正実モブちゃん現代入り (マカロニサラ・ブリッグス)
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黒髪の少女

 いつも通りの朝、目を覚ましたら隣に知らない女の子が寝てた……

 

「……誰?」

 

 寝起きドッキリの類なのかと思いたいが、残念ながら僕はテレビに出演するタレントでもなければネット上のインフルエンサーでもないのだ。

 

 つまりは、そんなイベントなどとは無縁な訳で……

 

 なら今の状況は一体なんだと言うのだろうかと眠気の残る頭で考えながら、改めて隣で寝息を立てている少女へ目を向けてみる。

 

 艶のある纏まった黒髪が綺麗な女の子だ、背丈はかなり小柄で幼い印象を受ける。セーラー服ということは高校生、いやこの見た目となると下手すれば中学生か……

 

 少し長めの前髪で目元は見えにくいのだが、それでも美人だと分かるほどの整い方で、赤い差し色のある黒の制服とも相まって全体的に不思議な美しさがある。

 

 窓の外からの日差しに照らされ、その人形のような美しさはより一層磨きがかけられていた。その絵面はさながら映画のワンカットのよう……というよりはおとぎばなしの一枚絵とでも表現すべきだろうか。

 

 どれほどの時間、その光景に見とれていただろうか……時間が止まってしまったかと錯覚しそうなほどに長いこと見つめていたら、その少女は突然モゾモゾと身動きをした。

 

 前髪の分け目からようやく見えた瞼は、次第にゆっくりと開いていき……目が合った、真っ赤な瞳だ。それでいてタレ目で優しげな雰囲気を持っている。

 

 少女は焦点の定まっていない眠たげな目をパチクリと動かし、数秒後にはハッキリとこちらを見据えていた。

 

「え……あ、あれ……?」

 

 意識が完全に覚醒したであろう少女は、分かりやすく困惑していた。

 

「……せ、せんせい?」

 

 なぜ僕の顔を見てその言葉が出てきたのかはわからないが、その意味はわかる。先生、つまりそういうことなのだろう。

 

 僕は、そんな呼びかけに対してニコリと軽く笑みを浮かべ───

 

 

 

 

 

 

 

「自首するか……」

「えっ!?」

 

 即座にスマホの緊急通報を使い警察を呼ぼうとした。

 

 

 

 

 

 

 自首しようとしたら全力で黒髪美少女ちゃんに引き止められた。僕の感じた印象の通り、この少女はとても優しい子のようだ。

 

 いやでもね?「先生は何も悪くないんですから!」とか切実にフォローされましても、この絵面を傍から見たら僕が確実に犯罪者なんですよ。

 

 ……そういえば、この子は一体何者なんだろう、思い出そうとするが昨日の記憶がどうにも曖昧だ。家に帰ってきてから酒を飲んだのは覚えているが、それからが思い出せない。

 

 いつも通りなら酔いつぶれるほど呑んだ覚えは無いはずなのだが、現にこの状況に陥っているということは酔った勢いで何かとんでもないことをやらかしたということだろう。

 

 自分が当てにならないなら、目の前の少女に聞いてみることにするか……

 

「あー……あの、ちょっといいかな?」

「は、はい!なんですか……?」

 

 まるで借りてきた子猫のように物珍しげにキョロキョロと部屋の中を見渡してる少女に話しかけてみれば、飛び上がりそうな勢いで反応してくれた。

 

「昨日のことをよく覚えてないんだけど……その、君をこの部屋に連れてきたのは僕なんだよね?」

「えっと、はい!そうですけど……」

 

 はい完全に黒だね、誘拐です、ギルティ。もはや言い逃れも出来ないでしょこれ、証言が完璧に出てきちゃったもん。

 

「本当にごめんなさい」

「えぇ!?どうして謝るんですか!?」

 

 とりあえず全力で頭を下げた。酔いのせいとはいえ、どんな経緯であろうとも女子学生を家に誘い込んで一緒に寝るなど許されていい行為では無い。

 

「私は平気ですから!頭を上げてください先生、むしろ助けられた私が頭を下げるべきなんです!」

「助けられたって……昨日は、一体何があったの?」

「え、えっとですね……まず……」

 

 

 少女が昨日の記憶を語り始めようとしたその時、くぅぅ……と気の抜けた音が鳴った。少し彼女の顔が赤くなっているのが分かる。

 

「……先にご飯でも食べる?お腹空いたでしょ」

「はいぃ……」

 

 話の続きを聞きたい気持ちは山々だが、先に空腹を満たすのも良いだろう。こちらも心を落ち着けたいし頭も整理しておきたい。

 

「じゃあ朝食の準備をしようか……あ、パンとご飯どっちがいい?」

「えっと、じゃあ……パンでお願いします」

「うん、わかった」

 

 準備のためにキッチンに移動して、食パンとその他の材料を揃える。朝食を作るまでの間は暇になるだろうと思い、黒髪ちゃんには洗面所の場所を教えたりテレビのリモコンの置き場所を教えたりした。

 

 作るものは……簡単にベーコンエッグトーストとコーンスープでいいか。とりあえずトースターにパンを突っ込んでから、フライパンに油を引いてベーコンを投入する。

 

 ベーコンが焼き上がるまでの間に戻ってきていた黒髪ちゃんは、少しそわそわと落ち着きない様子のままテレビを点けて朝方のニュース番組を眺めていた。

 

 何故か凄い食い入るようにニュース映像を見つめている。流れているのは東京の街中の様子でしかないが、そんなに熱中できるものなのだろうか?

 

 そう考えているうちに焼き色も良い感じになってきたのでベーコンを皿へ移し、続いてフライパンに卵を落とした。焼けるのを待つついでに、レンジで温めていたコーンスープを取り出しておこう。

 

 マグカップの温度は少し熱めだが、朝食が出来上がる頃には調度良い熱さになってるだろう。コーンスープの表面に膜が張っているので、スプーンで軽く掻き混ぜた。

 

 フライパンの卵もそろそろ頃合だろう。フライ返しで焼き加減を確認してからコンロの火を止め、トースターに入れたパンを取り出してベーコンと目玉焼きをのせた。

 

 最後の仕上げに黒胡椒とマヨネーズを乗せて、軽くバーナーで焼き目を付ければトーストの完成だ。

 

 簡単に作ると言っていたのだが、気づけば意外と手間をかけているような気もするが……この際、別にいいか。友達に振る舞うというよりは、客人に対する料理なのだからこれくらいの持て成しはあったほうがいいだろう。

 

「お待たせ、ベーコンエッグトーストだよ」

「あ、ありがとうございます……!」

「せっかくの朝食だし、焦らずゆっくり食べようか。朝から面接みたいな雰囲気じゃ苦しいからね」

 

 時間は午前7時を過ぎた頃、テレビのアナウンサーの声をBGMに僕は淹れてきたコーヒーを啜り、黒髪ちゃんはトーストをちびちびと美味しそうな顔で食べ始めた。

 

 ここまでの会話を通してみてなんというか、常に初々しい反応でなんだか面白い子だなぁと感じた。

 

 それから起きた時には気づかなかったのだが、頭の上の赤い輪っか一体なんなのだろう。ファンタジー的に見るにしても、天使の光輪というには少し派手な気もする。赤い光輪ならこの子はもしかして堕天使なのか?

 

 まさか、そもそも天使だなんて非現実的な存在がいるとは思えない。それも朝食を終えたあとにでも、色々聞いてみるとしようか……

 

 




多趣味の気分屋が書いた小説です。妄想の続く限り小説を書いていきます。

でも概念だけ置いていくことが多いので好きに使って遊んでください。書いてくれたら僕がニヤニヤしながら読みます。

Twitterに絵とか上げたり色々やってるので、プロフに多分URLとかあると思うので良ければ遊びに来てね


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確認



コラボが……くる……?しかも金曜日に発表?

バカな、俺たちは月曜日の絶望を紛らわせるためにシロコの先ちょを見て癒されるだけだったはず……


 

 

「朝食はあれだけで足りた?良ければもう少し作るけど……」

「いえ、大丈夫です!」

「そっか、それなら良かった」

 

 食べ終えた食器を片付けて、改めて少女と向き合う。

 

 少女はピンと背筋を張って口を噤んでいる、分かりやすく緊張MAXの姿勢って感じだ。

 

 ここまでくると面接じゃなくて警察の取調べかな。なんだか聞こうとしてるこちらが申し訳なくなってきたな。

 

「君についてまだ知らないことも多いし、色々と聞いていくね」

「はい、なんでも聞いてください……!」

「うん、それじゃまずは……」

 

 まずは初めに、少女自身のことについて質問をしてみた。

 

「名前は、ツキと言います」

「いい名前だね」

「え、あ、ありがとうございます……」

 

 少し照れくさそうに髪をいじりながら、返事をしてくれた。褒められたりするのにはあまり慣れていないのかな。

 

 うん、ツキちゃん……か。綺麗でお淑やかな名前だ。

 

「見たところ学生だよね、どこの学校なの?」

「トリニティ総合学園というところの1年生です」

「ん?……初めて聞く学校だな……私立の学校なの?」

 

 この辺では全く聞かない名称、実は遠い地域の子だったりするのだろうか……もしや、家出してきた子という可能性もあるのかもしれない。

 

「私立……?というのは分かりませんがかなり大きい学校だと思います。」

「うーん、そうなのか」

 

 まあ、聞き覚えは全くないし、間違いなく県外の学校なのだろう。

 

「……そういえば、起きたときに僕を先生って呼んでたよね?」

「はい、呼びましたね……」

 

「それはどうしてなのかな?僕は教師の経験は無いけど……」

 

 そう質問した途端、ツキちゃんは少し複雑そうな顔を浮かべていた。何か言葉に詰まっているようだ。

 それから途切れ途切れに、こちらの顔を伺いながら話を紡いでいく。

 

「えっ、と、その……信じてくれるのかは、分からないんです、けど……」

「大丈夫だよ、怖がらずに話してみて」

 

 酔っていたとはいえど、僕がツキちゃんを家に招く選択をするほどの理由があるのだ。それなのにこの子のことを信じてあげなくて、一体どうすると言うんだ。

 

「ではその、キヴォトスという名前を知っていますか?」

「……全然ないかな」

「やっぱり、そうですよね……」

 

 納得した反応をしてから数秒後、彼女は何か意を決したような表情で口を開いた。

 

「多分ですけど……私は、ここでは無い別の世界から来たんだと思います」

 

「……えっと、じゃあその頭の上の輪っかはもしかして」

「ヘイローのこと、でしょうか?私のいた世界の住人には基本的にこういったものが付いているんです。」

「……そうかぁ……そうなんだ……」

 

 思考が止まった状態でなんとか口に出せたのは、そんな気の抜けたような言葉。

 

 頭の片隅の方でわずかな可能性としては考えていた、だが確実に選択肢の中には入らなかった答えが返ってきてしまった。

 

 フィクションの中の出来事が起こって欲しいと思うことは人生の中で何度もあった。しかし実際に現実に起こったとしたらどうだ?自分は今後の数日、数ヶ月、数年、どう対応するだろうかと事細かに思う事などあるはずが無い。

 

 妄想の中の自分に都合の良い行動を取るキャラクターではなく、間違いなく生きていて、自分の思考から外れた行動をしてしまう空想上の筈の他人が目の前にいる。それを想像することなどあるはずが無いのだ。

 

 しかし事実として目の前に、確かに存在してしまっている。それを認識した途端、頭の中にある疑問が次々と生まれ破裂しそうな程に膨れ上がってくる。

 

「君は、どうやってこの世界に?」

 

「わかりません……学園の庭のベンチに座ってボーッと空を眺めていたら、いつの間にか眠ってしまって……それで目が覚めたら見たことない公園のベンチに座っていた、としか……」

 

 突発的な転移というものだろうか。偶然が起こした奇跡か何らかの魔法か、その原理は一切不明だが、とにかく彼女自身におそらく原因は無いのだろう。

 

「よく分からない場所に突然来て、どこに行けばいいのか分からなくて、とにかく不安で潰れそうだったんです。でもそんな時に……知っている顔を見つけたんです。それが先生でした」

 

「知っている顔……君の世界にも、僕がいたってことかな?」

 

「はい……私のいたキヴォトスでは、あらゆる自地区の統括する組織が設立したシャーレというところに所属する、キヴォトスで唯一の先生でした。」

 

 これが合っているかは実際不明なのだが、僕は相当特殊な立場に居たらしい。しかし、僕が教師か……

 

 ハッキリいって、想像もつかない。他人に知恵を授けられるほどの知識は持っていないし、子供たちの模範になれるほど出来た人間では無い。

 

「……君は、これからどうするつもりなの?」

 そう言うと、彼女は俯いて黙り込んでしまった。それから少しして、その姿勢のまま首を横に小さく振る。

 

「……そっか」

 

 分かってはいた。もし自分が同じ年齢でこんな状況に陥ったなら、この子のようにどうすることもできずただ立ち止まっていただろう。

 

 けれど正直なところ、まだ自分の中では葛藤がある。

 

 自分が見ず知らずの少女の身柄を預かるよりも日本の警察に任せた方がいいのでは無いのだろうか、という考えが何度か頭の中を過ぎっていた。少なくとも、身の安全という観点ならその方がいい可能性だってある。

 

 けれど、それは同時に心配な部分もあった。自分は法に詳しいわけではないが、少なくとも今のあの子には当然だが戸籍や身元を証明するものはおろか、この世界の常識すらもない。

 

 その場合は一体どういう扱いになる?異世界の少女というあまりに特殊な事例に、はたして対応できるのか?

 

 法というのは一見強固なようで実際の所緩い部分が多い。もし、都合が悪いからというくだらない理由で精神病や違法入国の類として処理されてしまったらどういう対応をされる?

 

 少なくとも、彼女が望まぬ状況が続くだろう。関わりを持ってしまった以上、僕としてもそんな悲劇は避けたいのだ。

 

 けどしかし、自分の家に匿うというのはどうなのだろうか?親しいとは言えない男とたった2人で、生活を共にするというのはあの子にとって不安なのでは無いだろうか。

 

 頭の中でずっと2つの感情がせめぎ合っている。いつまで経っても決断をくだせない自分を殴りたいとさえ思う。

 

「ふぅー……」

 

 徐々に苛立ち始めた心を落ち着けようと一度深呼吸をしてからチラリと窓の外を見てみれば、僕らの感情等など知る由もなく雲ひとつ無い青空が広がっていた。

 

 ……それを見ていたらふと、1つ思ったことがある。

 

 この子は、別世界ではあるが僕のことを知っている。右も左も知らないままで、この子は恐らく僕に対して微かにでも希望を見出して家まで着いてきたのだ。

 

「……ねえツキちゃん」

 

 彼女は少し顔を上げた。髪の微かな隙間から覗く目元は、今にも泣きそうになっている。

 

「君に選んで欲しいんだ。確証も無いけれど、もとの世界へと戻る目処が見つかるまで僕の家にいたい?それとも安全に帰るため国に保護してもらいたい?」

 

「……え?」

 

「もし家に住むことを選ぶのなら、帰る手段を探す手伝いもするよ。決して見捨てたりもしない」

 

「もし保護してもらうことを選ぶのなら、事情の説明にも最後まで立ち会うし、出来る限り君のサポートをして貰えるように話を通してみるよ」

 

 自分が勝手にツキちゃんの行く末を決めてしまうわけにはいかない。あの子の人生を決めるのは、あの子自身だ。

 

 僕はあの子の望む形の先生では無いが、僕が実際に先生だったらという体で考えるのなら……大事な選択は本人に選ばせた上で、最悪の道を辿りつかぬように導く、きっと『先生』ならばそうすると思った。

 

「……わたし、は……」

「うん」

 

 その先の言葉を、彼女の意思を聞き逃さないように、しっかりと耳を傾ける。

 

「……私は、先生の傍がいい、です」

「そっか、なら決まりだね」

「でもその……本当に、いいんですか?」

「当たり前だよ。だってそれが大人のやるべきことだからね」

 

 元々、少し退屈に感じていたような人生だ。今日の分岐点がこの先の生活が幸運か不運のどちらに転ぶかなど現状分かりはしないが、このくらいスパイスがあってもいいだろう。

 

「じゃあ今日からよろしくね、ツキちゃん」

「……はい!」

 

 ようやく頭を上げたツキちゃんの顔には華のような笑顔が咲いていた。それを見て、僕も不思議と口角が上がっていた。

 

 思えば、この子の笑顔を見たのはこれが初めてかもしれない。いや、本来ならばこんな表情をいつも浮かべていたのか。

 

 ならば僕はこの笑顔を絶やさないように頑張らなくてはいけないだろう。そんな決意を新たに、朝の話し合いは終わりを迎えた。

 

 

 

 

───さて、これからはツキちゃんと二人での生活が始まることになる訳だが、そのために準備することが幾つかある。

 

 ひとつは彼女の部屋、まあそこについては問題ない。あまり使っていない部屋がひとつあるからそこを改装すればすぐに彼女の生活スペースとして使えるようになるだろう。

 

 それから歯ブラシなどの生活必需品だ。まあこれは近場の薬局などに買いに行けば問題ないし、ネットショップでも簡単に取り寄せることが出来る。

 

 そして最後なのだが、これが一番の問題を抱えていた。

 

 

 

 

「服……どうやって用意しよう……」

 

 

ツキちゃんとの生活を初めて一日目にして、キヴォトス人という種族の壁……いや、世界の壁が立ちはだかろうとしていた。



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増える問題

2ヶ月経っちゃった〜……何してたんですか?ホントに何してたんだろうね。ちょっと絵描いてたり、なんかゲームやってたり、色々時間はあったんだけどね……流れをどうするか考えてるうちに執筆が先延ばしになっちゃった……


あ、ブルアカふぇす両日行くことになりました。アリスのコスで参戦します。危険ですので見かけたら是非距離を取ってください。命を保証は無いですがそれでも大丈夫って方は会いましょう。

(届いた衣装を見て)生地が薄ゥい!!これ絶対一月だと寒いよねって色々と試行錯誤してます。




 

 

 女性用の衣服をどう用意するか……僕は今、その大きな課題について脳のCPUを総動員してガンガンに稼働させながら考えている。

 

 何言ってんだお前と言われかねないワードではあるが、決して女装癖がある訳でも、ソレ系の収集癖のある変態でもない。本人は至って真面目に思案しているのだ。

 

 普段着程度のものならばネットショップで探せばすぐに用意はできるし、最悪自分の服を貸せばどうにかなることではある。

 

 しかし、下着ともなれば話はガラリと変わってくる。

 

 正確なサイズが必要になるため適当に注文する訳にもいかず、かといってツキちゃんに「下着を買うからサイズ教えてください」などという発言をしようものなら、その瞬間にありとあらゆる全てが終わることだろう。

 

 本来ならツキちゃん自身で買いに行ってもらうのが一番だったのだが、それを実行するのに大きな障害が付きまとってしまっている。

 

「頭のアレをどうにか出来ればなぁ……」

 

 それは彼女の頭上に浮かぶヘイローの存在だ。とにかく目立つ。

 

 触れられないが故に動かすこともできないという性質は隠し方が限られる上に、その状況も限定されるので……まあ、凄く面倒臭い。

 

 一応、日傘を差すことである程度の隠蔽は可能なので晴れた日か雨の日ならば外出はさせてあげられるのだが、流石に屋内までは持っていくことが難しい。

 

 つまり、服屋に行こうにも肝心のツキちゃん本人が店の中まで入ることが出来ないのである。それだと下着を買うことは難しいタスクになるだろう……。

 

 彼女のためにも、今は周囲の人達に彼女が異世界人であることを隠しておきたい。

 

「……どうしたものかなぁ……」

 

 なかなかいい案が出てこない。このままズルズルと引きずってしまうと、あの子の生活に苦を与えることになるだろう。

 

 そんな調子で腕を組みウンウン唸っていると突然、スマホの通知音がなった。どうやらLINEの通知らしい、アプリのほうで連絡を取る相手は多い訳ではなく、基本的にあまり頻繁には鳴らないので珍しく思いながら端末を手に取る。

 

「……誰からだ?」

 

 高校からの友達なら一人暮らしをいいことに連絡も無しで真夜中の寒空の中、いきなり家に突撃してきて「今から海行こうぜ」と言ってくるような破天荒男だ。わざわざ事前に話をしてくるとは思えない。

 

 両親ならLINEなどは使わず普通の通話アプリを使ってくる。となると……

 

「あー……随分久しぶりに来たなぁ、一年ぶりかな?」

 

 送り主は中学からの長い付き合いをしている女友達だ。

 

「そういえば、今はアパレルで働いてるんだったっけ……」

 

あまりこんなことに彼女を巻き込みたくは無いのだが、正直今は彼女の協力なしで解決出来そうに無い。ダメもとで頼みに行ってみるとしよう。

 

『今日、少し頼みたいことがあるんだけど大丈夫かな』

 

『急だね、なんかあったの?』

 

『うん、できれば会って話しをしたいんだけど』

 

『うーん……』

『わかったよ、会う場所どこにするの?』

 

『じゃあ……───

 

 

 

 

───「それじゃ、出かけてくるね。少ししたら戻ってくるよ」

 

「はい!ではお気を付けて、先生……!」

 

 短い挨拶の後、扉の閉まる音が静かな廊下の中に響く。気配が消えたのを感じ取ったからか、少しだけ身体に力が入り、頭の中は急な不安に苛まれる。

 

「行っちゃった……1人かぁ」

 

 誰かの家に、それも異性の家に一人残されるなんて当たり前だが今回が初めてのことだった。なんだかとにかく落ち着かない。

 

 一度リビングに戻り、ソファに座って心を落ち着けてから改めて周りを見渡してみた。モノトーンでシンプルなデザインの部屋、小さなダミーの観葉植物が気持ち程度に置かれている程度であまり飾り気は無い。

 

「このリビング……こうしてみると、なんだか作業室みたい……」

 

 いや、実際に私がここへ来る前はそんな使われ方をしていたのかもしれない。

 

 先生は恐らく数時間は帰ってこないと言っていたが、これから何をしていようか。本棚に並べられた小難しそうなタイトルの本をぼんやりと眺めながら、この時間の目的を決めてみる。

 

 視線をなんとなく動かしてみたら、偶然テレビモニターの横に置かれたノートPCに目が入った。

 

「あ、そういえば先生……ノートパソコンは自由に使っていいって言ってたっけ」

 

 自分の使っていたスマホは当たり前だが通信規格がこの世界とは違う。奇跡的に電波が通じるなんて上手い話があるはずもなく、電話ひとつでさえまともに出来ない状態だ。

 

 インターネットにも当然接続出来ず、長いこと使ってきたコレは便利な多機能端末から、カメラと目覚まし機能の付いたただの板切れへと変身してしまっている。

 

 となれば実質、情報を得る手段がテレビを見るか先生に直接聞いてみることしか無かったのだ。

 

 けれどその事は先生も想定していたのか、現在はあまり使っていなかったノートPCを貸し与えていた。やっぱり世界は違えども先生は分け隔てなく優しく、それでいて頼りになる人だと実感する。

 

 モニターを開いて、恐る恐る手探りで電源ボタンを入れてみる。数秒後にはシステムが立ち上がりホーム画面が映し出された。

 

 「えっと……どれが検索だったっけ、確か先生は『クローム』って言ってたような……」

 

 記憶を頼りにタッチパッドを操作して、その読み方らしき文字を探す。しばらく探しているとChromeと表記されたアイコンを見つけることができた。

 

「たぶんこれ、かな?」

 

 円盤のようなアイコンを試しにクリックしてみるとアプリが立ち上がり、検索画面らしきものが表示される。Google……ごーぐる?それともぐーぐるって読むのかな?

 

 検索バーの下にあるショートカットの一覧にはYouTubeやSpotifyなど、やはり聞き覚えのないサイトがずらりと並べられている。

 

「う、何が何だかわからないや……」

 

 画面から出てくるどれもが知らないものだらけで、自分がおばあちゃんになってしまったかのように錯覚してしまう。

 

「……まず、何から調べようかな」

 

 知りたいものが多すぎて何から優先すべきなのか……ぱっと思いついたのは、ここが一体どういう地名でどういう場所なのかということ。

 

 しかしながらそれをどうやって検索しようか……キーボードの文字列を適当になぞりながら考える。迷った末に指を動かしてキーを叩き、ようやく出した単語は『現在地』というなんとも大雑把な3文字だった。

 

 こんな検索ワードで望む答えが出るのか心配だったが、とりあえずEnterキーを押してみる。

 

「え……これでも出るんだ?」

 

 ダメ元に近い検索だと思っていたら意外にも正確な住所と共にご丁寧に詳細な地図まで用意してくれていたので、それを開いて地名や立地を確認してみる。

 

「……地域の名称は、こっちでいうと山海経か百鬼夜行あたりが近いのかな。」

 

 文字も言語も、キヴォトスのものとは差程変わりはない。なんだか不思議な気持ちだ。私はミレニアムの生徒では無いからそういった現象に詳しい訳では無いけれど、実はあまり遠い世界では無いのかもしれない。

 

 キヴォトスと薄壁一枚で隔てた先のような世界……そんな感覚に思えた。

 

 そんなことを考えながらもマウスを操作してマップを縮小してみると、独特な地形が現れる。それと共に太字で主張してくる2文字があった。

 

 『日本』、それが私が今いるこの地の名称。海の先にもさらに広い世界があるのだが、今はそこまで頭に叩き込んでも仕方がない。

 

「ふー……ただの調べ物だけでこんなに疲れたの、初めてかも……」

 

 ソファに背を預けて、膝を抱えたまま空を仰ぐ。

 

 先ほどまで心の奥底で半信半疑に思っていたことが紛れも無い事実なのだという実感が、今になって押し寄せるように湧いてきた。

 

 情報の渋滞で脳がオーバーヒートを起こしてしまい暫しの時間、ぼーっと天井を眺めるだけの生き物と化している。

 

 こんなことをしている場合じゃないのは、言われずとも分かってはいる。やらなきゃいけないことは沢山残っているというのに、それでも今の感情に引っ張られたのかネガティブな思考が浮かんできてしまい、やるべき思考と行動を阻害してくる。

 

 どうしてこんなことになったんだろう?どうやって帰るんだろう?そもそも帰れるのかな?今トリニティはどうなってるんだろう?正義実現委員会のみんなどうしてるの?

 

 答えが返ってくるはずの無い質問が頭を過ぎる。ひとつ思い浮かべればそこから連鎖するように疑問が積もっていってしまう。これじゃ駄目だと、少し気持ちを切り替えようとしたのだが……

 

「?……うっ……」

 

 目を動かして窓を見れば、何も無い透き通った……何かが足りていない青空が目に映った。きっとこの世界じゃ何でもないことの筈なのに、それが強烈な違和感と気持ち悪さに変わってしまい、思わず膝に顔を埋めた。

 

 先生がいなくなってから、シンと静かになったこの空間がどうしようもなく不安を掻き立てる。怖い、何に恐れているのかは自分でも分からないというのに……ただ、怖い。

 

 ここには自分以外誰もいないというのに……

 

「先生……せんせい……?」

 

 意識してか、それとも無自覚なのかは定かでは無いが……家主の消えた部屋の中には、ただただ縮こまりながら誰かを呼び続けている少女の姿があった。

 




ハーメルンにブルアカ小説で面白いのがたくさん出てきてくれて嬉しい……嬉しい……

毎日楽しく読ませて頂いてますわ!!!!読んでる暇あるなら書けって言われたら何も言い返せませんわ!!!面白いんだから知らねぇですわ!!!

少し質問なんですけど、現実にあるサイトとかを話の中で名前を出したりしても大丈夫なんですかね?現実と出来るだけ近いものにしたいからって理由で使っちゃってるんですけど……


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