北朝鮮、南北軍事合意を全面破棄 軍事偵察衛星の打ち上げめぐり

軍事偵察衛星「万里鏡1号」を搭載したロケットの画像

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軍事偵察衛星「万里鏡1号」を搭載したロケットの画像

北朝鮮は24日、2018年に韓国との緊張緩和のために締結した軍事合意を全面的に破棄すると発表した。

北朝鮮は声明で、「今後、わが軍は9月19日南北軍事合意には一切拘束されない」と説明。

また、「地海空を含むすべての領域で軍事衝突を防ぐためにとられていた」全措置を撤回し、境界線周辺に「より強力な軍隊と新型の軍備」を配備すると述べた。

北朝鮮は21日、軍事偵察衛星「万里鏡1号」を打ち上げ、正確に軌道に進入させることに成功したと発表。韓国はこれを受け、この合意の一部効力を停止。境界線沿いでの偵察飛行を再開すると表明していた。

「万里鏡1号」については韓国軍が22日、衛星が軌道に進入したという見方を明らかにしたが、実際に機能するかどうかを判断するには時期尚早だと指摘した。

韓国は打ち上げそのものを強く非難。同国の国家安全保障会議は直ちに、境界線沿いの監視活動を再開することで合意した。これにより、北朝鮮の前哨基地や長距離砲を監視できるようになるという。

2018年の軍事合意は、両国の緊張緩和と紛争回避を目指したもので、韓国のこの動きは、合意違反に当たる。

しかし北朝鮮もこの2年ほど、ミサイルや飛翔体を繰り返し韓国の方向に発射し、この合意を何度も破っていた。昨年12月には韓国との境界線を越えてドローン(無人機)を飛ばし、うち1機は首都ソウルまで接近した。

北朝鮮がすでにこの合意を守っていないことを理由の一つに、韓国側は一部効力を停止するに至った。

このことから一部のアナリストは、北朝鮮が正式に合意を破棄しても大きな変化はないと指摘する。

韓国国防研究院(KIDA)の趙琵娟(チョ・ビユン)准研究員は、「そもそも北朝鮮は合意を守っていなかったので、限定的な衝突の可能性は常に存在していた」と指摘した。

また、両国は互いをエスカレーションの原因だと非難し、報復を示唆しているが、これは「政治的な売り言葉に買い言葉」であり、「物理的な軍事紛争」になる見込みは低いと述べた。

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一連の動きの結果は、北朝鮮が今、どういった行動をとるのかにかかっている。

韓国軍の退役中将、全仁釩(チョン・インボム)氏は、北朝鮮は「韓国が北朝鮮の生活を困難にしているのと同じくらい、韓国の生活を厳しくしたい」のだと語った。全氏は、北朝鮮が境界線沿いに大砲を展開し、より多くのドローンを飛ばし、場合によっては韓国の領土に侵入させることから始めると予測している。

韓国の申源湜(シン・ウォンシク)国防相は先に、もし北朝鮮が合意破棄を口実に挑発行為を行なった場合、韓国は「即座に断固として、最後まで処罰する」と述べていた。また、北朝鮮の行動を監視し、イギリス訪問中の尹錫烈(ユン・ソンニョル)大統領が戻り次第、対抗措置を協議するとした。

北朝鮮は、偵察衛星の打ち上げは「自衛権」の一部だと主張しているが、韓国やアメリカ、日本は打ち上げを強く非難している。

偵察衛星の開発は、2021年1月に金正恩(キム・ジョンウン)総書記が打ち出した、北朝鮮の国防5カ年計画の主要項目の一つ。

北朝鮮政府がこの技術を獲得すれば、理論的には朝鮮半島におけるアメリカ軍と韓国軍の動きや兵器を監視し、迫る脅威を察知できるようになる。また、核攻撃をより精緻に計画することも可能になるという。

北朝鮮の国営メディアは、新衛星から送られてきたグアムの米軍基地の画像を金総書記がすでに確認していると主張した。BBCはこの情報を検証・確認していない。