この秋、『いみちぇん!! ふたたび、ひみつの二人組』が発売予定!
発売を記念して、一昨年(2021年)に掲載した「きずなの短編 その一」をもう一度公開するよ♪
公開期間は、「きずなの短編 その三」と同じく、2023年12月31日(日)までだから、お見のがしなく!
書き下ろし最新作の舞台は、中学二年生の秋。この短編からすこしあとの、モモと匠の物語。
モモの髪も、このころから少し伸びて……?
発売日の10月12日(木)まで、どうか楽しみにまっていてね♪
放課後のひみつの二人
部活(ぶかつ)の教室から、一年二組への帰り道。
渡りろうかは、すっかり放課後の色だ。
「ずいぶん、おそくなっちゃったな」
ひふみ学園中等部にあがって、もう四月が終わろうとしてる。
わたし、直毘(なおび)モモが入った部活は、もちろん書道部!
ず~~っとアコガレてた書道部に入れて、すっごくうれしくって。
光雪(こうせつ)先生と修行する日以外は、ほとんど毎日、部室に行ってるんだ!
あ、あとは、わたしの初めての生徒さん、日向(ひなた)ヒヨちゃんのレッスンの日以外は、かな。
彼女の作品は、毎回ゲンキいっぱい。
このあいだも、ラブレターを書くんだって熱中しすぎて。
半紙からハミだしたのにも気づかず書きつづけたせいで、ゆかが墨まみれ!
そうじはタイヘンだったけど、大笑いしちゃった。
と、ちょうどろうかの窓の下からも、きゃあっと楽しそうな声が聴こえてきた。
初等部のコたちが、追いかけっこししてる。
この時間だから、学童クラブの帰りかなぁ。
「あっ、りんねちゃん!」
集団のなかで一番ちっちゃく見える、まだ幼稚園生っぽい女の子。
上の窓から手をふるわたしに気づき、彼女は「あっ」と声をあげた。
「モモおねーちゃんっ!」
りんねちゃんが全力の笑顔で、ぶんぶん手をふり返してくれる。
「またりんねのおうち、遊びにきてねぇー!」
「うんっ。またセンパイのお部屋で、いっしょに書道しようねっ!」
彼女は笑って、友だちと走りさっていった。
藤原さんって中学生のおねえさんと友だちなの?
そうだよ。仲よしだよっ。
すごいねーっ。
低学年らしい高い声が、夕方の風にのって消えていく。
わたしは腕(うで)をゆっくり下ろした。
りんねちゃんが学校楽しそうで、ホッとしたな。
「でも、もしも千方センパイがいたら、センパイが、おむかえに来てたんだよね」
……なんて、どうしようもない事をつぶやいちゃった。
わたしは手に持ってた筆筒を、きゅっとにぎりこむ。
桃花も千花も、今はわたしの手もとにはない。
だから筆筒には、かわりに匠くんが作ってくれた筆と、りんねちゃんからもらった、センパイがのこした筆を入れてある。
ミコトバヅカイの御筆(みふで)じゃないから、ミコトバの術は使えないけど。
どっちも、わたしの大事な宝物だ。
色アセることない、あの美しい人のほほ笑みを思いうかべる。
それからキュッとくちびるをかみ、歩く速度を上げ、夕暮れの赤い陽ざしの中をくぐって行った。
※
剣道部はもうとっくに終わってるよね。
匠(たくみ)くん、先に帰っちゃったかな。
うちのクラスは角部屋。
奥に曲がるろうかは、あんまり人の来ない音楽準備室に続いてるんだ。
中学に上がってますます人気の匠くんと、ジミなわたしが、まさかのおおおおおつきあいしてるなんて知られたら、タイヘンだからっ。
待ちあわせは、そっちの奥のろうかに決めてるんだ。
もちろん、おたがい何時に部活が終わるかわかんないから、待てる時は――ってかんじで。
でもわたし、こっそり匠くんと一緒に帰れるのがうれしくて、けっこうな割合で待ってたりして。
となりの一組は、もう電気が消えてる。
みずきちゃんと陽太くんも帰ったみたいだ。
また、いつものクレープ屋さんで、朝子ちゃんやリオたちとも集まりたいなぁ。
そんなことを考えながら、二組の戸のまえを通りすぎようとして、
「直毘さんってさぁ。あの髪の色、染めてるわけじゃないんだよね?」
中からの声に、手が止まった。
う、うわっ、わたしの話っ!?
バッと真っ白の髪に手をあてて、筆筒を落っことしそうになる!
わたたたたっと危ういとこでキャッチしたけど、心臓はバクバクだよっ。
「オレもずっと気になってた。けど、本人に聞きづらいよなー。どうしたんだろ」
「初等部からのコの話じゃさ、まっしろになっちゃったのは、ついこの間なんだって。なんか怖いことでもあったのかな。恐怖体験で髪が真っ白になったって話、あたし聞いたことあるよ」
「そんなコトあんだ? なんかかわいそーだねぇ」
どうやら、中で女子二人と男子一人が、放課後井戸ばた会議をしてるみたい。
ど、どどどどうしよっかな。
ミコトバヅカイのチカラを使いはたしちゃったせいで、白くなっちゃったこの髪の色。
わたしは、あの戦いをみんなで生きぬいた勲章(くんしょう)みたいに思ってて、はずかしいとか、かわいそうなんて、ぜんぜん思ってないんだけど……っ。
いきなり割って入って、「大丈夫だよ」なんて説明しはじめるのもヘンだよね?
入り口に立ちつくして考えこんでたら、気がついてしまった!
ろうかの水道の鏡。
音楽室準備室のほうに、カベにもたれた匠くんが映りこんでる!
向こうからも死角になってるから、彼はわたしが来たのに気づいてない。
まぶたを下ろし、腕を組み――。
ピリピリというかビリビリする気迫が、鏡ごしにも伝わってくる……っ。
ひええええっ!
わ、わたしにはわかるよっ。
これ、カミナリを落とす直前のオーラだっ!!︎
教室のなかの会話、彼にもつつぬけになってるみたいデス!
「マジかわいそうだよな。まだ中一なのに、髪だけおばあちゃんみたいで」
ダメ押しの、男子の一言!
ぶちっ。
匠くんのこめかみの血管が切れるような音が聞こえた――気がするっ!
ゆらぁりとカベから背を浮かせる、彼!
ヤバイ!
わたしは言葉を用意する間もなく、大あわてで教室の戸を開ける。
「みんな、まだいたんだねっ!?」
声がウラ返っちゃった!
教室のなかの三人は、やっぱり予想どおりのクラスメイトたち。
ウワサの本人の登場に、みんなそろってギクリと凍りついた。
むかしのわたしだったら、今みたいなのは聞こえないフリして逃げちゃって。
あの人たち、わたしのことキモイって思ってるんだ……とか、グジグジしたかもしれない。
だけど。
わたしはミコトバヅカイの主さまで、仲間たちと一緒に、あの戦いをのりこえてきたんだからっ。
もう、言葉と心がもつチカラを、しっかり信じてる!
お団子ピンに指をあて、すううっと息をすいこんでから。
フリーズしちゃってる三人に、思いっきり、笑顔を作ってみせる!
「こっ、この髪の色は、いろいろあったんだけどね。でもわたし、今の色が気に入ってるんだ。だから心配しないで、大丈夫だよ」
しっかり心が通じるように、相手の瞳を順番に見つめていく。
みんなはハッとして息をのんだ。
教室は静まりかえっちゃったけど――。
「そっか……。なんか、変なこと言っちゃってごめんね」
「ちゃんと直接、直毘さんに聞けばよかったよね」
女子二人も笑いかけてくれる。
「ありがとう」
わたしのほうも、ちゃんと気持ちが通じたってわかって、ホッとしちゃった。
あらためてニコッと笑うと、男子が前に出てきて、イキオイつけて頭をさげた。
「ごめん、直毘さん! オレ、おばあちゃんみたいなんて、イヤな言い方した」
「あ、う、ううん。そんなの気にしないで」
「ちがうんだ」
「……ちがう?」
男子はサッと目もとを赤くして、だまりこんじゃう。
わたしはきょとんと立ちつくし、ほかの女子二人は、何やらハラハラドキドキって様子で、こぶしをにぎる。
「オレ、あんなコト言うつもりじゃなくて。照れて、スナオに言えなかったんだ……っ。ほんとは、オ、オレッ、直毘さんの髪の色、す、すごく、きれいだなって思ってた。入学式のとき、白い桜の花の下で、直毘さんを初めて見た時からっ。オレ――ッ、」
「モモ、帰るぞ」
後ろの戸がガラッと開いた。
そこに、なぜか真顔の匠くん。
「あ、た――矢神(やがみ)くんっ」
わたしはあわてて苗字呼びにもどしたけど、匠くん、今「モモ」って呼んだ!?
学校では今までどおり、苗字で呼びあおうってヤクソクしたのにっ!
「待ちくたびれた。モモ」
さらにもう一回だよ!
「あわわわわっ」
彼はわたしの手首をつかむと、「じゃな」と男子を見かえり、殺気だった視線を向ける!
うまい感じにまとまったトコだったのに、なんで殺気っ!?
「わっ、あっ、じゃ、じゃな……っ、矢神」
完全におびえきった男子と、キャアアッと高い悲鳴をあげる女子二人。
「い、いま『モモ』って言ったよね!? え、え、矢神くん、女子は苗字呼びすてなのにっ?」
「じゃあ、あの二人って!? うそぉ! 大ニュースじゃん! 牧野(まきの)さんに教えてあげなきゃっ」
バババババレた!!
「た、匠くんっ! 学校で名前呼びはダメだってばっ。それにあの人、なにか大事なことを言おうとしてたみたいなのに!」
ろうかを早足で歩きながら、わたしを引っぱる匠くんはチョーゼツ不機嫌だ。
「それに匠くん、なんでそんな怒ってんのっ?」
彼はピタリと足を止める。
さっぱりワケがわからないわたしを、じいいっと見つめると……。
額に手をあて、今度はだまっちゃった。
「…………あいつが、あわれになってきた」
「あわれ? どうして?」
「むかしの自分を見ているようです。主さま」
「???」
?マークを飛ばしまくるわたしに、匠くんはプッと笑った。
「モモは、だれにも渡さんって話だ」
「え……っ」
放課後の赤い光のなか、彼はちょっと困ったような笑みをうかべる。
それをまともにモクゲキしちゃって。
わたしは顔面にカァァァッと血がのぼっていく!
「夕焼けより赤い」
彼は優しく笑いながら、わたしのほっぺたを指でなでる。
わたしはますます頭がふわふわクラクラして、
「わああ!」
あやうく階段をふみはずしそうになった!
武器は筆。文字を書き換え、悪から友を守れ!!
=STORY=
直毘モモ。いまは書道部部長で、フツーの中学二年生。
大好きな匠くんとはお付き合い中。平和な学校生活を送ってるんだ。
だけどあるとき、妹みたいに大切な後輩・りんねちゃんに異変が起き――?
『いみちぇん!! ふたたび、ひみつの二人組』
作:あさばみゆき 絵:市井あさ
発売日:2023年10月12日
ISBN:9784041138014
本体:1300円
〇本の情報はコチラ!
〇「いみちぇん!」シリーズページはコチラ!
〇つばさ文庫発の単行本「角川つばさBOOKS」のページはコチラ!
これからも、みんなとモモたちのきずなは「終天」だよ♡
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