英王子は米富豪の性的犯罪捜査に「協力するふり」=米司法当局
少女らの性的人身取引などの罪で米司法当局に起訴され、勾留中に自殺した米富豪ジェフリー・エプスティーン被告(当時66)の事件で、同当局は8日、英ヨーク公爵アンドリュー王子について、捜査協力に前向きなように「見せかけた」と述べた。
エプスティーン被告と友人関係にあったアンドリュー王子に対しては、被告とのかかわりについて詳しい調べが進められている。
米ニューヨーク州南地区連邦地検のジェフリー・バーマン検事は、アンドリュー王子が事情聴取の要請を「繰り返し拒否した」と明らかにした。
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王子の弁護団はこれまで、捜査に非協力的との主張を否定。王子は3回にわたって協力を申し出たとしている。
ウィリアム・バー米司法長官は米フォックス・ニュースの番組で、「(王子の)身柄の引き渡しを求めているわけではない。ただ証拠を提供してもらいたいだけだ」と主張した。
アンドリュー王子は昨年、BBCのインタビューでエプスティーン被告との付き合いについて語った後、王室の公務を控えると発表した。
王子はエプスティーン被告の自宅を訪問していた間、不審な行動は目にしなかったとしている。
言い争いが再燃
バーマン検事はこれまでも、アンドリュー王子を批判してきた。今年1月には、王子が捜査に「まったく協力しない」と批判。3月には、王子が捜査員らに対して「完全に門戸を閉ざしてしまった」と述べた。
アンドリュー王子の弁護団は今月8日、検事に初めて反論。主張は「不正確だ」とした。
これに対しバーマン検事は、声明を発表。「アンドリュー王子はまたも今日、ジェフリー・エプスティーンと仲間らによる性的人身取引などの違法行為をめぐる継続中の連邦犯罪捜査に対し、積極的に協力するかのように見せかけようとした」と述べ、言い争いを一段と深刻にした。
検事はまた、王子が「連邦当局の事情聴取に応じず、日程設定の要請も繰り返し拒んでいる。そして4カ月ほど前に、今日の発表をしたのと同じ弁護士を通じて、そうした事情聴取には応じないと私たちに言明した」とした。
さらに、「もしアンドリュー王子が本当に継続中の連邦捜査への協力に真剣なら、私たちのドアは常に開いている。いつ姿を見せてくれるのか連絡を待っている」と述べた。
「被害者を傷つけている」
エプスティーン被告による一部の被害者の弁護士を務めるグロリア・オルレッド氏は、アンドリュー王子が捜査に協力する姿勢を見せたとの認識はまったくないと、BBC番組「ニューズナイト」で述べた。
オルレッド氏はアンドリュー王子について、「米司法省といたちごっこするのはやめるべきだ」、「法廷に立つべきだ」とした。
また、「彼が引き延ばしているのは、多くの被害者の感情をひどく傷つけており、公正ではない」、「被害者が望むのは真実で、透明性だ」と話した。
アンドリュー王子の弁護団はコメントを避けた。ただ関係筋は、「バーマン(検事)が機密保持規定を破ったのはこれが3度目で、私たちの米司法省の公正さに対する信頼をさらに弱めた。率直に言って当惑している」と話した。
弁護団は以前、「公的記録にあるように、米司法省はエプスティーン氏をはじめ複数の人物について16年以上熱心に捜査してきたが、初めて公爵の協力を要請したのは2020年1月2日のことだった」と説明。
「司法省は、公爵はエプスティーンについての犯罪捜査の『対象』ではないし、対象だったこともないと説明した。これが重要な点だ。その上で、自発的な協力を内密に求めていた」と説明していた
「協力より注目を得ようとしたのでは」
アンドリュー王子の弁護団は、捜査協力は秘密にするよう米司法当局に要請し、合意を得られたと述べた。
さらに、「ヨーク公爵は少なくとも今年3回、目撃証言を提供して協力した」、「残念なことに司法省は、最初の2回について機密保持規定を破り、公爵がまったく協力していないと主張した。それによって、協力を得るより注目を集めようとしたのだろう」とした。
米司法省はエプスティーン被告の捜査に関連し、アンドリュー王子への事情聴取を、米英間の刑事共助条約に基づいて英内務省に正式に要請した。
条約の規定では、王子が自発的に聴取に応じない場合、英裁判所への出頭が求められることもあるという。
エプスティーン被告の嫌疑は
エプスティーン被告への嫌疑は、2005年に当時14歳の少女の両親が、同被告のフロリダ州パームビーチの自宅で娘が性的いやがらせをされたと同州の警察に届けたことから浮上した。
エプスティーン被告は2002~2005年に、18歳未満の少女らにニューヨーク・マンハッタンやフロリダの邸宅で性的行為をさせ、金銭を支払っていたとされた。
しかし同被告は2008年に司法取引で、未成年を売春に勧誘・斡旋(あっせん)したという量刑の比較的軽い罪について有罪を認めた。
これにより1年半の禁錮刑が言い渡され、1年1カ月間形に服した後、保護観察となり釈放された。
2019年7月、ニューヨークで性的人身取引などの罪に問われ、裁判が予定されていた。エプスティーン被告はすべての起訴内容について無罪を主張していた。
「親交は後悔していない」
一方、アンドリュー王子は2019年11月、BBCのニューズナイトで、エプスティーン被告との親交を後悔していないと述べた。
しかし、同被告を有罪判決後の2010年に訪ねたのは間違いだったと認めた。
王子はまた、ヴァージニア・ジュフリー氏と同氏が10代のときにセックスしたとの疑いを否定した。同氏は17歳だった2001年に被告によってロンドンに連れて来られ、王子とのセックスを強制されたと主張している。
アンドリュー王子は、ジュフリー氏との間にいかなる性的な行為や関係もなかったと断固として述べ、何かあったとする訴えは偽りで根拠がないと反論している。
王子は、かつてヴァージニア・ロバーツの名で知られていたこの女性に会ったことも記憶にないと述べた。
BBCのインタビューが放送されてまもなく、アンドリュー王子は「適切な司法機関に進んで協力する」と表明していた。