そうだ リストカット、しよう
そうだ リストカット、しよう
理由はなんとなく希死念慮があったから。体を傷つけることで希死念慮を消化しようとしたから。あとは少しの興味。
身近の女の子は、結構リストカットをしていた。
ある女の子の腕はズタズタだった。浅い傷を包帯で覆っていた。近くで見ると傷口がぷっくりと浮き上がっていて、ミミズがうじゃうじゃしているみたいで「うえっ」となった。
ある女の子は友達に誘われてしたらしい。「簡単だよ」「切るとスッと楽になるよ」。謳い文句は麻薬そのもので、「絶対にするものか」と思った。浅はかな人間の浅はかな行動であると、静かに憤慨した。
けど結局興味が勝っちゃって、しちゃうのよね。この年齢の女の子の性(さが)かしら。
この希死念慮がなくなるなら喜んでするわ。
痛くないらしいし。
跡も残らないらしいし。
みんなしてるし。
「スッと楽になる」らしいし。
カッターは久しぶりに使う。刃を出していく。
「チチチ...」
浅い傷をつけるだから、そんなに出さなくていいかしら。折り目が2つ出るくらいでいいや。
「チチチ...」
...いや、ちょっと出しすぎだな。1つでいいや、1つで。
「チチチ...」
刃を動かす度に鳴るあの音が能天気で、こいつは今私の腕を切りつけるのだぞ、わかってるのか、とちょっと嫌な気持ちになった。
刃の先を二の腕の真ん中辺りにつける。皮膚はわりかし丈夫で、これだけじゃ切れそうになかった。
力を込めなくちゃいけないのね...。
この時点で、私は希死念慮を完全に忘れていた。なんなら、カッターに力を込めたら死んじゃうんじゃないかしら、死にたくはない、と思った。
後ろを振り返った。
父親は正直そんなにいい人じゃなかった。 小学生のころは、父と母が喧嘩する声や、時折聞こえる鈍い音を聞きながら眠った。 高校の同級生は金持ちが多かった。公務員の息子や医者の娘と、いろいろあった母子家庭の娘は、正直馬が合わない。
2年生になって、いじめではないけれど、クラスのガキ大将とその囲いに目をつけられた。
教室に入ると「入ってくんな」。
お菓子のゴミを投げられた。
「ブサイク」「鼻が潰れてる」「横顔がブス」「笑ったときのほうれい線がキモい」「顔がキモい」「動きがキモい」「声がキモい」
勉強しか取り柄のない私の成績はどんどん下がっていった。
過食嘔吐で吐き癖がついた。
親には「本当はあなたみたいな子供は育てたくなかった」と言われた。
........
.........う~~~~~~~~ん、
........
死のっ。
クッ、と手に力が入った。
「ブツッ」
はじける音がした。
血は遅れてやってきた。白い傷口にじわじわと赤黒い血が沸き上がってくる。ぷつ、ぷつ、と赤い露。だんだん傷口が赤くなってきて、ルージュを塗った女の唇みたいだなぁ、と思った。セクシーな色だこと。私の肌は体調が悪く見えるくらい白い(青い)から、赤はいっそう映えた。
あらあら、なんだかロマンチック。リストカットってグロテスクで下品極まりない行為だと思ってたけど、ずっとロマンチックだったのね。 ほれぼれと傷口を見つめていた。
束の間。
醒めた。
いいいいいいいいいいいいいいいい痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
ひりひりする。傷口と空気が接触して、七味唐辛子を塗りつけられたようにひりひりする。
痛くないって言ってたじゃない!!
ちょっと!!血止めて!!
消毒!!マキロンマキロン!!!
うまいこといった。血は止まった。包帯でぐるぐる巻いた。
痛いし、死ねなかったなぁ。
痛かったなぁ。なんでこんなに痛かったのかしら。
塩酸も飲んだし 頸静脈も切ったが
私は死ななかった 死にゃしなかった
(NOT DEAD LUNA/ヤプーズ)
なんでかしら。
本当に自分勝手な解釈ですが...
死ぬべきではなかったからではないか。
神、私は無神論者ですが、神が死ぬべきではないと判断したから、痛かったのではないか。
私はまだ、生きるべきなんじゃないか。
それともただの意気地無し?
...って、そもそも手首を浅く切っただけで死ねるわけないじゃない。アーホアーホ、馬鹿馬鹿し。
寝ます。寝るということは、明日の朝起きるということは、私は生きています。おやすみ~。
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