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おいてけぼりの恋

作者:ニンポー

 僕には一年間好きだった人がいる。

 彼女はネット配信者で、仮にDさんとさせていただく。

とてもチャーミングで、どこか危うい彼女に惹かれる事にそう時間はかからなかった。笑顔の奥の悲し気な瞳が印象的で、彼女を本当の笑顔にしたいと思った程だ。

 Dさんは歌舞伎町に潜入してその街の実態を調査するという配信をしていて、いつも危険に巻き込まれないか、ハラハラしながら彼女の配信を観ていた。

 それが恋だと気付いた時にはもう彼女に夢中になっていた。

 彼女に好意があると伝えてみた。彼女は若く、美しく、僕などには到底手の届かない女性だと思っていたから彼女が僕の好意にまんざらでもないと知った時は信じられないという気持ちとともにとても嬉しかった。

 そして奇跡が起こった。今でも忘れない2023年1月21日、2回目のデートの日。午後5時55分頃、彼女と喫茶店で休憩している時、彼女に告白をした。感極まって涙声で「Dさんの事が好きです。付き合ってください」少し間をおいて彼女はこう答えた「オッケー」あまりにも軽い口調だったので最初僕は冗談だと思った。しかし彼女は本気で僕の事を好きだと言ってくれた。こんな事が自分にも起こるのかと嬉しくて、天にも昇る気持ちだった事を覚えている。

 好きな人に好かれる。それはまるで奇跡を思わせる。何故なら僕には42年間恋人がおらず、それが一生続いて死んでゆくのかと思っていたからだ。

 だからDさんと付き合えた事は僕にとっての奇跡だったのだ。これから色々な所に行こう。信頼と愛情と尊敬で結びついた素敵な恋人同士になりたい。そう思っていた矢先、彼女から別れを告げられた。

彼女は僕と付き合う事で色々な人からバッシングを受けていた。僕は彼女を好きといいながら彼女を守ってあげる事が出来なかった。

 彼女との別れは本当に心が引き裂かれる程辛かった。しかし、だからといっていつまでも彼女を好きでいる事はとても苦しい。諦める努力をしようと思った。

 それから他の女性を好きになろうと努力したが、どうしてもDさん以上に好きになれる相手に恵まれず、約一年が経ってしまった。

 僕は一年前に彼女に振られてから時が止まってしまったかのように彼女を忘れられずにいた。しかし彼女はその間、前向きに恋愛をしていった。彼女が誰かと付き合うたびに僕は苦しみ、だけど忘れなくてはと思い続けながら生活してきた。

 その一年間は彼女とは友達になったり絶縁したりを繰り返してきた。でも僕は常に思っていた「いつかもう一度Dさんと恋人同士になりたい」と。

 一年前から何も成長をしていないのに彼女とやり直す事は不可能なのにもかかわらず彼女を困らせていた。

 そしてある事件が起こった。彼女がキスマークだらけの画像をXにポストし、しかも整形までしたというのだ。僕は嫉妬に狂った。そして彼女に言ってはいけない事をLINEで言ってしまった。半分嫉妬で半分悲しみだった。僕は彼女の顔がとても好きだった。特に鼻がとてもキュートだと思っていた。彼女が鼻を整形したと聞いた時、僕はあの頃、僕を好きだと言ってくれた彼女が消えてしまったように感じたのだ。もう二度と戻らない僕の恋人だったひと。彼女と僕を結び付けていた頼りない糸が切られてしまったとすら思ってしまった。

 そして僕は知った。既に一年前にはもうその糸は切れていたのだと。

 もう僕は二度と彼女と会う事も話す事もメッセージをやりとりする事も叶わないだろう。これからDさんは恋に仕事に懸命に生きてゆく事だろう。一年前に置いてきぼりにされた僕には目もくれずに。

 カレンダーを見た。2024年1月21日。そこには「Dさんとお付き合い一年」と書かれていた。

 決して実現しない予定。僕が取り残された思い出の残渣。僕はそっとカレンダーを閉じた。

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