここに描かれているのは「極度にデフォルメされた一部のクソ男たち」ではなく、「どこにでもいる一般的な男たち」なんだよ。これがテレビドラマになっているということは、つまり「すべての男に関係があるぞ!」ってことの証左ではないか……。
佐藤 大袈裟に描かれているように見えるのも、おそらく「ここまで味を濃くしてあげないとお前ら男はわかんねえだろ!」ってことなんだろうなあ。