空力を憎んでミシュランを憎まず。品質のバラツキや空気圧規定の問題で、MotoGPではなにかとやり玉にあげられるミシュランタイヤだが、先日のドカのダリーニャに引き続き、KTMでディレクターを務めるピット・ベイラーも「ミシュランは悪くない」と擁護に回る発言。
「空気圧の問題に関してはミシュランに罪はない」とベイラー。「ミシュランはMotoGPで素晴らしいタイヤを供給している。昨今クローズアップされているフロントタイヤの空気圧の問題については、みんな今一度時速350キロで走るマシンのタイヤにどれほどの負荷がかかるものか考えてみて欲しい。ミシュランが、フロント1.88bar以下が危険だと言うのであれば、その規定に従うべきだ。タイヤの空気圧の問題はタイヤではなく、それ以外のところにあるんだよ」
ベイラーが言う、タイヤが原因ではなく、それ以外の要因でタイヤの空気圧問題が発生しているというのはいったい何のことを指しているのか。
「それは空力だ」とベイラーは言う。「空力装置が過剰に開発されたおかげで、いまのMotoGPマシンは"小さなレーシングカー(≒F1)"になってしまった。前を走るマシンの後ろ(エアポケット)に一度入ってしまうと、後続のマシンのフロントタイヤにはまったく空気が当たらず、タイヤの熱を冷やすことができなくなる。ここにフロントのライドハイトデバイス(車高調整装置)が加わると、車体姿勢はさらに低くなり、タイヤはますます熱を持つことになってしまうんだ」
ベイラーが言うように、最近のMotoGPマシンが天井知らずで速くなっているのは、エンジンパワーの増大はもとより、何より空力の効果が大きいのは間違いない。フロントに巨大なウイングが鎮座するだけではなく、リヤにも恐竜の尻尾のような羽根が付き、さらにはサイドからアンダーカウルの形状にグランドエフェクトの効果を持たせることで、300馬力をゆうに超えるパワーを、コーナリングの最中から路面に叩きつけることが可能となってきた。それによりコーナーからの立ち上がりスピードは上がり、当然直線におけるトップスピードも上昇。遂にそれは今年時速366キロをオーバーするまでとなり、そこからのフルブレーキングでは異次元の荷重がフロントタイヤに襲いかかることになる。タイヤにとっては負荷が増えるばかりで、それを逃がす場所がもはや存在していないのだ。
高い荷重に耐えるためには、タイヤ自体の構造を固くするとともに、一定以上の内圧をかけることでタイヤの変形を抑える必要がある。その許容値が、ミシュランが設定したフロント1.88bar、リヤ1.7barの空気圧なのだ。
しかしこれでは走り出してすぐに上昇する内圧によって、容易にフロントの圧は危険領域と言われる2.0barを越えてくる。ライダーたちはこれではまともに走れないと、走行開始時には極端に空気圧を減らして走り出すのだが(状況にもよるがフロント1.2~1.3barで走り出すのが常套となっているようだ)、これも度が過ぎればタイヤの破損を招いてしまう。
タイヤの適正内圧を保つにはもはや逃げ場のない状況にあるミシュラン。現在、来季に向けての内圧規定をコンマ1下げられないか検討しているようだが、「そんなことをしても意味はない」とベイラー。「なぜならたとえ規定圧をコンマ1下げたとしても、ライダーたちはその余剰圧を使って余計に速く走ってしまい、となればあらかじめ下げた分の内圧など、上昇したペースによってすぐに食い尽くされてしまうからだ」
なるほど確かにそうだ。もともとがマージンの限界まで追い込むのがレース。そこに余剰を設けても、ライダーがそのぶん速く走ろうとするのは当然の理。しかしそれではタイヤの内圧問題についてはもはや打つ手がないのだろうか。だからこそわれわれはいまこそ空力に目を向け、それを制限すべきだとベイラーは訴える。
「この問題を解決するには、空力に一定の制限をかけることが第一だ。次にライドハイトデバイスも規制する必要がある。空力に制限をかけることで、レース中のパッシング(追い越し)もやりやすくなるしいいことづくめだ。このままさらなる空力の開発を許せば、レースはますます単調になり、単なる超高速の一列渋滞を眺めることになる。いまは技術開発よりも、それを規制することを考えるべきだ。観客だけでなく、レースに参加する我々だって、ただピカピカのマシンがぞろぞろと一列に並んでパレードするだけのものなど見たくはないのだから」
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