今年も、この季節がやってきた!
みんなとモモたちのきずなをつなぐ「きずなの短編 その3」が公開されたよ♪
昨年とったアンケートでも「その後が気になる!」と回答多数♡ だった――このメンバーの登場です!
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ウチ、薫。
中学二年生になったウチは、真弓家を盛りたてるべく、忍さんと奮闘中!
今日は、矢神家との「作戦会議」のため、トラも連れて「ある場所」にやってきた。
ハジメさんは類くんを連れてきていて……?
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この秋、『いみちぇん!! ふたたび、ひみつの二人組』が発売予定!
物語の舞台は、ちょうどこの短編のあとからしばらくした頃――中学二年生の秋。
発売日の10月12日(木)まで、どうか楽しみにまっていてね♪
中間地点の三人組
「おひさしぶりです、矢神家の若長(わかおさ)」
「こちらこそどーも、真弓家のご当主。お元気そうで」
ハジメさんと忍さんがアクシュするのを、ウチ、真弓薫はしみじみと見守る。
敵対してた二家が、よくここまで仲よくなれたモンだよ。
今日はウチら真弓家の広島と、矢神家がある三重の中間地点――ってことで、神戸で待ち合わせ。
文房師の一族が集まってすることといえば、もちろん、文房四宝の話!
おがたいの家を盛りたてるために、なにか一緒にできないかって、計画中なんだよねっ。
ハジメさんはあいかわらず、さわやかイケメンお兄さんだ。
今日は急に真夏みたいな暑さになったけど、向かいのイスに腰かける彼は、体感マイナス五度くらいの涼やかな笑顔だ。
「薫ちゃんもトラくんも、中二のゴールデンウィーク、楽しんでる?」
「楽しむっていうより、いそがしいかな」
「オレはヒマ。剣道部ぐらいしかやることねーわ」
となりでトラが、ぼそっとスネたように言う。
ううん、実際スネてたんだ。
ゴールデンウィークのウチは、あちこちに出張で、忍さんとふたりでドタバタ。
真弓家の文房四宝を広めるためには、今がふんばりどころなんだから、しかたない。
せっかくつきあってるのに、長休みにほっぽりだして悪いな~とは、ちょっとだけ、ちょっぴりだけ、思ってはいるんよ?
だから今日は仕事だけど、相手はハジメさんだからオッケーかなって、トラにも声をかけてみたんだ。
そしたら、ハジメさんのほうも、「それなら」って、もう一人連れてきた。
「類くんもひさしぶりだよね。元気だった?」
「うん。……薫も、元気そうだね」
彼、じゃないや彼女は、低テンションの小さな声で答える。
どうして自分がこの場にいるのか、さっぱりわからないって顔だ。
その彼女のわきを、きゃははははっと、元気いっぱいのチビッコが駆けぬけていく。
さらに「こら、待ちなさ~い!」とお父さんとお母さんが追いかける。
――そう。ハジメさんが予約してくれたお店は、神戸港のおしゃれなシーサイド・カフェ!
ではなく。
ゆったりと落ち着いた、オトナの料亭!
でもなく。
開園直後の、動物園のレストラン。
「……ウチ、聞いてもいいですか? なんで動物園で打ちあわせなんです?」
「いやぁ。忍さんと、夜中に電話で打ちあわせしてたときにね。『つかれましたねー、いやされたいですねー』って話になってさ」
「ええ。いやしといえば、もふもふ。動物。動物園のふれあい広場――と連想して……」
「動物園だ! 神戸にある! って」
なるほど……と、引き笑いがうかぶ。
オトナたちは、よっぽどおつかれのご様子だ。
「おれたちは後から追いかけるから、類くんたちは遊んできたら? せっかく来たんだしさ」
「トラくんも薫も、行っていいですよ」
「ウチは残るよ。矢神家の四宝の話はキョーミあるし、ハジメさんに見てもらいたい、真弓家の四宝のサンプルも持ってきたし」
ウチはカバンを開け、きのう夜中までかかって仕上げてきた、色墨の新色をならべだす。
するとトラと類くんは視線をかわし、それぞれ眉を上げた。
「オレは、薫が終わんの待ってるわ」
「ボクも、涼しいところから動きたくない」
まぁ、この二人はそうだろうね。
モモちゃんでもいてくれたら、空気がほわ~っとして、ほわほわ~っと「じゃあ、三人で遊びに行くか~」って流れになりそうだけど。
とにかく、さっさと終わらせちゃいますか!
オトナ二人も、早くふれあい広場に行きたいらしい。
さくさくさくさく話を進め、広島と三重の交換留学制度を作ったら、おたがい刺激になるし、次世代の文房師たちは仲よくなれるよねとか。
第一弾は、真弓家に依ちゃんと樹くんに遊びに来てもらうことからどうか――とか。
熱中してる間に、朝一番はすいてた席が、ぽつぽつうまり始めた。
もうそろそろお昼の時間か。
そして類くんとトラはほおづえをつき、ぼんやりとガラス窓の向こうをながめてる。
ハジメさんは腕時計を見て、ああっと声を上げた。
「類くんっ。レッサーパンダの、エサやりショー! せっかく整理券をもらったのに、あと十分で始まっちゃうよっ。動画撮ってきてくれない!?」
「ヤダよ。外暑い」
「屋根つきの施設だから大丈夫だって。トラくん、類くんが不届き者に声かけられないように、ついてってあげてよ」
「オレェ?」
二人は眉間にシワをよせて、立ち上がる気ゼロだ。
「ダメかぁ……。おれ、レッサーパンダのショー、すごく楽しみにしてたんだ。残念だなぁ。ショーのあとは、自分でもエサやりもできるんだって。せめて動画でいやされたかったなぁ……」
「……わかったよ。行ってくればいいんだろっ」
類くんが息をつき、スマホを手に立ち上がった。
「類くんは優しいなぁー。ありがとね。じゃあこれ、整理券ね」
手に押しつけられたチケットに、類くんは、さらにため息。
トラは類くんを一人で行かせるのも、ウチを置いていくのもどうかと思ったのか、腰をうかせてオタオタする。
ウチはぱたんと資料を閉じた。
「ウチも行こ。レッサーパンダにエサあげたい」
「マジかっ」
トラはぱああっと笑顔になる。
ほんっとウチ、この笑顔を見ちゃうと、どうしようもないのよ。
ウチは自分に苦笑いして、さっさとレストランを出て行く類くんを、トラといっしょに追いかけた。
※
「なんだよハジメのやつ。整理券、しっかり三人分でもらってるじゃないか。最初から自分は行く気なかったんだ」
「打ちあわせのあいだヒマだろうなって、気をきかせてくれたわけね」
さすがハジメさん、と思ったけど、類くんはナットクいかない顔だ。
「たぶん、集合場所を動物園にしたのも、ボクを遊ばせようと思ったんだよ。ボクがゴールデンウィークもずっと家の手伝いで、ぜんぜん外に出てないのを知ってるから」
「なら、遊びに来られてよかったじゃねーか」
「いつまで子どもあつかいしてほしくない。ボクはもう中二だぞ」
「中二って、まだ子どもだろ」
「ほとんどオトナだよ。トラはまだ子どもなんだね」
類くんはトラとやりあいつつも、また日陰に入れてホッとしたのか、レストランを離れたときよりはキゲンがよさそうだ。
ステージでは、司会のお姉さんがマイクを持って、観客席に手をふってる。
幼稚園のおそろいの帽子をかぶったチビッコたちは、お姉さんの「こーんにーちはー!」の声に、元気いっぱいの「こんにちはー!」を返す。
ビミョーな年令のウチら三人は、ビミョーに肩身がせまい。
二人の言うとおり、もう子どもでもないし、まだオトナでもない、中途はんぱな年令だよね。
ウチは真弓家の仕事をガンガンやってるのに、ウチ一人じゃ、企業のオトナはまともに相手してくれないから、時々イラッとするんだ。
ウチも忍さんと同い年なら、もっと真弓家のためにできることがあるのにって……。
パチパチパチパチッ。
ハクシュの音にびっくりした。
レッサーパンダが、お姉さんが出したエサを、ばくっと食べたところらしい。
ウチもあわてて手を打ちあわせる。
類くんはりちぎに、ハジメさんのための動画を撮影中だ。
「やべー、かわいいな」
こっちを向いたトラは、八重歯を見せた、満面の笑み。
――あ。トラのこの顔を見たの、ひさしぶりかも。
仕事のことが、一瞬、頭から消えた。
思わずじっと見つめちゃったら、トラはふしぎそうに目をまたたく。
小学生のころからなんにも変わってないように見えて、あらためて観察すると、顔立ちも体つきも、ちゃんと「男子」!ってかんじ。
…………くやしいなぁ。なんかカッコよく見えるんですけど。
けど、この中途はんぱな時期もあっという間に終わって、トラは「男の人」になるんだよね。
自分は早くオトナになりたいって思ってるくせに、トラがそうなっちゃうのは、なんだかもったいない気がするよ。
忍さんたちを待ちついでに、ウチらは「ふれあい広場」でくつろぐことにした。
ウチと類くんのヒザには、ちんまりしたうさぎ。
もふもふもふもふもふもふもふ。
やわらかい毛なみをなでてると、無心になるな。
最初はおっかなびっくりだった類くんも、すっかり表情がやわらかくなっちゃってるよ。
トラはすみっこにいたコに、にんじんスティックをぽりぽり食べさせてる。
「類くんの白いコ、モモちゃんに似てるね」
「うん。おとなしくてかわいい」
「モモちゃん元気にやってるかなー」
「……もう半分くらい、髪の色がもどってたよ」
「最近会ったの?」
「ううん。みずきから定期連絡が来る。文通してるのに、メールも送ってくるんだ。みんなの写真を撮るたび」
そっけない言い方だから、メーワクなのかなって、カンちがいしそうだけど。
口もとがちょっとゆるんでるってことは、喜んでるらしい。
彼女はスマホを出して、アルバムをスクロール。
ちゃんと保存して整理してるあたり、やっぱりうれしいんだ。
類くんが行きそうにもない、山や川の写真がまざってるのは、ハジメさんに連れ出されたんだろうな。
そして類くんの中学の友だちらしいコの、制服姿の写真も。
ふふ。中学校生活、なかなか順調そうじゃの。
「これが、この前送られてきたやつ」
ひふみ学園の屋上でお弁当を食べてる、モモちゃんと矢神くんの姿だ。
卵焼きを交換してるのをモクゲキされて、どっちも真っ赤になってる。
ほんとだ。モモちゃん、だいぶ髪色がもどってきてる。
ほかにも、女子メンバーが大食い巨大パフェに挑戦してる写真。
野球部や剣道部の試合の写真も。みんなで応援しに行ったんだな。
なんだか胸がいっぱいになっちゃって、ウチはカベに背中をあずける。
「東京メンバー、青春してるねー」
「モモは書道部で、次の部長になるらしいよ」
「あのモモちゃんがっ!? よく引き受けたね」
「引き受けたっていうか、書道部がツブれそうで、ほかにやれるコがいないんだって」
「で、矢神は剣道部部長になんのか」
トラは興味しんしんで、剣道の試合のときの動画を眺めてる。
「そうだろうね。トラは部長やるの? 三年も夏休み前後には引退するんだろ?」
「オレはそーいうキャラじゃねぇよ。類はなんか部活やってんのか?」
トラに聞かれて、類くんはちょっと肩をすくめた。
「帰宅部。薫は?」
「帰宅部」
「だよね」
短いやりとりをして、ウチらはニガ笑い。
類くんは実家が旅館と神社で、手伝いがある。
ウチはちょっと迷ったんだけど、真弓家の仕事優先で、書道部には入らなかった。
自分で決めたことだし、まったく後悔してないけど。
青春してる東京メンバーを見ると、こういうのもいいなぁって思う。
モモちゃん、いい笑顔してる。
お役目をはたして、もう御筆を持たずに、ふつうの生活を送れるんだもんね。
モモちゃんが「今」をめいっぱい楽しんでるのが、ウチもうれしい。
「写真を見ると、会いたくなっちゃうね」
「ボク、このあと行くよ」
「「え?」」
神戸から、東京まで、これから? ここから車じゃあ、半日がかりでしょっ。
「さっきハジメが、『ついでに行っちゃおっか』って言ってたから、ほんとに行くと思うよ」
「……マジか。おまえ、連れまわされ慣れてんな」
「ハジメのパートナーも、もう四年目だから。うちの親も、ハジメは信頼しまくり」
類くんはちょっと笑う。この、まんざらでもないって顔!
ウチは目が丸くなっちゃう。
「薫とトラも、来ればいいよ」
「来ればって……」
「急に、なぁ」
そりゃモモちゃんたちに会いたいけど、矢神くんちに泊まるんでしょ?
いきなりメーワクだよと、ウチらは顔を見合わせる。
すると、
「はーい決定~♪ 三人とも東京へお連れしまーす」
「薫、トラくん。東京のみなさんにヨロシクお伝えくださいね」
いつの間に合流してたのか、となりのコーナーでモルモットにたかられてるハジメさんと忍さんが、話に加わってきた。
忍さんは頭にモルモットをのせたまま、おさいふを出して、ウチにお金をわたしてくる。
「とちゅうで、手土産とあしたの着がえなどを買ってください」
「ちょ、忍さん。ウチは……っ」
頭の中に、すさまじいイキオイで、今日の打ちあわせの話や、帰ったら片づけようと思ってた仕事や、やりかけの工房の作業が積みあがっていく。
すると忍さんはけげんな顔。
トラはしょんぼり。
類くんは眉を上げ、じっと見つめてくる。
「だ、だって、忍さんばっかりに仕事を押しつけるわけには」
「――そうですよね。わかりました」
忍さんはウチの手からお金を取り、おさいふにもどす。
とたん、ウチの胸には後悔が押しよせた。
みんなに会えるんだよ!? トラとゆっくりいられるのも、ひさしぶりじゃろっ?
ウチの子どもの心が、めっちゃ怒ってる。
それにお役目をがんばって、自由に「今」を楽しめるようになったのは、モモちゃんだけじゃなくて、類くんもトラも、――ウチもだ。
大昔からの真弓家のお役目が終わって、やっと未来のことを考えられるようになったんだよ。
それなのに、せっかくのチャンスをのがしちゃうの?
「あ、あのっ。やっぱりウチ、」
「わたしも行きます」
「………………え? 忍さん?」
「ハジメさん、もう一人増えても?」
「もっちろんオッケー。匠んちには、いつトツゲキしてもいいように、客用ぶとんをたくさん送りつけてあるから」
ニ~ッと歯を見せて笑う、オトナ二人。
な、な、な……っ。
まるでいたずらッコだ。ウチ、忍さんのこんな顔、初めて見たよ。
「オトナのくせに、もうっ」
べちっと忍さんの腕をたたくと、忍さんはハハッとめずらしく声をたてて笑う。
それにつられて、ウチもトラも笑っちゃうし、類くんまでそっぽ向いて、たぶん笑ってるし。
結局、動物園をほとんど回らずに、東京へ向かって出発!
だけどその前に、お土産屋さんで、四人でおそろいのTシャツを買っちゃった。
動物園のロゴとレッサーパンダのイラストが入ったやつ。
――そして。
連絡もナシに参上したウチらに、矢神くんは目をすわらせ、モモちゃんは大喜び。
みんなで夕ごはんを食べて、リビングにおふとんをならべ、まくら投げまでして、全力で楽しんだ。
さらに翌朝は、おそろい動物園Tシャツで、ズラッと四人ならんでみせて(忍さんまで!)。
モモちゃんと矢神くんを、しゃがみこんで立てないほど、大笑いさせることに成功したんだっ。
武器は筆。文字を書き換え、悪から友を守れ!!
=STORY=
直毘モモ。いまは書道部部長で、フツーの中学二年生。
大好きな匠くんとはお付き合い中。平和な学校生活を送ってるんだ。
だけどあるとき、妹みたいに大切な後輩・りんねちゃんに異変が起き――?
『いみちぇん!! ふたたび、ひみつの二人組』
作:あさばみゆき 絵:市井あさ
発売日:2023年10月12日
ISBN:9784041138014
本体:1300円
〇本の情報はコチラ!
〇「いみちぇん!」シリーズページはコチラ!
〇つばさ文庫発の単行本「角川つばさBOOKS」のページはコチラ!
これからも、みんなとモモたちのきずなは「終天」だよ♡
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