本記事では立替払いと貸金業の考え方について整理します。
貸金業法上の「貸付け」とは、金銭の貸付けである金銭消費貸借契約だけでなく、「手形の割引、売渡担保その他これに類する方法によってする金銭の交付1」を含むと解されています。必ずしも外形的に金銭消費貸借契約が締結されている必要はなく、経済的側面や実態に照らして、その立替えの目的が相手方に対する資金融通(信用供与)にあるかどうかにより、貸付該当性は判断されます。
この点、立替払いは、ある債務者が負担する金銭的債務を、第三者(事業者)がその債務者の代わりに立て替えて債権者に支払うことをいいます。立替払いは、第三者が債務者に代わって債権者に立て替えて支払うため、事実上、債務者が一時的に資金を工面する必要がなく、また、本来の弁済期限に比べて一時的に支払いの猶予を受けているといった経済的効果があることから、資金融通(信用供与)の側面があることは否定できません。そのため、立替払いが貸金業法上の「貸付け」に該当しないかが問題となります。
過去に問題となった立替払いと貸金業の論点が判断された事例として3件公表されています。
①2018(平成30)年12月20日グレーゾーン照会2:賃金前払いサービス(貸金業否定)
照会者は給与前払いサービスの導入企業と業務委託契約を締結し、導入企業の従業員と利用規約を締結して、従業員の申請に応じ、従業員の勤怠実績に応じ賃金相当額を上限として申請された金額を従業員に支払います。導入企業は、従業員に対する前払額の合計額、銀行振込手数料及び業務委託手数料を照会者に支払います。なお、導入企業は、サービスを利用した従業員に対して、従業員の沈金から前払額の合計額、銀行振込手数料、業務委託手数料を控除した金額を通常の給与支払日に支払う。照会者による従業員に対する給与の前払いが導入企業に対する貸付けに該当しないかが問題となりました。
金融庁の回答では、貸金業法上の「貸付け」には、経済的側面や実態に照らして判断されるところ、(1) 経済的効果3の点では、(a) 導入企業は従業員からの申し出に応じて給与前払を行うことは可能な者であることが前提であること、(b) 毎月1回以上支払われる給与の極めて短期間の立替えであること、(c) 前払額を導入企業から都度回収する煩雑さを回避するため一定期日にまとめて回収するものであることを挙げ、導入企業による後払い(=導入企業に対する信用供与)が本質的な要素とまでは言えないとしました。
また、(2) 貸付け実行の判断の有無では、(d) 照会者は、従業員から申請された金額を勤怠実績に応じた賃金相当額を上限として支払っていること、(e) 導入企業に対する手数料は、「前払額の一定割合」又は「申請件数×固定金額(数百円)」のいずれかを導入企業が選択し、かつ、委任事務に係る手数料が導入企業の信用力によらず一定であることを、を踏まえ、照会者が自ら貸付けの実行判断を行っているとまでは言えないとしました。
以上より貸金業該当性は否定されました。
②2019(令和元)年12月25日グレーゾーン照会4:教育機関の負担した医療費実費の立替払い(貸金業否定)
照会者は、教育機関と業務委託契約を締結し、また、教育機関は事前に保護者から照会者のサービスに係る同意を得た上で、教育機関が宿泊学習中に生徒児童が医療機関を受診した際に医療機関に支払った医療費実費について、照会者が教育機関に支払い、後に照会者は生徒児童の保護者から医療費実費とサービス利用料の支払いを受けます(なお、照会者が保護者に対して立て替えた医療費実費の回収は、通常、請求から1か月程度を想定しています)。
金融庁の回答では、貸付該当性について、立替えが相手方に対する資金融通(信用供与)を目的として行われたものであるか否かについて、その経済的効果や貸付の実行判断の有無に照らして実質的に判断するとしました。そして、(a) サービス利用料は、(i) 単価数十円に生徒の児童の人数及び旅行日数を乗じたものである少額であること、(ii) 保護者の信用力に応じて変動するものではないこと、(iii) 立替払いの発生の有無、立替期間や立替額にかかわらず一定であること、(b) 立替は教育機関が支払った医療費の実費を立て替えるものであること、(c) 立替えの対象となる医療費は、宿泊学習中という限られた期間に発生するものであること、(d) 立替えは、保護者の資金需要を判断して実行されるものではなく、また、保護者においても信用供与を期待しているとまでは言えないこと、を踏まえて、保護者に対する資金融通(信用供与)を実質的に目的とするものではないとして、貸金業該当性を否定しました。
③2022(令和4)年11月2日ノーアクションレター5:請求書の支払代行サービス(貸金業肯定)
照会者は、個人事業主、フリーランス及び法人(「利用者」)向けに、金銭債務の支払いを代行する立替払いサービスの開発・運用を予定し、利用者のサービスの利用申込みに際し、利用者に確定申告書、その月収の申告及び入金が確認できる証明書等を提出させます。当社は、利用者から提出された書類を踏まえ各利用者ごとにサービスの利用上限額を設定します。審査が完了すると、照会者は利用者からの申込みを承諾し、申込内容に従い、照会者から振込先に送金を行い、立替払いを実行します。利用者は、照会者が立替払いをした日の属する月の翌月末までに、支払金額に10%を乗じたものを加えた金額を当社に支払います。
金融庁の回答では、特に理由等を示すことなく、照会者のサービスは貸金業に該当するとしていますが、従来の考え方を踏まえると、貸付該当性については、立替えが相手方に対する資金融通(信用供与)を目的として行われたものであるか否かについて、その経済的効果や貸付の実行判断の有無に照らして実質的に判断するものと考えられます。
(1) 立替えの目的について、照会者は、サービスの内容について、「取引先への送金業務を、照会者への申請という簡易な手続で済ませることにより、利用者にとって取引先への支払いを失念させる危険を減少させ、また利用者を煩雑な支払い業務から解放し本来の業務に専念させることを利益として提供するもの」とし、信用供与目的を否定する主張をしています。しかし、立替払いの都度、利用者から照会者への申請が必要であり、さらに、翌月末までに利用者と照会者との間で資金の精算を行う必要があることから、サービスを利用しない場合に比べて、特段の事務の効率化・簡便化が図られるものではないと考えられます。
(2) 経済的効果について、利用者は照会者が立替払いを行った日の属する月の翌月末までに照会者に支払いをすればよく1か月以上の資金融通の経済的効果を受けること、利用者は個人事業主やフリーランス等を含めて想定していることから利用者の支払能力を補完する目的で使用される可能性が高いことを踏まえると、資金融通(信用供与)の経済的効果が肯定されます。
(3) 実行判断の有無について、照会者は貸付金額について月収等に応じて利用上限額を個別に設定しており、これは信用力に応じて貸付けの実行判断を行っていると考えられます。また、手数料について、立替金額に10%を乗じた金額としており、照会者がその業務の目的として主張する決済代行業務の対価としては過大と考えられ、利用者の信用リスクを踏まえた資金融通(信用供与)の対価としての性格である側面がうかがわれます。
以上を踏まえると、立替えの目的が資金融通(信用供与)のものと認められ貸金業に該当すると判断したものと考えられます。
まとめ
以上のとおり、貸金業法上の貸付該当性は、立替えが相手方に対する資金融通(信用供与)を目的としているか否かについて、その経済的効果や貸付けの実行判断の有無等に照らして実質的に判断することとなります。そして、立替払いは、第三者が債務者に代わって債権者に立て替えて支払うため、事実上、債務者が一時的に資金を工面する必要がなく、また、本来の弁済期限に比べて一時的に支払いの猶予を受けているといった経済的効果があることから、資金融通(信用供与)の側面があることは否定できません。そのため、立替払いのかかる側面に対し、どれだけ他の要素を踏まえて、立替えの目的が資金融通ではないといえるかどうかを総合的に考慮して判断することになります。
2018年のグレーゾーン解消制度の事案では、照会者の導入企業に対する立替期間は極めて短期間であること(≒給与は毎月支払われるもので、最長2か月間)、導入企業が照会者に対する支払いを一時的に猶予されるのは導入企業側の資金融通の事情ではなく照会者が導入企業から都度支払いを受けるのは煩雑であり照会者の便宜のため一定期日にまとめて支払いを受けるものであること、手数料は導入企業の信用に拠らず一定であること、等の事情により立替えの資金融通の側面を否定するだけの事情があり、総合考慮の結果、貸金業該当性が否定されたものと考えられます。
2019年のグレーゾーン解消制度の事案においても、保護者に対する信用供与の目的を否定する事情が多くあり、サービス利用料が少額であり保護者の信用力に応じて変動せず一定であること、立替えの対象となる期間は生徒児童の宿泊学習中という短期間のものであること、立替えは保護者の資金需要を判断して実施されるものではなく保護者においても信用供与を期待しているとまでは言えないこと、等の事情により貸金業該当性が否定されました。
一方、2022年のノーアクションレターの事案においては、事業者の主張するような、利用者を煩雑な支払業務から解放する目的や、手数料10%が決済代行業務の対価としての性質は認められず、立替えの目的として信用供与の目的を否定する事情が認められず、また、利用者の信用に応じた上限額の設定など貸付実行の判断を肯定する要素が認められることから、立替えの目的として信用供与であることが認められ、貸金業該当性を肯定したものと考えられます。
- 貸金業法2条1項 ↩︎
- 照会書:https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/press/181106shokaisho.pdf
回答書:https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/press/181220_yoshiki.pdf ↩︎ - 経済的効果の判断においては、従業員への前払額は賃金であり、従業員が照会者に返還する必要がない点を認定していますが、この点は照会者の従業員に対する貸付該当性を否定する要素と考えられ、照会者の導入企業に対する貸付該当性を判断する上では(労働法上の論点を措くとして)直接関係するものではないと考えられます。 ↩︎
- 照会書:https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/press/191128_shokaisho.pdf
回答書:https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/press/191225_yoshiki-2.pdf ↩︎ - 照会書:https://www.fsa.go.jp/common/noact/kaitou_2/kashikin/024_15a.pdf
回答書:https://www.fsa.go.jp/common/noact/kaitou_2/kashikin/024_15b.pdf ↩︎
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