俺の名前は
今は社会人としてちくわ工場で働く26歳。
昨今世間を騒がしている長時間労働の例にもれず、大変ブラックな職場である。
来る日も来る日も16時間稼働、休日出勤は当たり前。
4月の終わるころ、俺はいつものようにちくわを袋詰めする作業を繰り返していた。
ようやく休憩時間になり、これまたいつものように昼食を食べようとちくわを持っていく。
寝不足が原因だったのか、四月の陽気にあてられたのか、わからない。もしかしたら何か病気だったのかもしれない。
ふっと足がもつれちくわを踏んでしまった。
地面を踏みしめるはずの俺の足はたちどころに安定性を失い、体がぐらりと傾く。
気づけば目の前に、魚をすり身にするマシンが迫っていた。
(あ、これヤバイわ……)
そして俺は魚のすり身となり、人としての人生を終えたのである。
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「知らない天井だ・・・」
身体をゆっくりと起こしてぐるりと見渡す。
なかなか年季を経た木製のこぢんまりとした建屋である。
どうやら掘っ立て小屋か何かのようだ。
「俺は確かすり身になって・・・なるほど。どうやら転生したらしい」
俺はガキの頃ラノベやネット小説を趣味で嗜んでいたので、この手のことには造詣がある。
もっとも、働き始めてからはろくに読む時間もなかったが。。。
隣の部屋からは人の気配がする。トントンと一定のリズムで繰り返す音。
察するに料理中らしい。
僅かに開いた扉からなんとも嗅ぎ慣れた香りがしているのに気付いた。
「・・・これは・・・ちくわか・・・?」
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「あ、気が付いた!?」
声のする方を見るとそこには目を見張るような美少女がいた。
予想を裏切って、やってきたのはまだ年若い少女だった。
中学生ぐらいか。
ベージュ色の貫頭衣に身を包み。
髪は白から鳶色へと徐々に変化する美しいグラデーションのセミロング。
ちんまりというのが正しい感じの佇まい。
「私はフレデリカ・パッション。あなた、村のはずれに倒れてたのよ!もう起きて大丈夫なの!?」
「いえ、すっかり大丈夫みたいです。パッションさん、この度は本当n」
「やーねそんな他人行儀な!フレデリカって呼んで!あと敬語禁止!」
即レスされた。
どうやら活発なタイプの子らしい。
来る日も来る日もちくわしか会ってなかった俺には厳しい注文だ。
「フ、フ、フレデリー……ヵ……」
「あーっ それかわいー!フレデリ―ね!!」
思わずどもってしまった俺の言葉に食いつくフレデリカ。
「あっ・・・ちがっ・・・そうじゃなくて・・・」
まぁでも喜んでるし、これはこれでありか。
「それじゃ、よろしくお願いします、フレデリ―さん」
「ちょっと、敬語やめてって言ったじゃない。呼び捨てでいいわ。よろしくね・・・ってまだ名前聞いてなかったわね。あなたなんて呼べばいいの?」
ふと考える。フレデリカの名前から察するに、西洋系の名前がスタンダードらしい。
構成はおそらくファーストネーム・ファミリーネームだろう。
そうすると、果たして竹前輪太朗と名乗って良いものだろうか。
・・・うん。昔呼ばれていたあだ名が丁度良いかもしれない。
「では、私のことはちくわと呼んでくだ・・・呼んでほしい。」
そう聞くと、彼女は花が咲かんばかりの笑顔で答えるのだった。
「よろしくね、ちくわ!!!」
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