渓流詩人の徒然日記

知恵の浅い僕らは僕らの所有でないところの時の中を迷う(パンセ) 渓流詩人の徒然日記 ~since May, 2003~

蜂毛鉤

2023年12月07日 | open



フライフィッシングの毛鉤巻き
には一つのキモがある。
それについて。

昔、フライ仲間の友人が蜂毛鉤
を巻いて作った。
上の画像はネット上のものだが、
これなどよりも精巧。
どう見ても蜂にしか見えない物
を作った。
だが・・・。
全く釣れない。
友人は、さらにそれより精巧な
物を作った。
一向に釣れない。
そこには、フライフィッシング
の一つの定理が働いていた。

フライフィッシングで使う毛鉤
は、今タイムリーにマスが摂餌
している虫類とピタリと合えば
それに模した毛鉤で爆釣モード
に入る事も可能だ。
だが、最初の1匹目を釣り上げ
てストマックポンプで胃の内容
物を現認しない限り、今の食性
を確定できない。
その為に、最初に汎用型のフラ
イを投げて反応を見る。
この時に威力を発揮するのが
エルクヘアカデイスだ。
カデイスとはトビケラの事。




マスがカゲロウと並んで大好物
のトビケラを模してエルクの毛
で巻く。
ボディーには孔雀の羽やキジの
雄の尾羽が使われる。浮上性が
高いからだ。


フェザントテールと呼ばれる
雄雉の尾羽はフライ巻きで
一番使われる。
メイフライ(カゲロウ)の成虫
(スピナー)を模した毛鉤にも
多用される。

パラシュートタイプの目印を
上に配したフライ。
白い目印はマスからは見えな
い。

カゲロウは幼虫から一気に
変態して羽化した後は、ダン
(亜成虫)からスピナーとなる。
スピナーは摂餌器官も排泄器
官も持たない。後尾して死ぬ
だけだ。短くて数時間で死ぬ。
その羽化する前の幼虫と成虫
になって死に落ちたカゲロウ
をマスは捕食する。








羽化する時は一斉に羽化する
現象もあり、それをハッチと
呼ぶ。
まるで雪が降って来たような
光景になる。
川沿いでは車の走行は困難に
なる。億単位の羽数のカゲロ
ウがいつまでも降ってくるか
らだ。








マス族はこのハッチの時には
踊り狂ったように食べまくる
のだが、ハッチはいつもある
わけではない。
通常の釣りでは、そのため、
日常的にタイムリーに捕食し
ているその餌に模した毛鉤を
選択する。
マスが何でもかんでも食いつ
くのはハッチの時とポンドの
養殖マスに配合飼料を撒いた
時だけだ。マス族たちは、ラ
イズの時さえ、何を食べるか
見切っている。
さらに流れの中では、異物な
のか餌なのかを見分けている。

それゆえなのだ。
人工的な毛鉤の場合、ピタリ
と合体する毛鉤以外には全く
食いつかない。
本物の虫に似せていればいる
ほどだ。
そこで人間は擬態の手を使う。
マスが何だか判断できないけ
ど、それとなく虫に見えてし
まう形状で毛鉤を巻くのだ。
私たちのグループはそれをナ
ンジャラモンジャラフライと
呼んでいた。
師匠はファジーフライと呼んで
いた。
要するに、何の虫だか分から
ないが、なんだか虫みたい、
という形にあえて作るのだ。
マスは利口で、咥えて違和感
あったらすぐに吐き出す。
それより前にずーっとバック
しながら水面を見続けて見切
る。
これは擬似だ、と判断すると
プイッと横を向く。
そしてその同じ毛鉤には二度と
興味は示さない。
そうした利口なマスたちを錯覚
させてヒットさせるのがフライ
フィッシングなのだが、あまり
にもドンピシャの虫に似た物だ
と、それの個種を食べている時
にしかそのフライには食いつか
ないのだ。
それゆえ惑わす手を人間が使う。
それがナンジャラモンジャラの
ファジーフライ類なのだ。
これ、かなり釣れる毛鉤。

友人は、作品としては見栄えの
良い毛鉤を巻いたが、フライ
フィッシングのキモとしての
マスの摂餌判断について見誤っ
ていたのだ。
夏場などは、甲虫というテレ
ストリアルがメインになるが、
鉤にピーコックを巻いてフェザ
ントテールを巻いた物だけでも
バンバン釣れる。
ただ、それだと沈むので、浮か
せる為にフロートを巻く。
エルクヘアの羽兼フロートなど
を巻くと当然春から夏場は最強
になる。
エルクヘアカデイスの毛鉤など
は全然本物のトビケラには似て
いない。
だが、それは、究極のファジー
手管を表現しているフライだと
いえる。
エルクヘアカデイスはドライ
フライの中の傑作だ。
案外新しく、まだ発明されて
50年と経っていないのではな
かろうか。
西欧毛鉤釣りの歴史は15世紀
には発明されていた。
日本には南蛮船の乗組員がもた
らした。アダムスあたりかも
知れない。
そして日本でも武士の間に大
気となり、日本の各地の毛鉤
釣りの基礎となった。
日本のそれは16世紀当時のま
ま鎖国によりガラパゴス化し、
英国が16世紀にやっていたま
まの姿で「テンカラ」の名で
残っている。ポルトガル語かも
知れない。
一方、英国では中国からリール
が入り、バスとテグスを結んで
遠投する方法が発明された。
さらにその数百年後にトンキン
ケーンという竹の一種を割って
貼ってテーパーをつけたロッド
が登場した。
日本は丸竹をそのまま使った
が、英国では高度なカンナ掛け
と接着によるバンブーロッドを
作った。
これは、アメリカにフライフィ
ッシングが入ってからさらに
高度に発達した。
1900年代に入るとアメリカン
フライフィッシングは本家英国
を抜く勢いとなった。
なお、日本では、明治維新後に
英国式フライフィッシングが
輸入された。
日光中禅寺湖のブラウントラウ
トやレインボートラウトは英国
人によって明治期に移植繁殖さ
れたものだ。
日本の固有在来種はヤマメ、
アマゴ、イワナ、サケ、イトウ、
ヒメマス等だ。
そして、ヤマメの降海型がサク
マスで、アマゴがサツキマス
となる。
全てが降悔はせず、氷河期に陸
風された種族が河川の上流のみ
に生息する。
水温17℃以上の環境では生存
できない。
それ以上の水温の河川は里川
のアユやコイ類のエリアとなる。
マスは岩のある渓流の流域から
最上流付近までいる。
そして、源流部ではイワナ一色
となる。

渓流域。
クマ生息エリアと重複するのが
渓流。


ここは確実にマスがいる。


ここも。


これは渓流の源流部。
イワナの棲息域だ。
イワナは毛鉤の流しではなく、
水面を叩いて釣る。



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