「裏サービス」の提案に興奮する男たち
佐藤 田房さんはエロ本でライターをしていたとき、取材で見たこと、感じたことを素直に書かせてもらえなかったみたいだね。たとえインタビューした風俗嬢がお客さんのことをdisってても、そのことを書けない。なぜなら、男の夢を壊しちゃダメだから。
清田 記事では「毎日お客さんにイカされちゃってるんだって☆」って書かなきゃいけなかったみたいで……書き手としてはかなり鬱憤も溜まったと思う。そして、それがこの本の原動力になっている。
佐藤 オナニークラブを取材した章ではこんなことも書いているんだけど、これ、思い当たる節がありすぎてマジでゾッとしたわ……。
〈男性誌に必要な質問は「客に興奮するかどうか」。つまりは「女の子に触れない客として行った時、その女の子の気が変わって、触らせてくれたり最後までさせてくれる可能性」について、読者の男たちは知りたがっている〉
佐藤 正直、こういう気持ちって私の中にもあるんですよ。というのも、以前ファッションヘルスに行ったとき、お店のお姉さんが口でしてくれたんだけど、途中でいきなり「もう3万くれたら本番もいいよ」って耳打ちしてきたことがあって。
清田 ちょ、それってイリーガルなやつでは……?
佐藤 いやいや、もちろん断りましたよ! お金もなかったので、遠慮しました。でも、これは正直に言いますけど、内心ではゾゾゾって得体の知れない興奮がわき上がってきたのは確かです。
清田 それってどういう感覚なの?
佐藤 何というか、「俺だけに裏サービスを提案してくれた!」って感じかな。
清田 どのお客さんにも言ってるんじゃないの?
佐藤 冷静に考えればそうかもなんだけど、そのときは冷静さの欠片もないわけですよ。男ってさ、「俺は他の男とは違う」って思いたい生き物じゃないですか。で、キャバや風俗でも、「あなたは他のお客さんとは違いますよ」って認められたい願望を持っていると思うんだよね。少なくとも私はそうでした。
清田 だから裏サービスの提案に興奮したわけか。でも、何かちょっとわかるような気がする……。それ聞いて、初めて風俗に行ったときのことを思い出した。
佐藤 初めてって、大学生のときだっけ?
清田 そうそう、30分5000円ポッキリの割引券を握りしめて池袋のファッションヘルスに入ったんだけど、その日は平日の昼間なのにかなり混んでて、待合室で「F」って書かれた番号札を渡され、しばらく待っていたのね。
佐藤 サラリーマンとかが仕事をサボって来てるんだよね。
清田 そこからずっと「Fさん」って呼ばれてたんだけど、いざ順番が来ると、Fである私は服を脱ぎ、シャワーを浴び、イソジンでうがいをさせられ、ベッドに横たわり、口でしてもらって、あっさり果てて、「ピピピピピ!」とタイマーがけたたましく鳴り響き、それで終了。
佐藤 まあ、30分コースならそんなもんでしょ。
清田 とにかく会話がほとんどなかったのよ。「大学生なんです」って言っても、「そうなんですね〜」みたいな薄いリアクションで、こっちにまったく興味なしって感じで。サービス自体は確かに気持ちよかったけど、終わった後に言いようのない虚しさを感じた。で、その気分の正体が、さっきの広報の話を聞いてちょっとわかった気がする。