田口善弘@中央大学:既に千葉先生が専門家の観点からお答え頂いているので蛇足を書きます。
一般に実数xを引数とする関数f(x)は、「自然な拡張」をすることで複素数zを入力とし複素数の値をとる関数f(z)に変えることができます。例えばxとyの掛け算は単純に2つの複素数z1とz2の積に拡張できます。この場合、z1=a+bi,z2=c+diだとz1×z2=(ac-bd)+(ad+bc)iという計算になります。さて、これをベクトルで考えると(a,b)というベクトルと(c,d)というベクトル、2つのベクトルを入力とし、(ac-bd,ad+bc)という1つのベクトルを出力とする演算を何か考えないといけなくなります。これはあんまり単純な話じゃなく、せっかくベクトルを使っているのに成分に戻らないといけない複雑で計算が難しい演算を考える羽目になります。
もっと簡単な例としては1/z1=1/(a+bi)=
(a-bi)/(a+bi)(a-bi)=(a-bi)/(a^2+b^2)みたいなのもあります。これもベクトルで書こうと思うと(a,b)という1つのベクトルを入力とし、(a/(a^2+b^2),-b/(a^2+b^2))という1つのベクトルを出力とする演算を何か考えないといけなくなり結構面倒ですよね。
要するに、ベクトルが入力でベクトルが出力みたいな関数を考えたのでは実数で定義された関数を「自然に」複素数が入力で複素数が出力であるような関数に拡張することが難しい、ということです。
このあたりの難しい話は複素関数論とかを勉強しないといけなくてここで答えられる範囲をこえてしまいますのでここまでにします。