【解説】 マスク氏体制のXは倒産するのか 広告主に対する暴言で波紋

ジェイムズ・クレイトン、北米テクノロジー記者

米紙ニューヨーク・タイムズのイベントに出席したイーロン・マスク氏(11月29日)

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米紙ニューヨーク・タイムズのイベントに出席したイーロン・マスク氏(11月29日)

米富豪イーロン・マスク氏が、所有するソーシャルメディアX(旧ツイッター)から撤退する広告主を罵倒し、専門家らを困惑させている。広告主が減り続け、戻ってこなかった場合、Xは存続できるのだろうか。

今年4月、私はマスク氏を対面で取材した。X買収をめぐる、混乱を招く多くのインタビューの先駆けだ。

マスク氏は、今にして思えばかなり暴露的なことを言ったが、当時の私はそれを素通りしてしまった。

広告についてマスク氏は、「ディズニーが子供向け映画を、アップルがiPhoneを宣伝することに懸念がなければ、それはツイッターが宣伝に適した場所だという指標になる」と話していた。

あれから7カ月後、ディズニーとアップルはXから広告を引き上げた。そしてマスク氏は、こうした企業に対して、非常に侮辱的な発言を投稿した。

メディア監視団体「メディア・マターズ・フォー・アメリカ」は11月、Xでヒトラーの発言の引用やホロコーストを否定する主張などナチズム支持の投稿の隣に、広告が表示されていたと指摘。これを受け、複数の企業が広告を停止している。

Xは「メディア・マターズ・フォー・アメリカ」の報告に激しく反発。調査方法に疑問を投げかけ、同団体を提訴した。

マスク氏は11月29日、米紙ニューヨーク・タイムズが主催するイベントに登壇し、インタビューを受けた。その中で同氏は、広告ボイコットがどれだけ自社の収益にダメージを与えているかを示すため、倒産という言葉も使った。

マスク氏は昨年、440億ドルでツイッターを買収した。こうした企業に倒産という言葉は考えられないように思えるが、可能性はある。

それを理解するためには、Xがいかに広告収入に頼っているか、そしてなぜ広告主が戻ってこないのかを知る必要がある。

最新のデータはないものの、Xの昨年の売上高は約90%が広告によるものだった。広告がこのビジネスの心臓だ。

29日のインタビューで、マスク氏はこのことを十二分にほのめかした。

「もし会社が失敗するとしたら(中略)広告主のボイコットが原因だろう。そして、それが会社を倒産させることになるだろう」

米紙ニューヨーク・タイムズのイベントで対談するイーロン・マスク氏と、コラムニストのアンドリュー・ロス・ソーキン氏(11月29日)

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米紙ニューヨーク・タイムズのイベントで対談するイーロン・マスク氏と、コラムニストのアンドリュー・ロス・ソーキン氏(11月29日)

マーケティング・コンサルティング会社「エビクイティー」のマーク・ゲイ最高顧客責任者は、Xに広告主として戻ろうとしている企業はないと話す。

「資金は流出し、そこに再投資する戦略を立てている人は誰もいない」

12月1日には、小売り大手ウォールマートが、Xから広告を引き上げると発表した。

マスク氏は29日のインタビューで、Xを辞めた広告主を批判した後、さらに広告主をいら立たせることを口にした。

「やあ、ボブ」と言ったのだ。これは、ディズニーの最高経営責任者であるボブ・アイガー氏のことだ。

マーケティング・コンサルタンティング会社「AJLアドバイザリー」のルー・パスカリス氏は、マスク氏が企業幹部らにこのような「十字砲火」を浴びせれば、幹部らはXとの関わりをさらに遠慮するようになるだろう、と言った。

インサイダー・インテリジェンスの主任アナリストを務めるジャスミン・エンバーグ氏も、「ソーシャルメディアの専門家でなくても、Xの広告主やXに報酬を支払っている企業を公然と、個人的に攻撃することは、ビジネスにとって良いことではないと理解し、知っているはずだ」と付け加えた。"

Xは本当に倒産するのか

広告主が永久に離れた時、マスク氏の元には何が残るのか。

4月に私がインタビューした際、マスク氏は明確に、自らXに導入した定額制システムが広告収入の代わりにはならないと理解していた。

「たとえば100万人が年間100ドルほどの定額制を利用すれば、1億ドルだ。これは広告に比べれば本当に小さな収入源だ」と、マスク氏は話していた。

2022年のツイッターの広告収入は約40億ドル。インサイダー・インテリジェンスは、今年の広告収入は19億ドルまで落ち込むとみている。

Xには二つの大きな支出先がある。一つは人件費だが、マスク氏はすでに数千人を整理することで、これをぎりぎりまで切り詰めている。

もう一つは、マスク氏が同社買収のために借りた総額130億ドルの返済だ。ロイター通信は先に、同社が利息だけで毎年12億ドルを支払う必要があると報じた。

もし同社がローンの利息を支払うことができなかったり、従業員に給料を支払う余裕がなかったりすれば、本当に倒産してしまうかもしれない。

しかしこれは、究極のシナリオであり、マスク氏も確実に避けたいはずだ。

マスク氏は今年7月にプラットフォームの名称をツイッターからXに変更。それに伴い、オフィスからロゴが取り外された

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マスク氏は今年7月にプラットフォームの名称をツイッターからXに変更。それに伴い、オフィスの建物からロゴが取り外された

マスク氏は選択肢がある。その中で最も簡単なのは、自らの資金をさらにつぎ込むことだ。しかし、マスク氏はそれをしたくないようだ。

利息負担を軽くするために、銀行と再交渉することも可能だ。たとえば、毎月の利息が返済額を上回る場合、返済額を超えた分の支払いを翌月以降に遅らせる「繰延利息」の提案などが考えられる。

しかし再交渉がうまくいかず、銀行への支払いが止まった場合、唯一の選択肢は倒産だ。そしてこの時点で、銀行は経営陣の変更を求めることができる。

米ハーヴァード・ロー・スクールのジャレッド・エリアス教授は、「これは非常に複雑なことになるだろう」と説明。

「そして非常に困難も伴うだろう。この場合、マスク氏は定期的に証人喚問を受け、法廷で証言しなければならないため、多くのニュースが生まれることになる」と述べた。

そうなれば、マスク氏のビジネスの評価にとっても悪い事態だ。マスク氏が今後借りられる資金にも影響するだろう。

Xが倒産した場合、そのプラットフォームも単純に止まるのだろうか。

「そういうことは考えらえない」と、エリアス教授は言う。

「倒産するなら、それはマスク氏の決断によるものだろう。だがそうなったとしても、債権者には会社を破産に追い込み、管財人を選任し、明かりを再びともすという選択肢がある」

マスク氏は次にどうするのか

Xが抱える全ての問題に対する明確な解決策は、単に、そして早く、別の収入減を見つけることだ。もちろん、マスク氏はそれを模索している。

Xは先に、音声とビデオの通話サービスを導入した。マスク氏自身も11月、この機能を使ってゲームをプレイする姿を見せた。マスク氏は、XをTwitch(ツイッチ)のような配信アプリと競合させたいと考えている。

マスク氏は、Xをチャットからオンライン決済までカバーする「スーパーアプリ」にしたい考えだ。

ニューヨーク・タイムズは、マスク氏が昨年、投資家向けに配布した資料を入手。それによると、Xの決済事業は2023年に1500万ドルの売り上げを見込み、2028年までに約13億ドルに成長するとされていた。

Xはまた、データという宝の山を持っている。その膨大な会話のアーカイブは、チャットボットの訓練に使えるだろう。マスク氏は、このデータに大きな価値があるとみている。

つまり、Xには可能性がある。

しかし短期的には、こうした選択肢が広告主の残した穴を埋めてくれるわけではない。

マスク氏の冒涜(ぼうとく)的な暴言が多くの人を困惑させたのはそのためだ。

AJLアドバイザリーのパスカリス氏は、「このことについて、私はつじつまの合う理論を持っていない」と話した。

「マスク氏の頭の中には、私には理解できない収益モデルがある」