生存報告、その19 その3
2022年 04月03日 (日) 07:45
おはようございます。ピストンです。

春ということで、我が職場でも大学を卒業した若いバイトさんが社会へと旅立っていきました。今年辞めていった子は能力的にも性格的にも、どこ行っても通用するだろうという安心感のある子だったので、おっちゃん心穏やかに見送ることができました。ただ優秀な子ってブラックな会社だと仕事が集中したりするから、そこは心配。


では「結局のところ、なろう長文タイトルとは何だったのかを考えてみる」第3回。


ツイッターをしてますと自分とは全く関わりのない人でありながら、定期的にタイムラインにあがってくる人っています。知り合いの知り合いって感じの人ですね。
私は創作垢と読書垢の中間みたいな所にいますから、知らない人の更新報告や宣伝ツイートもよく流れてくるのです。

先日、そういう交流が一切ない人の新作に目を通してみました。
なろうであまりポイントの入っていない作品。
でも周りの仲良しさんたちからは、それなりに評価されている様子。
で、読んだ感想。
正直、内容以前に、びっくりするくらい下手な文章だなと思いました。
赤ペン持って、ガンガン添削していきたくなるくらいに。
気になってストーリーとか頭に入ってこない。

こうなると不思議に思います。
周りの人は何故評価しているの?
仲良しさんだから評価してあげてるの?
ところがそうは思えない。周りの人は本当に評価しているように見える。
過去作品のレビューでは“リズムが良く読みやすい文章”なんていう人も。おそらく本心から。
そこで私は、今度は周りの人たちの作品も読んでみたのです。

結果から言いますと、最初の人ほど下手と思う文章はなかった。あまり上手くないなという人から、達者なものだなと思える人まで。
ただ面白い、面白そうだと思えるものは一つもなかった。今回は各作者さんのメイン連載10~15話ほど読んでまわりましたが、普通に出会っていたなら、全て1話切りしていたことでしょう。
ここで思いました。
これ「好み」の問題だ、と。

最初の人の作品、異世界を舞台に美少女傭兵が活躍するアクション作品です。周りの人の作品も、舞台は現実世界、近未来、異世界と様々ですが、基本はハードなアクションというものが多い。漫画でいえば『ブラック・ラグーン』『攻殻機動隊』『ヨルムンガンド』なんてタイトルが頭に浮かぶ感じ。
そして文章にも、なんとなく共通する傾向が感じられます。雰囲気を情景描写でやりくりする感じ。

おそらく私がまったく触れてこなかった知らない世界に、彼らが夢中になって大きく影響を受けた小説、ヒットして名作と評価されているような小説があるのでしょう。
私は「好み」でない、それらの作品を完全スルーして生きてきた。そしてもし、その「名作」を読んだとしても、つまらない、下手な文章だと切り捨てることでしょう。

純文学、ロマンス小説、架空戦記、思索的なSFなど、私が「好み」でないとスルーしてきたジャンルは数多くあります。
そして正直にいえば、私は自分が思うほど世界をフラットには見ていない。口にはださないが心のどこかで、自分が好むものに比べて好まないものを下に見ている。
そもそも無意識のうち下に見ているジャンルの、その中でもあまりクオリティの高くない作品とくれば、そりゃ「駄作」と切り捨ててしまいます。たとえそれが誰かの大切な作品であろうとも。


さて、今回の本題。
同じ文章。私は読んで酷いと思った。
でも私のFFさん(今は違う)はリズムが良く読みやすいと評価した。
「好み」が違うとして、何故ここまで違うのか。
そこで頭に浮かんできたのが、脳内変換スキル、スルースキルという言葉。
脳内変換スキル。文字通り自分の頭の中で書きかえてしまう能力。
スルースキル。まあいいかと、受け流してしまえる能力。

以前の私は、これらの能力のことをコツとか慣れとか、そういうレベルの話だと考えていたのですが、最近はもっと「読む」「観る」といった行為の本質に近い話なのではないかと考えています。

この脳内変換スキル、スルースキル。面白いのがいつでもどこでも同じように働くわけではないというところ。
私がなろうで読んだ、ある作品の1話冒頭。
“昔からの幼馴染みが”
いや、幼馴染みなんだから、そりゃ昔からだろ。
別の作品のやはり第1話。
“カメラクルーと撮影スタッフが”
カメラクルーは撮影スタッフの一部だろ。

実は私、前者は何も引っ掛かることなく読み進めています。後者はちょっとイラッとしています。
どちらの一文も、作者さんの言わんとすることはすぐに分かります。要は私がそれを汲むか汲まないかの違い。つまりスルースキル発動のライン設定に違いがある。
何故、私は両者に対して違うライン設定をしたのか。

ここで出てくるのが何個か前の活動報告、「生存報告その17」で書いたこと。
言葉が伝えるものには“内容”“意味”と“ノリ”“感覚”があり、実はコミュニケーションの本質とは“ノリ”の共有の方にこそあるのではないかという仮説です。

「好み」の小説とはノリの共有が深いレベルで行われている小説なのではないか。小説を読むとき、内容の共有よりも先にノリの共有が行われているのではないか。
内容の共有とノリの共有は自身の中ではっきりと分けて感じとれるものではなく、自身の意識では内容を共有できたと感じてしまうのではないか。
感じとったノリがどういうものかで、人は脳内変換スキル、スルースキルのライン設定を変化させているのではないか。

そう考えるとですね。私がいままでなろうで書いてきた幾つかの疑問に、とりあえずの答えが出るのです。
赤川次郎さんの文章は、とにかく大勢の人とノリを共有することのできる文章だったと。
ブームに追随した優秀な作家さんたち、赤川作品の内容は模倣できてもノリは模倣できなかったと。
ジェイムズ・パタースンやダニエル・スティール。内容は翻訳できても、ノリは失われたと。

さらに自身のノリを、最も深く共有できるのは自分自身でしょう。
何故、何度も見直した文章に誤字脱字が、主語述語の捻れがあるのか。
何故、こんなにも面白い自作が他人に評価されないのか。
私の言うことを、周りの人は理解できないのか。


話を少し戻します。
“昔からの幼馴染みが”の作品と“カメラクルーと撮影スタッフが”の作品。
この一文、どちらも第1話に書かれています。
幼馴染みの方なんて3行目です。
まだほとんど文章を読んでいない段階にもかかわらず、私はスルースキルの設定ラインを変化させていました。
何故か。
タイトルとあらすじから、その作品の中身を想定したからだと思われます。
その作品の内容、意味と共に、ノリ、感覚を。


さあ、ここらで3回に渡って書いてきたことを纏めてみましょう。

〇 なろうに来てタイトルを見ている時点で、私は幾つかの選択を終えている。

〇 その選択から外れたタイトルは、視界に入っても意識に引っ掛かかりにくい。

〇 テンプレートなタイトルは選択にはまっていた場合、目につきやすい。

〇 ノリを共有できているかで、見えているものは大きく違う。

〇 本文を読み始める以前に、ある程度ノリや内容を想定している。

これらを踏まえての話。
タイトルに必要とされるのは、まず第一に読者に手に取ってもらうこと。読んでもらうこと。
特にそれを好む読者にきっちりと届けられること。
それには作品が持つ内容とノリを感じさせることが必要(もちろん狙ったうえで外すという手法はあるだろうけれども)。
ただタイトルだけでは限界があり、他の要素も重要。


そして、やっぱり身も蓋もないこといっちゃうと、好みを共有する人の多寡ってのはある。美味しいカレーライスと美味しい茶碗蒸し。どっちも同じくらい美味しい。でも市場規模には大きな差があり、それがひっくり返ることは、おそらくない。
地域差ってのもある。全国を制したセブンイレブン、北海道ではセイコーマートに敵わない。ただセイコーマートが全国を制することもない。ウェブも同じ、場所って重要。


次は最終回。
ならば、なろう長文タイトルが示したノリや内容とは何だったのか。
どんな人がそれを求めたのか、に関する仮説。
ということで、また明日。今日と同じくらいの時間に。
この頃、日によって寒暖の差が大きいので皆さん体調には気をつけてー。ではー。
コメント全11件
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ピストン
2022年04月07日 22:48
漉緒さん、こんばんはー。
返信、遅れて失礼ー。

漉緒さんは長いことなろうにいて、色々見てるからなあ。

今回のはまあ、ちょっとした思いつきというか、理屈をペタッと貼ってみただけではあるんですが。
ツイッターで多くの人々の意見が食い違い、一方通行に行き交うのを見て、思いつきましたの。

では、今回はコメントありがとうございましたー。
漉緒
2022年04月06日 22:35
えー、ちょぉーっと過去からの読み活でのアレやコレやが、ぐるぐるしてしまってリアクション出来ませんでした。



「脳内変換スキル・スルースキル」とノリ(仲間意識による共感)の相乗効果というものを考えて見ると作者クラスタ対して、私が疑問、違和感を持っていた部分が解明された様に思います。ありがとうございました。

ピストン
2022年04月05日 07:51
その4のコメント返信は、また明日以降で、失礼しますのー。
おやすみなさいー。
ピストン
2022年04月05日 07:49
かわかみさん、おはようございます!
返信遅れて失礼。

面白いと言ってもらえて、ありがたいです。
でも外に出すには、まだちょっと独りよがりなとこがあるかと。

「あらゆるジャンルに貴賤なし、ただそのすべてのジャンルに一流から五流まで存在する」って誰かが言ってました。いや、そんな内容のことを。

人が何かをやるときは、何かを選んだのではなく、何かに選ばれたのかもしれないな、と思います。
小説書く人は、小説書くしかない人なんじゃないかしら。
みんな、自分の居る場所で、その場所での一流目指すしかないのかなと思っています。

ではコメントありがとうございましたー。
ピストン
2022年04月05日 07:32
つこさん、どうもー。

それよ、それ。
エッセイカテ投稿は無理よ。面倒だもの。

おもしろがってもらえたならラッキーですー。

ではー。
ピストン
2022年04月05日 07:27
真尋さん、おはようございますー。
返信遅れて失礼ー。

本当に見えないんだと思うのですよ。
同じものを見ても、見えているものが違う。

なろうでも批判的な感想ウェルカム、バチバチやりあって高めて行こうぜ系の書き手さんがいますけれども、やっぱりそれは「ノリが合う人の中で」のバチバチなんですよねえ。ノリの外からの批判に対しては「荒らし」扱いされてしまう。

その「ノリの合う人」の総数が多いものが“世間一般の”なんて言われるものになるんだと思います。
ただそれは絶対的な価値ではないんですよね。
何が上というものでもない。
ただ市場規模の大きいものになるのは間違いないことなので。
茶碗蒸し専門店を立ち上げるハードルは、カレー屋ラーメン屋のそれよりも高いと思うのです。

では、コメントありがとうございましたー。
またー。
とても面白いです!

ノリ、なるほど~。
そういう発想、なかったかもしれません。

赤川次郎の造り出すノリに、多くの人が共鳴しやすかった→から、彼だけ突出した。


私はその辺の見極めが未だに下手(私のノリに共鳴しやすい読者層の見極め)かと思います。

どちらかというと、美味しいカレーを提供する作り手ではなく、美味しい茶碗蒸しを提供する作り手かな? とは感じております。

茶碗蒸しが好きなお客様に喜んでいただけるよう、頑張るつもりです(笑)。
お客様の絶対数はカレーに敵わないでしょうけど、茶碗蒸しもあった方がいい、と思いますしね。

とりとめもなく失礼しました。
最終回を楽しみに待ちます。
この内容、割烹だけではもったいない気が、一読者としてはありますね~。
つこさん。
2022年04月03日 09:43
おもろいー、これエッセイで投下したらいいかんじに感想欄が動物園になりそう
業の深い話題がきた。
思わず実例たくさん挙げそうになりましたが……

「どんなに有益なアドバイスでも、求めていない相手にするのは失礼でしかない」の前提で、私は知り合いの作品には基本何も言わないし、読むこともなくなりましたが、仲間内で褒め合っているけどイマイチ伸びない作品にはわりとハッキリ理由があると思っています。

ただ、そのデカい欠点(読者的に避けたくなる理由)が仲間内での褒めに繋がっていたりする。感想欄開いて「よく感想書くとあるユーザーさんがこういう褒め言葉を使っているときは、その作品は読まない」という見分けまで私の中にはある。
(この辺、具体的に言うとピストンさんには伝わると思うけどここには書きません)

たとえば身分の高いヒロインが質素倹約が好きで「ドレスや宝石には興味がなくて」と言っていれば慎ましい印象を演出できると思っている人いまだにいるけど、「何不自由ないお金持ちがそうやって経済を回さないと結果的に下々に貧しさを押し付けてしまうだけの自己満足でしかない、上に立つ者として考えが狭すぎる」って結構多数の読者からは普通に嫌われる。「実は没落傾向でやむなく」とか理由が無い限り、高貴設定ヒロインに庶民感覚を持ち込むのはNG(庶民書きたいなら庶民を書けば良いわけで。この辺もう少し詳しい話もあるんですがまた何かの機会に)。でも仲間内では「そこが可愛い」と言われていて本人も満足して書いているなら、私からは何も言えない、という。


これは内容に関しての一例で、ピストンさんが挙げた文章の例、私もパッと思いつくのいくつかあります。むしろ私、文章の方がすごく気になるから、仲間内で文が褒められている人ほど、そういうのたくさん見かけるし「読み直してないのかな」まで思うけど、たぶん読み直しても気づかないくらい自分で自分の文が好きなんだろうなって思うからやっぱり他人の私からは何も言えない、ただ読まないだけ……

茶碗蒸し……茶碗蒸しも美味しいですからね。個人的に苦手な食べ物なので例えとしてしっくりきたんですけど、茶碗蒸しも素敵な食べ物であるのもまた真です。好きな人が美味しいと思って食べているときに横からとやかく言うことではないですからねー。
ピストン
2022年04月03日 09:02
砂臥さん、おはようございますー。

想定読者を正確に意識できる人というのは、自作というか自分を客観的に見ることができる人ってことでしょう。自作にふさわしい場所を選べるし、多分誤字脱字も少ない。
闇堕ちするような作者さんは、正しく想定できてないんですよねえ。

私自身もそうですが、それが優れているのか単に好みにあっているのか、よくわからないのですよ。
キャラもストーリーも好み、特に欠点は見つからないのにイマイチ面白く思えない作品とかありますからね。多分、内容は共有できているけれどノリが共有できていないのかなと。

気になると、そういうことしちゃうんですよ。本当の研究者さんみたいに長続きはしなくて、すぐ満足しちゃうんですけど。

最終回、期待しないで下さいませー。
ではー。
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