「きゃはは!」。甲高い笑い声が響き、広場で男性数人と輪を作っていた女性が缶チューハイをあおる。ショートパンツに黒のニーハイソックス、額を隠す前髪は眉毛あたりでまっすぐに切りそろえられている。幼く見えるこの女性がふらりとよろめき、持っている缶の中身がこぼれると、体をのけぞらせて再び大きな笑い声を上げた。

「東洋一の歓楽街」と呼ばれる東京・歌舞伎町の中心部にある「新宿東宝ビル」周辺一帯、通称「トー横」。家や学校に居場所を見いだせない若者が同じ境遇の「仲間」を求めて集う。

大音量で流れる音楽、つかみ合いのけんか、動画を撮影する外国人観光客…。カオス化したトー横の広場には、地べたに座り込む若者らの姿がある。

たばこの吸い殻や酒の空き缶が大量に散乱する間には、睡眠薬の名前が書かれた空のシートも。ここでは、未成年者の飲酒、喫煙や市販薬の過剰摂取(オーバードーズ)が横行。暴力事件や性犯罪に巻き込まれるケースが相次いでいる。

「いくつかな?」。16日午後11時過ぎ、警視庁の捜査員が若者らに声をかけた。ミニスカートの少女は戸惑いながらもぬいぐるみ型の肩掛けかばんから身分証を出した。未成年と確認され、近くの歌舞伎町交番へと連れられていった。

警視庁少年育成課は16日深夜から17日早朝にかけて、東京都青少年健全育成条例に基づいて、深夜徘徊(はいかい)する若者の一斉補導を行った。冬休みを前に、少年、少女が犯罪に巻き込まれるのを防止するのが狙いで、今月の実施は3回目だ。

同課によると、3回で補導したのは男女計29人。親元へ返したり、児童相談所に引き継いだりするなどの対応をとった。26人が女性で、小学6年の女子児童もいた。都外の若者が約7割に上り、岡山や広島からも来ていたほか、オーバードーズ目的とみられる市販薬を持つ例も複数あったという。

トー横で今年、補導された若者はこれまでに約860人に上り、昨年1年間の約580人を上回った。多いのは「話を聞いてほしかった」という声だ。しかし、仲間が集まるはずの場所は、安息の地には程遠い。捜査関係者は「犯罪に巻き込まれる恐れがある。安易にやってくるのは危険だ」と警鐘を鳴らしている。(橋本愛)