世界一周「何でもレポート」
チャレンジ!外国語 外務省の外国語専門家インタビュー
ポーランド語の専門家 石原さん
Cześć(チェシチ)=こんにちは!
「チャレンジ!外国語」パート2第22回は、ポーランド語の石原さんに登場いただきます。外務省入省前には、ポーランドとの接点がほぼなかったとのことですが、一体どのような理由でポーランド語を選択し、習得していったのでしょうか。
ポーランド語との出会い
1カ所にとどまらず、様々な場所で働きたいという理由から外務省に入省したとのことですが、専門言語としてポーランドを選んだ理由は何ですか?
「メジャーな言語よりマイナーな言語を極めることで、プロフェッショナルになることに憧れていました。『これをやるならこの人!』みたいになりたかったのです。選択肢が20か国語ほどある中でどれにしようかと考えている時に、『チャレンジ!外国語』を目にしました。ポーランド語の記事を読み、いいなと思って選択しました。ポーランドは親日国で、経済的にも勢いを感じていました。」
なんと、この特集が選択の一助となっていたなんて!ありがたい限りです。初めて学ぶポーランド語はいかがでしたか?
「もともとロシア語を大学で少し勉強していたこともあり、スラブ系言語にはなじみがありました。しかし、ポーランド語は、文法が非常に複雑で発音も難しく、はじめは苦労しました。一年目は日本人の先生に文法を、ネイティブの先生に会話を教えていただきましたが、文法の授業では20-30の例文の丸暗記が毎週の宿題となっていました。ポーランド語は格変化が7種類と多く、文法の例外もとても多かったので、泣きそうでした。」
しかし、現地に入ると、難しいポーランド語を話す際に、考えながら文章を組み立てる時間はないことにすぐ気づいたそうです。最初の頃は役立つフレーズの暗記を心がけるようにしていました。東京での恩師の指導に感謝したのは、その時だったそうです。
格変化が7種類もあるなんて難しそうです。どのようにして上達していったのでしょうか。
「現地では、語学学校に通いましたが、それ以外には、主に新聞やニュースを見て勉強していました。放課後によく語学学校の図書室に通いましたが、そこは利用者が少なく、自分くらいしか新聞を読む学生はいなかったので、毎日通っていると、自然と司書の先生と仲良くなりました。
また、ポーランドは親日国で日本語学習も盛んなので、大学の日本語学科の学生と遊んだり、お互いに言語を教えあったりもしていました。」
石原さんが熱心に図書館で勉強しているのを見て、司書さんも嬉しかったでしょうね。聞くところによると、ポーランド語は、格変化に加え、発音も難しいんですよね。
「はい。ポーランド語は、日本語にはない音が多くあるため、日本人がポーランド語を発音するのは難しいと言われています。逆に、一緒に勉強していた日本語学科のポーランド人は日本語をとても上手に発音していました。」
ポーランドでの生活
現地での研修では、自分で一から生活を立ち上げなければならないそうですが、大変なことも多かったのでしょうか。
「第二の都市、クラクフで研修をしたのですが、ポーランド語の発音が難しすぎて、最初は電車の切符すら買えませんでした。英語を話さないご年配の方が窓口対応をされていることが多かったのですが、窓口にはプラスチックの仕切りがあって声が通りにくく、私の発音だと何回トライしても通じず苦しみました。こんなこともあろうかと、メモも用意していたのですが、それを出したら負けと思っていました。最終的には、メモを渡さざるを得ませんでしたが、窓口の人には『なんで最初から紙でやらないの?』と言われましたね。悔しい思いをしました。
後に、ポーランド語が上達して、メモなしでチケットを買えるようになったときには本当に嬉しかったです。
他にも、ポーランド語での携帯電話やインターネットの契約が難しく、しばらくインターネットの契約のために苦労する生活を送る羽目になったりもしました。」
他にもポーランド生活の思い出はありますか?
「私は甘いものが大好きなので、余暇にはいろいろなカフェを巡っていました。ポーランドにはシャルロトゥカ(リンゴケーキ)やセルニク(チーズケーキ)、けしの実のケーキなど美味しいスイーツがいっぱいあります。また、ポーランドには「脂の木曜日」と呼ばれる、復活祭の断食期間に入る前にたくさんのお菓子やご馳走を食べるという祝祭日があります。その日にはポンチキと呼ばれる揚げドーナツを国民みんなが何個も食べるのですが、このポンチキがとても美味しいのです。一日でいくつ食べられるか、というのに挑戦したりもしました。」
様々なお店を巡り、研修が終わる頃にはこのお菓子ならこのお店!と言えるくらいにクラクフのカフェに詳しくなったそうです。
ポーランドの専門家として
「通訳の仕事をしていて、もちろん準備をして臨むのですが、100点満点だと感じることは少なく、どうしても後からこうすればよかったなと反省することがあります。通訳をするには語学力も大事ですが、知らないことは話せないので、知識を付けることも重要です。」
印象的な通訳のお仕事はありますか?
「一番申し訳なかったなと思ったのは、日本の要人が地方を訪問した際に市長と会談する機会があり、その通訳をしたときでした。市長が地元の歴史の話をされたのですが、話の内容がよくわからず、混乱してしまいました。頑張って訳したものの、うまくメモを取ることもできず、情報量が少なくなってしまい、訳し終わったときに市長に『え、もう終わったの?』という顔をされてしまいました……。やはり歴史や文化が絡むと難しいです。」
その後もスペシャリストとして通訳の機会に恵まれ、日々、上達していったそうです。
「ポーランドの上院議員の方で、何度も通訳する機会があった方がいて、その方に『君は二国間関係にすごく貢献しているよ! 』と言っていただいたことがありました。通訳は大変な仕事ではありますが、とても嬉しかったのを覚えています。」
まさにプロフェッショナルですね。
「また、コロナ禍においては、現地の政府からの感染状況や規制措置に関する発表をいち早く在留邦人や本省に伝えたり、現地の医療関係者から情報を入手したりするのにポーランド語が役立ちました。
特にコロナ禍の初期には、『どこの国は入国制限のため、その国の航空路線は運航中止です。』、『いついつから大規模店舗は閉まります。』など、詳細な情報は官報を確認する必要がありましたが、すぐにそうした情報を集めて、翻訳していました。
また、医療関係者や専門家は必ずしも英語ができるわけではなかったため、そうした人とのやりとりは我々の出番でした。」
危機的な状況において、語学力が頼りにされたわけですね。
二国間関係
ポーランド語で“kraj kwitnącej wiśni”(クライ・クフィトゥノンツェイ・ヴィシニィ)=「桜の咲く国」と称されている日本と、ポーランドの二国間関係はいかがですか?
「ポーランドは親日の国で、日本語や武道を学ぶ人も多いです。また、アニメや漫画なども浸透していて、日本のポップカルチャーが人気です。日本とポーランドは2019年に国交樹立100周年を迎えました。実は、令和になって初めての皇室の外国御訪問は、秋篠宮皇嗣同妃両殿下のポーランド御訪問でした。経済的に発展が著しいポーランドは、最近はウクライナ支援の旗振り役になっていることもあり、国際的に存在感を増しています。これからもポーランドと良い関係を築いていけるように励んでいきたいです。」