コウシンキョウ。漢字では「恒心教」と書く。インターネット上にのみ存在する「架空の宗教」で、そこには宗教性も政治思想も見えてこない。個人個人がネット空間で勝手に“信者”と化し、特定の弁護士への誹謗中傷を繰り返す。挙げ句、その弁護士を名乗り、全国各地の役所や学校への爆破予告を重ねる事件が各地で相次いだ。「自分は単なる記号としての『ミーニング』に利用されているに過ぎない」。兵庫の事件でも名前を利用されたこの弁護士は、一連の背景をそうみている。

 ■布教活動

 「爆破、殺害予告30万件超」

 東京音楽大にファクスで脅迫文を送ったとして、8月下旬、警視庁が威力業務妨害容疑で20代の男2人を逮捕したというニュースが全国を巡った。

 2人は、今年1月から5月にかけて、同様の爆破・殺害予告を全国の学校や自治体、企業などに延べ30万件以上送りつけたとみられ、うち1人は取り調べに「恒心教を広めたかった」と話したという。

 架空の宗教、と呼ばれる恒心教の実態はつかみどころがない。ある捜査関係者も「恒心教の知識を得るのは、ほぼネット情報から」と苦笑する。

 いずれの事件にもおよそ共通するのは、発信元の匿名化技術が高い点。さらに、ネットの掲示板で特定の弁護士を攻撃する人たちでもある。

「唐澤弁護士」をかたり、兵庫県内の自治体に届いた爆破予告の脅迫文

 ■グーグルマップ改ざん

 「明らかに私を念頭に置いた名前でしょうね。迷惑どころの話じゃないですよ」

 恒心教から攻撃を受けているというその「特定の弁護士」は、憤りを隠さない。

 東京に事務所を構える唐沢貴洋さん、45歳。

 ネットの誹謗中傷対策に詳しく、2012年、ネット掲示板「2ちゃんねる」で誹謗中傷を受けていた少年の弁護を担当した。

 代理人として投稿の削除請求をしたことで、唐沢さんも攻撃対象になったとみられる。

 当時、構えていたのが「恒心綜合法律事務所」。唐沢さんをからかって「尊師」とあがめ、攻撃する人たちが「恒心教」を名乗るようになった。

 15年には、ネット上の地図サービスで、国会議事堂や原爆ドームの表記を実在しない「恒心教」の施設名などに書き換えたとして、会社員ら3人が軽犯罪法違反容疑で書類送検される「グーグルマップ改ざん事件」が起きている。匿名での誹謗中傷が、今ほどには社会問題化していなかった頃だ。

 その後も行為はエスカレートしていく。

 唐沢さん本人に対する殺害予告。本人や弁護士事務所をかたって役所や学校に爆破予告が送りつけられるようにもなった。事務所に抗議の電話が殺到し、仕事にならない日々が続いた。

明石市役所=明石市中崎1

 ■15歳のY君

 「今月末で辞任しなければ、登下校中の小中学生をスタンガンで気絶させて誘拐し、爆弾をくくりつけて市長室に特攻させる」

 昨夏、当時の泉房穂・明石市長宛てにこのような文面の脅迫メールを送ったとして、兵庫県警は今年2月、職務強要の疑いで22歳の男、Yを逮捕した。