国連海洋法条約では,治岸国の領海を越える海面下の区域の海底及びその下であって,領海の基線から200海里までの海底とその下を,その沿岸国の「大陸棚」と規定しています。実はこの大陸棚は,ある一定の条件を満たせば,200海里を超えて延長することができるということを,皆さんはご存知でしょうか。沿岸国にとっては海底資源開発の新たな可能性を見出すことになる,この「延長大陸棚」に対する日本の取り組みと,昨年20周年を迎えた大陸棚限界委員会(CLCS)の概要を紹介します。
■「大陸棚」とは
「大陸棚」とは,地形的には,陸に続く比較的なだらかな傾斜の海底部分のことを指します。1994年に発効した国連海洋法条約(UNCLOS)によって,「沿岸国の200海里までの海底とその下」をその国の「大陸棚」であると定めています。大陸棚には陸地同様に,様々な生物や天然資源が存在しています。UNCLOS上,海岸から200海里までの大陸棚においては,沿岸国にそれらの海底資源に対する「主権的権利」(探査,開発,採取等の優先権)があることが認められています。
■「延長大陸棚」とは
UNCLOS上,大陸棚とは,基本的に領海基線から200海里までですが,地形的・地質的に陸とつながっていると認められれば,その沿岸国は200海里を超えて大陸棚を設定することができます。これが,いわゆる「延長大陸棚」です。また,延長大陸棚は自国で勝手に設定することはできず,およそ20年前,同条約に基づいて設置されたCLCSに申請をし,勧告を受けなくてはなりません。
■大陸棚が延長するとどうなる?
前述の通り,海岸を有する沿岸国は,UNCLOSに基づき,自国の大陸棚の天然資源を開発するための「主権的権利」が認められています。大陸棚には,種々の資源が存在している可能性があるので,現在,世界の多くの国が大陸棚の延長を目指しています。そして日本も,この大陸棚延長を目指す国のひとつです。日本の周辺の海底には,種々の資源の存在が確認されています。大陸棚の延長によって行うことができる,周辺海域での資源の探査・開発は,他国の資源政策に影響されずに,自らの資源供給源を確保できる可能性を高めるためにも,日本にとって極めて意味のある取り組みになります。
■大陸棚限界委員会(CLCS)とは
沿岸国から提出された大陸棚の延長申請について検討し,勧告を行うのが,CLCSです。CLCSはUNCLOSに基づいて設置されている機関です。同委員会は21名の委員により構成されており,地質学,地球物理学,または水路学の専門家たちが,個人の資格で任務を遂行します。任期は5年で,UNCLOSの締約国会議における選挙で選出されます。過去20年の間にCLCSに提出された延長大陸棚申請数は84件に上りますが,ひとつひとつのデータに対して科学的・技術的な検討を行う必要があるため,実際にCLCSが勧告を出した数は29件に留まっています。委員はなるべく迅速に審査・勧告を行うべく,年間の約半分にあたる21週もの長い期間を費やし,NYの国連本部にて会合を行っています。
■日本の大陸棚延長に向けた取り組み
日本は2008年11月に,200海里を超える大陸棚に関する情報をCLCSに提出し,2012年4月,同委員会から,約31万平方キロメートルの大陸棚延長を認める勧告を受領しました。この面積は,日本の国土面積の8割強に相当する大きさです。2014年7月には,総合海洋政策本部が「大陸棚の延長に向けた今後の取組方針」を決定しました。これに沿って一定の延長がCLCSから認められた4海域のうち,2海域(四国海盆海域および沖大東海嶺南方海域)については,延長大陸棚の範囲を定める政令の制定に着手し,同年10月に施行しました。その他の2海域(小笠原海台海域および南硫黄島海域)については,関係国との調整に着手することになりました。また,勧告が先送りされた残り1海域(九州・パラオ海嶺南部海域)については,CLCSにより早期に勧告が行われるよう努力を継続しています。
■日本人委員の輩出
日本はCLCSの第1期選挙(1997年)から候補者を擁立し,委員を輩出するなど,CLCSに対して継続的な人的貢献を行ってきました。現在の委員である山崎俊嗣(やまざきとしつぐ)・東京大学教授(2017年~)は,海洋地質学等の分野における第一線の研究者です。特に,海上調査への参加経験が豊富で,計56回もの洋上調査に参加し,船上で過ごした期間を合計すると3年間にも上ります。これほど豊富な現場での調査の経験を持つ委員は,他に類を見ず,山崎教授が今後CLCS委員として大いに活躍されることが期待されています。
■CLCS設立20周年を迎えて
昨年2017年は,CLCS設立から20周年を迎える節目の年でした。昨年の12月14日には,東京の国連大学において「第4回海洋法に関する国際シンポジウム」が開催され,「CLCS設立20周年:成果と課題」をテーマに,国外および国内の海洋法の権威ある研究者たちがパネリストとして出席しました。また,在京外交団,政府関係者,研究者,学生ら約110人が参加し,パネリストとの間で活発な質疑応答が行われました。CLCSは,国際法に基づいて国家が大陸棚の限界を決定する上で,非常に重要な役割を担っています。日本は,海洋大国として,CLCSに様々な面から貢献することで,海洋法秩序の発展に積極的に取り組んでいく方針です。