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WSC #034 石長櫻子

Sakurako IWANAGA

[植物少女園]

女性という立場からの「性差」という武器
女性作家ならではの視点に基づく美少女フィギュア

■石長櫻子はずるいと思う。
「女性ガレージキット作家だからといって特別な目で見られたくない」などといかにもなセリフを口にするくせに、自分の造形作品にはしっかりと、女性という立場からの“性差”を最大の武器として活用しているではないか。たとえば、彼女の手による女性キャラクター作品における、腰骨~股間(恥骨)~大腿部(とくに内腿)~ヒザへの流れ。無頓着な人には「スレンダー」のひとことで片付けられてしまいそうだが、これはまちがいなく「女性の目から見た女性のカラダ」だ。
 しかも、パッと見は少女マンガのキャラクター風にカリカチュアライズされているように思えるものの、石長はそこに「女というひどく面倒くさい生きもののカラダ」を故意に盛り込んでいる。つまりは「女性にしか描けぬ女の性」を武器に据えた表現活動をしているのだから、「アンタ、言ってることとやってることがメチャクチャやん!」とツッコミのひとつも入れたくなるわけだが……まあ、それはともかく、彼女の手掛けた女性キャラクター作品が醸し出す「毎月毎月必ず生理がやってくる」ことをイメージさせるその感覚は、これまでのガレージキット的キャラクター造形には存在しなかったものであり、特筆すべき点であるはずだ。
■石長櫻子はかく語る。
「躍動感がなくを加えたらポキッと折れてしまいそうな、植物的な女の子が好きなんです。ただ、そういう部分を作品の前面に押し出したら(見る側に)引かれちゃうんじゃないかと思って、以前は無理して元気系の明るいキャラクターばかり作っていて。でも去年('05年)あたりにようやく吹っ切れて、“もういいや、陰のある系や不気味系で行っちゃえ!”って……それで、ディーラー名もそのものズバリの名前に変えて」
■石長櫻子の造形はやはり異端と言えば異端である。
 しかし、彼女の造形に引く人は引き続ける反面、知らず知らずのうちに彼女の造形に魅了されていく人も必ずや現れると思う。好きになるとヤバそうなタイプの女の子を、わかっていつつも好きになってしまうような。
 また、彼女はこの先も決してメインストリームには成り得ぬだろうが、メインストリームに乗ることだけがこの世界における成功とは限らない。石長のような特異な存在がそこそこ売れてそこそこ食べていくことができるようならば、ガレージキットシーン全体を俯瞰して眺めた際、それはそれでむしろ「豊か」ではないか?
 そう―石長には、目先の評価や利益に流されることなく、したたかな長期戦を挑んでいってほしい。あなたは必ずもうひと化けする可能性を秘めているから。

text by Masahiko ASANO

いわながさくらこ19XX年3月5日生まれ。北海道出身沖縄県在住。高校時代、『マクロス7』『新世紀エヴァンゲリオン』を通じてオタク趣味に開眼、立体物にも興味を抱き「好きなキャラクターのフィギュアを作ってみたい」と思い立つも、その方法がまったくわからずに困惑。友人から「だったらこれを読んでごらん」と『ガレキの翔』(島本和彦の熱血ガレージキット漫画)を手渡され、造形に関する(少し歪んだ)知識を同作品から習得することになる。その後、ファンド(造形用粘土)を使い習作を作成し続けていくうちに「誰かに作品を見てもらって評価されたい」という気持ちが芽生え、'03年[冬]、“ねこおろし”名義でワンフェスにディーラー参加を試みるも、持ち込んだ30個のキットがひとつしか売れずに一度は挫折。が、'04年[冬]より決意も新たにディーラー参加を再開、販売数も回を追うごとに上向きになり、俄然やる気が生じはじめる。'06年[冬]からは現在の“植物少女園”へ名義を変更、現在は、南の島の暑さにへこたれつつも、フィギュア造形をこの先の生業とすべく精進中である。

Webサイト http://shokuen.com/

WSC#034プレゼンテーション作品解説

© 羽海野チカ/集英社・ハチクロ・製作委員会


花本はぐみ

※from TVアニメーション『ハチミツとクローバー』
1/8(全長200mm)レジンキャストキット


商品販売価格
ワンフェス会場特別価格/5,800円(税込)

(※販売は終了しています。なお、このプレゼンテーション商品に関しては、版権元の意向に伴い一般販売は行いませんでした)


 女性らしい繊細な作り……などと形容されがちな石長櫻子の作品は、じつはそれほど単純でスウィートなものではありません。その裏には、もっとおどろおどろしい彼女なりの信念や、「植物的で儚げな少女が好き」という想いなどが隠されていたりもするのですが、今回のプレゼンテーション作品“花本はぐみ”(TVアニメーション『ハチミツとクローバー・』より)に関して言えば、「女の子らしくてかわいい!」と素直にリアクションするのが正解かもしれません(ただしパーツ状態で眺めると、石長の植物的な少女への想いがダイレクトに感じられるはずですが)。
 髪の毛のボリュームが多大なため、実際のレジンキャストパーツはかなりの重量なのですが、そこに「重さ」ではなく「軽やかさ」を感じさせるあたりがこの作品の見どころ。また、劇中の有名シーンをフィーチャーした、「女性なりの女性キャラ萌え」的な愛情溢れる作りにもぜひ注目してみてください。

石長櫻子からのWSC選出時におけるコメント

 植物少女園という名前のように、動物というより植物っぽい陰のある感じで細くてポキッと折れそうな儚くてアンニュイな少女を作るのが好きなのですが、今回どちらかというと植物的少女から外れている感のある“はぐ”を作った理由はあまりにもはぐが可愛すぎて、原作漫画を読みながら登場人物の竹本君(19)といっしょに彼女に恋をしてしまったからなのです。感情移入しすぎですか。そうですか。

 で、作ったわけですが、私が普段どうやってこういったフィギュアを作るのかというのを今回特別にお教えいたしますと、まず、可愛くなれと念じながら粘土をこねるのです。ひたすら可愛くなるようにと思いながら、あとは造形の神様に任せるのです。本当に神様がいるのかどうかはわかりませんが、そうやっているうちに気が付くと形になっているという寸法です。不思議ですね。途中、思ったような形にならないこともありますが、そういう場合は大暴れして神様にダメ出しをします。ここは本気で泣いて抗議をしないといけません。これも重要な工程のひとつなのです。私はまだまだ未熟者なので、上手く行かずに毎回ダメ出しをする羽目になるので大変です。
もうひとつ、重要なことがありまして、この造形作業は神聖な儀式ですので、作業中は必ず素っ裸。人前で作業してはいけません。さながら鶴の機織りのようです。もし不用意に覗いてしまったり、声をかけたりすると神様ではなく鬼が降りてきてひどい目にあわされますので、くれぐれもそっとしておいてください。

 と、まあ、半分冗談みたいなことを書きましたが半分はほぼ実話です。話半分に聞いておいていただけるとありがたいです。え、じゃあ半分の半分だから1/4かー。って計算合ってるでしょうか?? 算数は苦手なんですよね。