世界一周「何でもレポート」
チャレンジ!外国語 外務省の外国語専門家インタビュー
スウェーデン語の専門家 安田さん
Hej!(ヘイ)=こんにちは!
安田さんは、「スウェーデン語はメロディを作らないと通じないんですね。」と、スウェーデン語のように歯切れの良い、端正な語り口でインタビューに応じてくれました。どうやって安田さんはスウェーデン語をマスターしていったのでしょうか。
宇宙外交を志して
外務省では珍しく理系、それも物理学部出身だそうですが、なぜ外務省を目指されたのでしょうか。
「大学時代に交換留学でヨーロッパに1年間留学しました。そして、この留学がきっかけで将来は海外で働きたいという夢が膨らみました。調べてみると、就職して最短で外国に出られるのは外務省ということがわかりチャレンジしました。」
なぜスウェーデン語を希望したのでしょうか。
「外務省の仕事を調べていくうちに、宇宙外交をやってみたいなと思うようになり、研修語としてロシア語や英語を希望しました。そして、外務省の面接でも面接官と宇宙外交の話に焦点が当てられ、これは、もう入省したらロシア語か英語を使って宇宙外交に携われると思っていたんです。 すると、入省して習得すべき言語として通知されたのは、まさかの『スウェーデン語』。スウェーデンは科学技術立国ということで、スウェーデン語の道を進むことになりました。」
スウェーデンの特徴
スウェーデン語は全く初めての言語でしたが、どういうところが難しかったのでしょうか。
「アルファベットを読むところから難しい言語で、今でも苦労します。例えば、自分の名前をスウェーデン人に伝える場合、スウェーデン人にとって聞き慣れない日本人の名前はつづりを教えてほしいと言われることがあるのですが、「y」単体の発音が難しいんですよね。」
「また、文法はルールがあって、学びやすいですが、単語を覚えるのは難しいですね。初学者にとって使い勝手の良いスウェーデン語の辞書があまりなく、当時、初めてコンビニで買い物をした際、『袋』が欲しかったので、英語のBagを直訳して、väskaが欲しいと言ったら、変な顔をされました(注:スウェーデン語でプラスチックのいわゆる『袋』はpåse。)。後からわかったのですが、väskaという単語の意味は日本語で言う鞄という意味しかないということ。コンビニで鞄が買いたいと連呼するおかしな人と思われてしまいました。」
そして、安田さんはその後、自分で辞書を作るようになったそうです。スウェーデン語は2つ、3つと単語をつなげて新しい単語を作るため、単語が無数にあるようで、辞書作りは途中で断念したそうですが、その頃には、すでにスウェーデン語の自然な語感が身についていたそうです。
「スウェーデン語はメロディのようで綺麗だと言われています。逆に言うとメロディがないと通じません。それから、スウェーデン人はとても早口なんですね。よくスウェーデン人同士でも『え?』と言って、お互い聞き返しています。」
大学の語学試験
スウェーデンの大学で語学の勉強を始める安田さんですが、勉強はいかがでしたか。
「スウェーデンでは、初学者であるかどうかにかかわらず、大学のスウェーデン語コースに入るために語学試験があるんですよね。しかも、これが中級程度の難しい試験でして。2時間半のテストで、辞書を使っていいのですが、辞書を使っていては間に合わないほど大量の文章と設問があります。」
そうしたテストにも、日本で1年間、スウェーデン語を勉強した安田さんは、ライティングで400~500文字程度と指定があるところ、欲張って700文字も書いて試験を終えたそうです。
「実は、リーディングは合格だったのですが、ライティングで落ちたんです。頑張ってたくさん書いたのに不合格だった理由を大学に問い合わせたら、『スウェーデン語のライティングは、客観的に書かないといけない、あなたの記述はあまりにも主観的なため、不合格にしました。』との回答でした。先に教えてほしかったです。」
語学試験で論理展開まで採点されるのですね。さすが、科学立国ということでしょうか。理系の安田さんに向いている言語かもしれませんね。安田さんの名誉のために補足すると、次に他の大学で受けた試験は、一発で合格したそうです。
スウェーデンの厳しい冬
「スウェーデンでは短い夏があって、極端にいうと、あとはずっと冬なんです。冬は10時から14時くらいまでの間、ほんのわずかな時間、それもほんのわずかに明るくなるだけです。最初は、物珍しさに浮かれていましたが、これがキツい。」
冬の厳しさは想像以上のようですね。よく、蛍光灯の強い光にあたるとか、ビタミンDを取ることで対処するようですが、いかがですか。
「ビタミンDなどはもちろん皆が摂るのですが、冬が厳しすぎて、あまり効きません。スウェーデンに来てから、本当に太陽の偉大さを知りました。」
そのため、大学時代に、ショーン島のTjörnという町で語学のサマーコースに参加して、参加者とハイキングや夏至祭など、スウェーデンの自然を満喫したことが懐かしいと語っていました。
勤務でのスウェーデン語
在スウェーデン日本国大使館での勤務を開始して、業務でどのようにスウェーデン語を生かしていますか。
「スウェーデン人は、老若男女問わず英語を話します。私は外国人なので、スウェーデン語で話しても、英語で返ってくることも多々あります。そういう意味では暮らしやすいのでしょうが、翻って仕事でも英語を使うことが多く、(残念ながら)通訳の機会もなかなかないですね。この点は、おそらく他の言語と違うのかなと思います。しかし、現地の報道はスウェーデン語でフォローする必要がありますし、大使館のSNSはスウェーデン語で発信しています。これは、大変人気があります。」
苦労してマスターしたスウェーデン語は勤務でも役立っているわけですね。
挨拶
「この記事の最初にもありますが、スウェーデン語で『こんにちは』は、『Hej(ヘイ)』と言います。相手がどれだけ偉い人でも、これを使って問題ありません(国王陛下に対して良いかどうかはわかりませんが。)。ただし、前述のとおり、外国人とのやりとりの場合には英語が基本なので、Hejと言って、英語のHeyと捉え間違われると大変です。注意が必要です。」
二国間関係
「2018年に日本・スウェーデン外交関係樹立150周年を迎え、日・スウェーデン関係を一層深化させる好機でしたが、コロナ禍のため、人の往来も減ってしまいました。しかし、2023年5月には、ストックホルムで行われたEU・スウェーデン共催インド太平洋閣僚会合に林外務大臣が参加されるなど、ようやく、二国間の往来が再開しました。コロナ禍を終えて、今後もますます二国間交流が増加するように祈っています。
また、今年、スウェーデンは約200年続けてきた軍事非同盟の方針を転換して、NATO加盟申請を表明しました。日・スウェーデン、日・EUのみならず、日・NATOの文脈でも今後、二国間関係が深化していくことを期待しています。」