この秋、『いみちぇん!! ふたたび、ひみつの二人組』が発売予定!

発売を記念して、昨年(2022年)に掲載した「きずなの短編 その二」をもう一度公開するよ♪
公開期間は、「きずなの短編 その三」と同じく、2023年12月31日(日)までだから、お見のがしなく!

書き下ろし最新作の舞台は、中学二年生の秋。この短編にも登場する、りんねちゃんが物語のカギをにぎる――?
発売日の10月12日(木)まで、どうか楽しみにまっていてね♪

七時半、縁がわにて

「おーはーよーっ!」
「うわぁっ!?」
 ぐっすり眠ってたわたしは、ふとんに飛びこんできたモノに悲鳴をあげた。
「モモおねーちゃん、おねぼうさんめずらしいねぇ」
 かけぶとんの上で、天使みたいにかわいいコが、くふくふ笑ってる。
 わたし――直毘モモは、寝ぼけまなこを何度もまたたいた。
「り、りんねちゃん」
「きのうゆうえんちで、つかれちゃったぁ? おばちゃんが、朝ごはんできたよ~って」
「あ、う、ううん。いま行く。りんねちゃんはちゃんと起きられてエラいねぇ」
 やっと頭が、夢の中から現実にもどってきた。

 りんねちゃんは、ミコトバヅカイの魁(さきがけ)、藤原千方センパイの「妹」。
 数日まえから、わが家にお泊まりしてるんだよね。
 わたしは今、マガツ鬼の大ギツネに、命をねらわれているらしい。
 しかもうちのママは、お役目のパートナーの矢神くんに「モモに危険なことをさせないで!」って、大激怒!
 千方センパイは、そんなママにたのまれて、わたしを守りに来てくれたんだ。
 すっっごくありがたいやら、畏(おそ)れおおいやらなんだけど。
 パパはりんねちゃんにメロメロになっちゃって、連日あっちこっち遊びに行こうって!
 きのうの土曜日は一日中、遊園地に行ってたんだよ。
 現状は難しいことがいっぱいでも、一人っ子でさびしかったわたしは、千方センパイとりんねちゃんと三人きょうだいみたいで、幸せな気持ちになっちゃう。
「りんねちゃん。千方センパイは、もう起きてる?」
「おこしたよぉ。でもまた、おふとんのミノムシさんになってる」
「あれれ。今日は二階? 縁がわ?」
「縁がわだよ~っ」
 二階の子ども部屋はセンパイ兄妹が使ってるから、わたしの部屋は、しばらく一階の仏間。
 パジャマを着がえてるうちに、りんねちゃんはピュンッとキッチンのほうへ走っていっちゃった。
 いっしょに暮らしてみて、初めて知ったんだけどね。
 千方センパイといえば、容姿端麗、才色兼備、文武両道で、完全無欠。
 だけど実は弱点があって、朝がものすご~~~~~くニガテなんだ。
 今朝は、階段をおりるまでは、がんばれたらしい。
 ひふみ学園中等部の王子さまの意外なすがた、……ちょっとかわいいよね。
 とはいえ、わたしはさすがに寝起きのままで、あの美しい人のまえに立つ勇気はなくって。
 縁がわにミノムシさんがいる日は、起こさないように、洗面所までコソコソと忍び足してる。
「起きませんように……」
 そーっとそーっとろうかを通りすぎ、いそいで顔を洗う。
 髪を二つにわけて、いつもの桃の花のヘアゴムをつけていると、
「おねーちゃんっ」
 鏡の下のほうに、りんねちゃんがひょこっと頭をつき出した。
「りんねもおそろいがいい」
「わたしと?」
「おねーちゃんといっしょ!」
「……うんっ。しようしようっ!」
 わたしはうれしくなっちゃって、彼女の後ろにしゃがみこみ、ふわっふわの髪をブラシでとかす。
 りんねちゃんは髪が短めだから、二つにわけて細いゴムで結んで。
 短い髪がぴょこぴょこ出てきちゃうのは、ヘアピンでとめる。
 しあげに、わたしが昔使ってた、プラスチックのさくらんぼがついたゴムでかざってあげる。
 よしっ、できあがりだ!
「りんねちゃん、すっごくかわいい」
「やったー!」
 彼女は大喜びで、縁がわのミノムシさんに見せに行く。
 ――が、「……うん……」と、かすかな声だけが、ふとんごしに聞こえたのみ。
 りんねちゃんはぷーっとほっぺたをふくらませ、リビングに走りさっていっちゃった。
「おじちゃーん、おばちゃーんっ。りんねかわいい! おねーちゃんといっしょだよっ」
 すぐにパパとママの、でれっでれのホメちぎる声が聞こえてきた。
 わたしもフフッと笑って、鏡台をかたづける。
 りんねちゃん、ホントに妹みたい。かわいいなぁ。
 そりゃセンパイも、ほんとの妹じゃなくたって、そんなの関係なしに愛しくなっちゃうよね。
「モモォ~、ついでに千方くん起こしてきてぇ」
「は、はぁーい」
 ひぇぇ、大変な係に任命されちゃった!

 ――そして、さわやかな朝日に照らされるミノムシさんをのぞきこんだ。
 やっぱりぴくりとも動くようすがない。
「セ、センパ~イ……? 朝ですよー……」
 頭があると思われるほうから、声をかけてみる。
 だけど、まるきり無反応。
「センパイ。千方センパーイ。おはようございます」
 だんだん声を大きくして、それでもダメだから、となりにヒザをつく。
 ちょっとゆすってみたけど、ふとんの下のかすかな寝息は、とっても正しい一定のリズムだ。
 ダメだ。
 こういう時、矢神くんだったら「起きろ、千方!」とか言って、ヨウシャなく文鎮で攻撃しそうだけど……。
 いやいや、そんなことしたら、冷ややかに笑うセンパイとの大バトルが始まっちゃうよ。
「モモォ、まだぁ~?」
「わわわ、わかってますっ」
 ママの声がわたしをせかす。
 ふとんをめくったら、まぶしくて起きるかな。
 めちゃくちゃ失礼な気がするけど、背に腹はかえられない?
 ごめんなさいっ、センパイ!
 そして中等部の王子さまのファンの人たちっ!
「センパイ、朝ですよーっ!」
 えいやっと心の中の気合いとともに、(だけど実際はエンリョがちに)はしっこだけソッとめくる。――と、
      ガシッ。
 手が伸びてきたと思うやいなや、肩を思いきり引っぱられた。
「うえぇっ!?」
 わたしは見事にバランスをくずす。
「……りんね、もうすこし、まって……」
 頭のうえにひびく、眠たそうでも、つややかな声。
 わたしは彼の胸に倒れこむすんぜんで、ギリギリ縁がわに腕をついてたえてるけどっ。
 後ろ頭を手で包まれて、これって、りんねちゃんとまちがって、わたしをダッコするつもりですか!?
 わ、あ、あっ。
 ついた腕がぷるぷるして、もう限界だよっ。
 た、たおれる……!

「セセセセセセセセンパァイッ! わたしですっ、モモです~っ!」

 必死の悲鳴に、センパイのまぶたがパカッと開いた。
 栗色の深い瞳が、おののくほどの至近キョリから、わたしを見つめる。
「…………おはよう」
 彼の手がゆるんだ。
 わたしはズバァッと後ろに飛びのき、そのまましりもちをつく。
「お、お、おはようございます……っ」
 しししし心臓に悪すぎるよ……!
「ちーちゃん、やっと起きたぁっ」
 りんねちゃんが、わたしとセンパイのあいだに、ぼふっと飛びこんできた。
「あのねーっ。おじちゃんが、今日はおかいもの行って、そのあと公園行こうって!」
「そ、そそそそっか。じゃあ、早くごはん食べなきゃねっ」
 わたしはいたたまれない気持ちで、あわてて立ちあがる。
「ちーちゃん、見て見て。りんね、おねーちゃんと髪の毛おそろいしてもらったのっ」
「ああ、ホントだ。かわいいね」
「あれぇ? ちーちゃんどうしたの? お顔がまっかっかよ」
 リビングへ脱走しかけてたわたしは、ギョッとしてふり返る。
 わたしじゃなくて、千方センパイがっ!?
 彼はりんねちゃんをひょいとダッコして、またいっしょに縁がわに転がってしまった。
「ちーちゃん! また寝ちゃダメェ!」
「りんね……、起こすならしっかり起こしていっておくれ。寝起きに、ふいうちはおどろく」
「おこしたもん~っ。ちーちゃんほっぺアッチッチね」
「……縁がわがぬくかったから、頭がほてったんだよ。また眠たくなってきた」
「おーきーてー!」
 お兄ちゃんにがっちりホールドされたりんねちゃんは、ジタバタもがく。
 あ、あぶないトコだった。
 わたし、あんなことされたら脈(みゃく)が止まっちゃうよ。
 心臓を上下にハズませたまま、よぼよぼとリビングへ出る。
 時計は七時半だ。
 矢神くんはもう起きてるかなぁ。
 午前中はシロちゃんと、大ギツネさがしのパトロールに出てそうだよね。
 わたし、ママの目を盗んで会いに行く約束だけど、……うまくいくかな。
 テーブルにおみそしるやお茶を運んで、ちょうど準備が終わったころ。
 ようやくちゃんと目のさめたセンパイが、となりに腰かけた。
「おはよう、モモ」
 その澄ました美しい横顔は、いつもどおり。
 目が合うと、ニッコリとほほ笑んでくれた。
「おはようございます」
「うん」
「お茶どうぞ」
「ありがとう」
 さっき、大あわてしちゃったのをからかわれるかな? と思いきや。
 彼はそれきり、その話題にはふれない。
 もしかして、あの千方センパイだってはずかしかった!?
 なんて、まさかもいいとこだよね。
 そもそもりんねちゃんとまちがっただけだし、気にするようなコトでも――、
「ちーちゃん、まっかっかだったの、なおったねぇ。よかったねぇ」
 りんねちゃんのむし返すムジャキな一言に、わたしは、そしてなぜか千方センパイまで、ゲホッとお茶にむせた。

    ※

      ぶちっ。
 スニーカーのくつヒモが、とつぜん切れた。
「不吉だな……」
 キツネさがしに出るところだったおれは、マンションの玄関ホールでしゃがみこむ。
「匠さま~っ? シロは準備万全ですよぉ。はやく行きましょー!」
「すまん。くつヒモを変えてくる。ちょっと待っててくれ」
「はーいっ! くつヒモって、よく切れますよねー。シロもぶっちんぶっちん、しょっちゅう大変です」
「そうそう切れるモンじゃないだろ。力まかせに引っぱってんじゃないのか?」
「あははー。シロはいつでも全速前進ですっ!」
 その場で足ぶみダッシュをはじめる真白を残して、おれは階段をもどる。
 じわじわと腹の底からわいてくる、イヤな気分。
 モモの家の方角を見やり、息をついた。
 となりの家に住んでるのに、近ごろまったく会えない。
 そのうえ、おれより近くに、というか同じ屋根の下に、よりにもよってアイツがいるんだ。
 正直モモに会いたいし、もっと正直に言うなら、アイツにモモのことを任せなきゃいけない今の状況が、ものすごく、くやしい。
 部屋の玄関にすわりこみ、新しいヒモを通しなおす。
 ……モモに指一本ふれてくれるなよ、千方。
 チョウむすびして、最後、思いきり引きしぼったヒモが、またぶちっと切れた。

武器は筆。文字を書き換え、悪から友を守れ!!

=STORY=
直毘モモ。いまは書道部部長で、フツーの中学二年生。
大好きな匠くんとはお付き合い中。平和な学校生活を送ってるんだ。
だけどあるとき、妹みたいに大切な後輩・りんねちゃんに異変が起き――?
 
『いみちぇん!! ふたたび、ひみつの二人組』
作:あさばみゆき 絵:市井あさ
発売日:2023年10月12日
ISBN:9784041138014
本体:1300円

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これからも、みんなとモモたちのきずなは「終天」だよ♡
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